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 デニスにジルの結界の中でも、一番太い地脈近くに当たる場所へ抱えて連れてきてもらった。

現地で見るジルの結界はまだ弱々しいが確かに地脈から魔力の流れを吸い上げている気配がする。


「これがジルの作った結界か。よくぞ頑張った!」

すっかり祖父バカを発症しているデニスは、感慨深げに周囲を眺めていた。

そんなデニスを無視して、ジルはやりたい魔法を頭に強く描く。


チューダーを壊すものはいらない。

チューダーを害するものはいらない。

それは人でも物でも魔物でもだ。

チューダーを守りたい。人も土地も。

発動条件は…戦争はいらない。侵略と奪略は許さない。

それが基本。あとは琥珀が考えて。

どうすれば守れるかを。


 そう念じて地脈から流れ込む琥珀色の魔力に、ジルの魔力を混ぜ込み下流へ流す。

しかしチョロチョロしか流れ込む気配しか感じない地脈からの魔力に歯痒く思ったジルは、魔力を纏わせた両手で引き摺り込むように力づくでパイプに誘導する事も併せて行った。

森の地下を流れる魔力のか細い小川に、ジルはただひたすらにイメージを祈りを込めて流し続けた。


きっと渋っていたタリー様が、私に結界を作る事を最後に許してくれたのはこのせいね。

私だけの力ではきっとこの結界は完成しないのだわ。

だけど…私には前世チートがあるんだもの。きっと大丈夫。

前世で鍛えた想像力で、タリー様並みまではいかなくとも、絶対にそれなりの結界を作ってみせる。


 始めてからどれだけ時間が経ったのか。

肩に置かれた手のひらに気づいて顔を上げた。

「ジル、そろそろ日も暮れるしジルの魔力も尽きる。屋敷に送ろう」

そこにいたのはデニスではなくタリーだった。


 あれ?と思って立ちあがろうとするとジルの体が傾いた。

「無茶をし過ぎだ」

ジルの体を抱えると、玄関先まで送ってくれるいつもと違って、ジルの部屋にタリーは跳んだ。


 タリーはそっとジルをベッドに横たえると指を振り、屋敷のどこかにいるはずのエラを呼んだ。

「今日はよく食べてよく眠るのだ。そうしないと魔力が戻らないからの」

慌ててやって来たエラにも同じ事を言い置き、タリーは消えていった。


 魔力切れ寸前で帰って来たジルにしこたま説教しながらも、エラは甲斐甲斐しく面倒を見てくれた。


タリー様も私を置いて消える時、結構呆れた顔してたよね…エラもかなり怒ってるし。

二人からもう手に負えないって見捨てられたらどうしよう。


 ジルがそんな事を考えているうちに、まずは先にとエラはテキパキとジルの顔や体を拭き、温かい食事を供して、食後のデザートまでジルに食べさせた。

エラが入浴の準備をしている間にと出されたホットミルクを飲んでいるうちに、どうやらジルは眠ってしまった様だ。


 カーテンの隙間から差し込む朝日で目覚めたジルは、エラの介抱のおかげかスッキリ元気に目覚める事ができた。

心配気に起こしに来たと言うより、様子を見に来たエラに感謝を述べる。


「エラ!昨夜はありがとう。おかげで今朝はとっても調子が良いわ。きっとエラのおかげね!」

「そんなおべっか使ったってダメですよ、お嬢様。

昨日は気を失う様に寝てしまわれたのですよ!また魔力切れなんて起こして帰ってきたら、部屋に閉じ込めて二度とお外には出しませんからね!」


 エラは心配した分、相当おかんむりの様だ。まるで口調が乳母の様になっている。ジルの伝家の宝刀の『上目遣いごめんね』も通用しなかった。

更に迎えに現れたタリーもエラと一緒に怒り始めた。

「私はデニスにも怒ったのじゃ!一緒にいたというのに何故ジルをあの様な状態にまでしておるのだと!」

どうやらデニスにまでとばっちりが行ったようだ。後でお詫びせねばとジルは思った。


「ジル!聞いておるのか!」

そんな事を考えていると、それに気づいたタリーから一際大きな雷が落ちた。

「ごめんなさい。これからは気をつけてやるようにしますので許して下さい」

眉を逆立たせ、今まで見た事がないくらいの勢いで怒っているタリーにジルは尻込みする。


タリー様も珍しくめっちゃ怒ってる…無茶しないって約束してたのに、ヘロヘロになって帰ってきたんだもん。

私を父様と伯父様からよろしくねって預かり物してる身としたらそりゃ二人とも怒るよね。


 ジルが思わず目尻に少し涙を浮かべてタリーを見ると、今度はタリーが慌てた。


「いや!いやいや、ジルを泣かせるほど怒った訳ではない!いやそれも違う!私は怒ってなどおらぬ!魔力切れは命にも関わるゆえ心配しただけなのだ。単なる心配じゃ!なあ、なあ!ジル!お願いだ!泣くでないよ」

ワタワタと両手を上げたり下げたり、ジルをどうやって泣き止ませようか焦るタリー。

その隣でエラは説教役として全く役に立たないタリーにまで睨みを効かせ始めている。


「いいえ皆を心配させた私が悪いのです」

「いや、分かってくれたらそれで良いのだ。

ほれほれジル、じゃあ今日はこれから街に出て甘い物でも食べに行くか?それともドレスの話でもするのにデニスを呼び出すか?なんでも良いぞ?ジルのしたい事をしよう。な?ん?どうする?」


 明らかに魔法からジルを遠ざけようとタリーがしている事が分かる。この間まで魔法の素人だったジルだ。

タリーからしてみれば、話の流れから弟子として魔法を扱わせてみたものの、想像以上に加減も何もあったものでないジルを心底に心配してくれているのだろう。


 それは痛いほど感じていたがジルではあったが思い切って言った。

「あの…昨日と同じく、魔力を流しに参りたいです。絶対に無理はしないと誓いますので」

「……ジル…それは」

「タリー様お願いです。故郷が心配なのに他の事をする気にはなれないのです。万に一つでも可能性があるならば、それに賭けたいのです」

心の奥底からの願いを込めてタリーに希望を伝える。


 頭を掻きながらはぁっと一つため息を吐くと、タリーは分かったとジルに準備する様に言った。

エラからもくどいくらい無理無茶しない様にと姿が見えなくなるまで言い含められ、タリーに連れられジルは屋敷を出た。


 皆から怒られすぎて神妙な顔をしたジルをタリーは昨日と違う場所に連れて行った。

「ここの地脈からも一本結界へ太いパイプを繋げておる。ここから流し入れるのも循環への効率が良かろう。

だがこれだけは約束するように。私の作った結界からは出る事はしてはならぬ。

お前の作った結界はまだ本格的に稼働している訳ではないからの。どんな危険があってもおかしくはない。必ず私の結界の中にいるのじゃ。必ずぞ」


 なんだかんだ言っても結局は優しいタリーに、ジルは感謝の気持ちしかない。せめて言いつけを守るように心に誓う。

「はい!タリー様ありがとうございます」


 タリーはジルが座り込む場所に絨毯を敷き、クッションを置いた。森の中なのでそれほど日差しは入り込まないというのに、大きなパラソルまで立てた。

タリー自身は海辺にあるようなサンベッドに身を横たえ、ジルの監視を続けている。


これはもう、他所から見たらちょっとしたピクニックの様に見えるんだろうなー

緊張感はどこ行った…


 一頻り昨日と同様に地脈から魔力を引っ張り出しつつ、琥珀AIを構築するべく魔力を流していると、タリーから休憩を取る様にと声が掛かった。

素直にジルはタリーの出してきたピクニックセットに座った。


…とうとう本格的なピクニックになっちゃったよ。


 タリーが入れてくれた甘いお茶を飲み、軽食と甘い菓子をつまむ。

「人間の魔力補充にはやはり寝る事と食事をとることが一番だからの。特に甘い物が良いぞ。ほれチョコレートも食せ」

給餌の様に、甲斐甲斐しくジルの口にタリーが手ずから次から次へと運び入れる。


 木々の隙間から木漏れ日の注ぐ、ゆったりとした時間の中でもぐもぐと口を動かしながら、こう落ち着いてみるとジル自身も疲れていた事を実感していた。

「タリー様ありがとうございます。こうしているとやはり、魔力を使うのは結構疲れるものなのだと感じます」

「であろう。特にジルはまだ慣れておらぬゆえ、加減も分からぬのじゃ。存分に気をつけるのだぞ」

やっと完全にタリーの機嫌も直った様だ。ジルもホッとして二人で笑い合った。


 また作業を始めてしばらくすると、タリーが急に立ち上がった。

何事かとジルも意識をタリーに向ける。


「来ているのう…何人かが私の結界にちょっかいを出している様だ。

ジルよ。絶対にここを動くな。絶対に無理はするな。

私は必ず戻って参るからそれまでここにおるのだ。守れるか?」

森の端の方を睨みながら、タリーはジルに語りかけている。怒気の滲み出た様子に尻込みしながらジルが何度も頷いたその瞬間、タリーは掻き消えた。


こんなとこまで国軍が入り込んでるって事?

チューダーを陥したらフォーサイスまで攻めるための下調べなのかな?タリー様の見ていた方向は国境よりストークスの土地の半ば辺りだわ。結界伝いに遡って来てるのね…まさか結界の穴を探しているの?


 とにかく国軍も雪解けを待っているだけではないことが分かった。ジルも急がねばならない。

少しでも作業ピッチを上げるべくジルは作業スペースに戻った。

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