表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/55

43

 マシューからジルを狙う手合いが迫っている事をエラが聞いた日。

その日もいつもの通りタリーに連れられ、ジルは塔の上にいる。


 そんな事は知らない男達は、やはり屋敷に入り込もうと警備の手薄な箇所を探したのだが侵入に失敗した。

その晩、街中に用意したアジトの一室に集まり、安い酒を啜りながら明日からの思案をすれば自然と愚痴が溢れ出てくる。


「ここは本当に厄介な所だな…俺は雇われりゃあちこち何処でも行ったもんだ。だから大体ここら辺なら忍び込めるって場所は長年の勘で分かるもんなんだ。それがここじゃ全く通用しねえ。ちょっと踏みこみゃワラワラと兵隊が湧いてきやがる。一体ここはなんなんだよ」

「ブツクサ文句言うんじゃねえよ。全く聞いてるだけでめんどくせえ。酒が不味くなるじゃねえか。言ってる暇があるならさっさと入り込む場所探して、金髪で緑の目の女がここにいるのか確かめろってんだ」


 男達が汚い口調で罵り合うようにやり取りする。

既に昼夜を問わず何度も侵入を試みているが、悉く失敗しているのでうまく事が運ばない事にイライラし、お互いギスギスし始めている雰囲気は感じていた。

同じ顔ばかり毎日見ているのにもウンザリで、そろそろ片を付けたい頃だ。


 男達を雇い、ターゲットの情報を与えた男は他にも数組のならず者や裏稼業の者達を雇っている様だった。

まるで競わせる様に先にターゲットを見つけた者、連れてきた者達にそれぞれ上乗せの莫大な報酬を支払うと言っていた。そう言われてしまうと他の者達に負けたくはないし、上乗せされる金額までも手にしたくなる。

しかしこれまで同業者と鉢合わせした事は無いので、それぞれ目星を付けた所に散っているのだろう。


 今日の侵入も失敗した所で、安全を考えれば数日は時間を開けたい所だが、そろそろ他のチームがいつ女を見つけ出すか分かったものではない。焦りもあり雑談の様な話し合いの結果、明日も侵入を試みる事になった。

直接屋敷に侵入するのは諦め、この国の軍の訓練着に似た格好で軍の敷地に紛れ込み、そこから屋敷の方への侵入を計画したのだった。


 翌日、5人の男たちは赤土の剥き出しになった軍施設の中程を歩いていた。

「はは、ざまあねえな。やっぱり軍人どもは頭が足りねえ。あっさり中に入り込めちまった」

「うるせえぞ。無駄口叩いてねえで屋敷に紛れ込めそうな入り口探せ」

そこらで見つけたガラクタを運ぶフリで、屋敷のほど近くまで侵入出来た男たちが小声で会話する。

あまりキョロキョロしていると見つかりかねない。ガラクタを小屋陰に放り投げ、今度は敷地内の巡回をするフリをしながら、やがて小さな門を見つけた。


「監視もいなそうだ。あそこから行けそうだな」

「簡単なもんだ。最初っからこうすりゃ良かったな」


 そっとあたりを見渡して誰もいない事を確認してから門を越え、屋敷の裏庭らしき所に入り込むと、草木に阻まれた少し離れた所に立つ一人の金髪の女の後ろ姿が見えた。

女は探し物でもしているのか、ウロウロと木陰を掻き分け、ドレスの裾が汚れる事も厭わずその先を覗き込んでいる。


 途端にいきり立つ一人が口から唾を飛ばしながら、それでも何とか小声で仲間に言う。

「おい!おい!見つけたぞ金髪女だ!あいつがターゲットじゃねえか?」

「待て、金髪女なんかこの国にそこそこいるんだ。目の色も確認しなきゃならねえ」

「どうせツラ見るんだったら今ここでとっ捕まえちまって、そのまま連れてズラかれば良いんじゃねえか?そうすりゃ更に褒美をガッポリ貰えるだろ」

「そうだな、下手にツラ見ようとすれば騒がれるかもしれねえ。同じ面倒なら当たりに賭けても良いかもしれねえ」


 草陰に隠れて女を遠巻きに見つめながらコソコソ男たちは相談を始める。

その内一人の男は準備の無い、行き当たりばったりのこの作戦に反対したが、金に目が眩んだ他の男たちに負け、女を誘拐する事に決まった。

別人だとしても女であれば使い道はいくらでもあるものだという結論になったのだ。


 捕まえた女を入れて運ぶための大きな道具箱を探しに、男たちの中の一人が軍の倉庫へ向かった。

残る男たちはそのまま草陰伝いにに隠れながら女に近づいていく。

「こっちは四人もいるんだ。手分けして女にデカい声上げさせる前に気絶させちまおう」

作戦などあったものでは無い。したのはそんな雑な話し合いだけだ。


 男たちはそっと女の背後に立った。

それなりの仕事はしてきた者たちだ。気配などすっかり消して近づいたはずだった。


 ところが気付けば三人が倒されていた。それぞれの周りに血溜まりが出来ていて、倒れた男たちはもう手の施しようの無い致命傷を負ったのが一目で分かる。

呆然と立つ残された男一人は、それでも何が起きたのかは全く理解できていなかった。


「ここ最近チョロチョロしてるのはお前たちか。とりあえず一人残せば大体の話は聞けるだろう」

いつの間にか振り返っていた女は、ずるりと自ら鬘を引き剥がした。金髪の下から茶色の髪が現れる。

「お…お前…」

「雑な変装の擬似餌でこんなに綺麗に食いついてくれるとは思っていなかったが、まさかこれほど入れ食いとは。今回はバカばっかりで有り難かったな」

「なんだと!?」

「ははは、だがその通りだろう」


 笑い声こそ上げているが、全く笑っていない目で女は言う。

女から底知れない覇気を感じて男は逃げ出したい気持ちでいっぱいなのだが、その様な隙は一切見つけられない。

恐怖から思わず男は腰の剣を引き抜いてしまった。

その刹那、手首に氷を当てられたかの様な感覚の後に熱が走る。

握っていたはずの剣が芝の上に落ちているのが見える。


「ぎゃあああああ!」

「話すだけなら手も足もいらんだろう。しかしうるさくなってしまったな…大人しくしているなら手首だけにしてやるから」

そう言う女の声に反射的に自分の手を見てしまって男は後悔した。手首から先が無くなっていて血が噴き出している。

「うわぁああ、どうなってんだ」

「まあ、そう言うことも含めてこれから話し合おうか」


 屋敷の方からも軍の敷地の方からも何人もが駆けつけてくる様な物音が聞こえてきている。

大勢に囲まれる前のこれが最後のチャンスと察した男は、痛む手首を押さえながら、咄嗟に身を翻して逃げようと試みた。すると今度は足首に先ほどと同じ様な痛みが走る。

もんどりを打って倒れた男は、どこを押さえれば良いのかわからない痛みに悶絶した。

「だから大人しくしてりゃ良いものを自分で傷を増やしてどうするんだい?仕方ないから腱を切ったからね。君は自分じゃもう歩けないよ。今運ばせるから悪いがもう少し待っててくれ」


 周りを囲まれた事を知りながらも、もう男はどうする気も起きずに、痛む手足を押さえてただ泣き喚いていた。

そんな男の側に引き倒された者がいた。

恐る恐る見やると、さっき女を隠して運び出すための箱を探しに行った仲間の一人だった。

こちらも酷い有様だ。


「おや、もう一つ生きてる口が増えましたか?」

「エラ殿…それは囮のおつもりだったのですか?」

倒された男たちの頭の上で、あの得体の知れない女へ誰かが話しかけている。

「有り物の変装しか出来なかったので、私もこのクオリティの餌に食いつくバカなど居ないかと思っていたのですけどね、居ましたよ!五匹も!バカどもが!

あちらから食いついて来なくても、せめて自分で見つけようと思って敷地の入り込まれそうな所を探してたのですが、ははは!まさかの入れ食いで私の方がびっくりですよ!」

「笑い事ではございませんよ。客人自らこの様な…まあでもそろそろウザくなってきていたネズミ退治が出来たと思えばありがたいものです。さすがチューダー軍仕込みですね。この太刀筋は…ほう、なかなか美しいものです」


 色男がジロジロと仲間の死体を眺めている。

時々うっとりとした目線に変わるのが気色悪い。

本当になんなんだこいつらは。

しかもチューダーだと!?ビンゴだったんじゃねえか!

あの時引き返して、金髪女が公爵邸にいるっていう情報だけ依頼主に持って行けばそこそこの報奨金を得られたのか!


 俺たちは賭けに負けた。

それに気付いたのはもう何もかも手遅れになった今だ。

血止めの治癒はされたが、痛む所の治療さえもされないまま、半死の仲間と引き摺られて行く先は何処なのか。

俺にはもう分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ