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「それにしてもその…すかんつですか?不思議な衣装ですね」

 毎日訓練場に通う様になったエラは、数日に一回程度の頻度でマシューと顔を合わせる様になっていた。


 マシューの言葉を聞いて、エラはちらりと視線を下げてスカンツを少し摘み上げる。

「こちらですか?」

「ええ、初めて見た時は普通の庶民が身につける様な、膨らみのないスカートかと思っていたのですが、どうやら違う様だと最近気づきまして」

どうもそういう事には勘の鈍い男で…とマシューが頭を掻く。


「こちらはお嬢様が女性の乗馬のために考え出された物でして、我が国ですら然程広まっておりませんので、マシュー殿がご存知ないのは当たり前です。

本来ならば軍で支給される様な訓練着が一番動きやすいのですが、私の場合はお嬢様に付き添っている際の有事に、動きにくいドレス姿でもどれだけ動けるかの想定をせねばなりませんので、このスカンツが今の私にとって一番の訓練着となるのでしょうね」


 エラも剣の訓練はするが、実は幼い頃から軍で叩き込まれたのは、ドレスの中に隠し持つことにできる武器を使っての接近戦と、エラ自身の身を呈してでもお嬢様を守り切る護衛術だ。


 先日マシューと模造剣を使った組手稽古をさせてもらった際には、エラの間合いに踏み込もうとしたマシューへ無意識にローリングソバットをかまそうとしてしまった。

久しぶりに強い相手へ遠慮なく技を繰り出せる楽しさに、エラはつい我を忘れてしまっていたのだ。

 さすがはカーン領軍副司令官だけあってマシューは難なく避けてくれたが、事前の約束もなく剣技の訓練から肉弾戦へ持ち込もうとした事をエラは平謝りする事となった。


「なるほど…そう言った意味合いもありその様な出立での訓練なのですね。

ジルヴィア様は多数の発明をなさる聡明なお方だとお伺いしておりましたが、美術品もかくやと言われる様な美しいものばかりではなく、そう言った生活に則した発明までもをなさっておいででしたか。素晴らしい事ですね」

「うちのお嬢様は天才ですので!」

 得意げに鼻の頭を突き上げて主自慢をするエラは、ここぞとばかりに、特別にあちこちにあしらわれたスカンツの暗器用の秘密のポケットをマシューに説明し始めた。

 ドレスメーカーのマダムのダフネにあれこれ相談しながら付けてもらったポケットだ。


 興味深げにふんふんと相槌を打ってくれるマシューに気を良くしながら、エラが話し続けていると、背後から気配がして二人は同時に振り返った。

二人の視線を受けた軍服の青年は、訓練場入り口で敬礼をして「ご報告がございます」と言った。


 マシューが部下から報告を受けている間、エラは少し離れた所で素振りをしていた。

やがて青年がエラにも黙礼をしてから訓練場を出て行き、マシューがエラの元に戻ってくる。


 少し渋い顔をしたマシューにエラが目線で問うと、実は…とマシューが口を開く。

「この屋敷の敷地の周りには結界とは言えないほどの魔術が薄く敷かれているのです。魔道具によって侵入者を弾く事は出来なくても察知が出来る程度のものです。

そしてそれにひっかっかった気配があると…まあこれまでも何度かある事ですのでいつもの通り対応した様ですが、時期が時期ですので念には念を入れております。

更に言えばここ最近は引っかかる頻度が上がっているのです」

「頻度が上がっている?」

「はい、ジルヴィア様がご滞在なさる様になって暫くしてからでしょうか。精霊結界が強化される前に我が国に上手く入り込んでいる間諜もなくはないですからね。

以前からジルヴィア様の護衛であるエラ殿のお耳にも、ぜひ入れておかねばとは思っていたのです。ですのでこの度はいい機会でした」


 敷地周辺のセンサー機能などは機密であろうに、それすらも明かしてくれたマシューには頭が下がる。

「ご丁寧にありがとうございます。常にお嬢様の周辺に危機が迫っている事を肝に銘じさせていただきます」


 お互いに軍人の顔に戻った二人は深く頷き合った。

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