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 ジルは有らんばかりの力を振り絞って、その日のうちに結界をチューダーの領地へ張り巡らせた。


 倒れ込みたいくらいへとへとに疲れ切っていたが、時計台へと戻ってきたタリーによって屋敷に帰された途端に、伯父の執務室へ走った。


「伯父様!」

 使用人に先触れをさせる事もなく、急に現れたジルを伯父は何も言わずに執務室へと招き入れた。

「どうしたんだい?そんなに慌てて」

「伯父様、私、塔の上から国軍が平原に陣を置いたのを見ました。一体どうなっているのですか!?」


 ジルの言葉を聞いて、バレたかという様な顔をして伯父はこめかみを人差し指で掻いた。

「あー、そうか。ジルは知ってしまったのか。

君の父上からは口が裂けても教えない様に言われたのだがねぇ…時計台からはそんな所まで見えてしまうとは想定外だったよ」

「父様が!?」

「ああ、少し前から国軍の大規模編成が組まれたと情報が流れてきてたそうだよ。

それにしてもねぇ、国王もおらず、相変わらず誰も立太子していないというのに、一体どこからの命令系統なのか…。

南部方面も厳戒態勢が敷かれた。あっちはあっちでフーアを押さえ込むべく動いている。

あちこちそんなこんなで北部には援軍はないのは分かっていたからね、デイビットは魔道具に頼る事にした様だ」

「魔道具ですか?」

伯父はコツコツと足音を立てて執務机に戻ると、その上の書類を広げながら言った。

ジルも釣られる様に机の上を見ると全て父からのファックスもどきによって送られてきたものだった。

「ああ、剣や弓矢で戦うよりも効率がいい道具を作ったらしい。ジルの琥珀魔石の情報も有り難がっていたが、ガチョウを育てる技術の応用がまず役立っていたらしいよ」


 該当の書類をジルは読み込む。

ガチョウを育てたと言えば、魔物の森からホースで魔力を引き込んだ事が頭に浮かぶが、その魔力を動力源に飛び道具を作った様だ。そこにポータブル電源にもなる琥珀魔石も見つかったので、更に発展したらしい。

ただ準備期間が短いので数が多くは出来なかったらしく、そこは懸念は残る。


「伯父様、チューダーは大丈夫かしら?」

「そうだな…チューダーは国内最強の領軍であるし、そこに新たな武器。大丈夫であると信じたい。

だが戦争だからね。何があるかなんて分からない。

だからこそ君はここで耐えなければいけないよ。ジルこそデイビットのアキレス腱だ。君を盾にされただけで、あいつは自分の命さえ簡単に差し出すよ」


 真剣な目で伯父はジルに言った。今すぐにでも馬車に飛び乗って故郷へ帰りたいと思っているジルの気持ちを見透かしているかの様だ。

「分かり…ました」


 トボトボと部屋へ戻ったジルは、それでも落ち着かず父へ手紙を書いた。ベッドへ入って眠る事など出来る気分ではなかったのだ。


父様お願い無理しすぎないで、ダメだと思ったらどうか逃げて!

あー!結界が…完璧な結界があったら。

タリー様みたいにパパっと父様たちを悪意から守る結界さえ作れれば…


 そう考えていたジルの脳内にちらりと浮かんだものがあった。


あれ…タリー様言ってたよね?

魔法はイメージが全てだって!

あの結界自体をインターネットって考えると、前世に似た様なのあったじゃん!

ファイヤーウォールとかセキュリティソフトとかアンチウイルスソフトとか!


 閃きの粒がジルが深く考える事によって段々大きくなって、チャレンジしてみるに値する様なアイデアとなった。

それからジルは眠れぬままジリジリと夜明けを待った。

少ない時間で効率よく魔法を使い切るためにはどうしたらいいのか、考えられるだけの思いつきをノートに記した。


 翌朝、迎えにきてくれたタリーを急かして塔へ向かう。

「タリー様!ずっとタリー様は魔法はイメージだと仰っていましたよね!?」

「あ…ああ、言っておったが」

「だから私なりに結界に国軍を弾く機能を持たせようと思うのです!」

「ジルがか?」

「はい!チューダーに悪意を持つ人間、攻撃を防がせるのです」

「そ…れはかなり複雑な事であるぞ?」

「それでもです!結界本体は昨日でチューダー全域を囲えたのです。多分国軍がチューダーに近づけるまではまだ数日の猶予があるかと思います。成功するかは正直分かりませんが、私はそれまでに絶対に間に合わせてみせます」

「魔力も相当使う事になるだろう」

「それでもです!もう結界移動は無いので、結界の機能構築のみに全力を尽くします」

梃子でも動かぬようなジルの様子を見たタリーは、ふーと強く息を吐いた後、分かったとだけ言った。


 そしてタリーの結界から分岐させ、延長させたジルの結界にタリーが地脈と接続した。

漸くジルの結界に地脈の魔力が流れ込み始めたのだ。


 そしてタリーはまた情報収集に行くと言って出掛けていった。

残されたジルは自分の作った結界の様子を眺める。

タリーの結界と違って、それはやっと地脈の魔力を吸い始めた所なので薄ぼんやりとも光らず、結界の機能すら果たしていなかった。


何日くらいでタリー様の結界みたいに琥珀が溢れてくるんだろう?

そうしないとちゃんと全部途切れず繋がって、穴も無く帯状な結界が出来てるかも確認出来ないんだよなー


 タリーが言うには、本流である地脈が結界の魔力の欲しい箇所にあるとは限らないので、そういう場合は多少遠くても地脈からバイパスを作ったりしながらも、魔力を通すパイプを輪の様にきちんと繋げ、澱みなく流れを良くして結界構築をしないと結界にも強弱が出て、魔力が見えるものには忍び込みやすくなる穴が出来てしまうそうだ。


穴が大きければそこから軍に入り込まれちゃうもんね。

丁寧に作ったつもりだけど、ちゃんと出来てます様に!


 あとはどの様に人間の敵も防ぐバリア機能を持たせるかだ。タリーにああ言ったものの、全くどうやれば良いのか見当も付かない。

頭を抱えてウンウン悩んでいると、いつかの様に風が起きる。

これはと思いジルが顔を上げるとそこにはやはりデニスがいた。


「ジルしかいないのかい?タリーはどこに行った…いやそれよりもどうしたというのだ。ジル、酷い顔色をしておるぞ」

デニスはジルの両頬を持ち上げると、心配そうな顔をした。


「デニスお祖父様、チューダーが大変な事になってしまっているのです」

泣きそうになるのを何度も我慢して、ジルは全てをデニスに説明した。

デニスは腕を組んで難しそうな顔で話を聞いている。


「なるほど…タリーの言う人間には関知せぬ対応は精霊としては妥当な判断だ。精霊が人の生死に積極的に関わる事は禁忌であるからの。

だが私はチューダーは親しき土地であるし、ジルは私の孫であるから、少しは手を貸しても良かろう。

まずは結界か…ジルの言うあんちういるすとやらの条件の魔法を付与し、それを循環させれば良いのであろう」


 顎をさすり、宙を見上げてデニスは考え込んだ。

そうだのう…と考えを纏めて話出したデニスの言葉を改めて聞き直したジルは閃いた。


そっか!琥珀にAI機能持たせれば良いんだ!

結界を流れる琥珀AIに条件を教えてその条件以外の人とか物だけ通す様に、琥珀AIに考えながら常にパトロールしてもらう感じ!

せっかく条件を教えても流れて行っちゃったらおしまいの川の流れと違って、ずっと同じルートをぐるぐる流れ続ける永久機関になら条件の保持もできるはず。


 ぱあああ!と一気に顔つきが晴れたジルを見てデニスはホッとした顔をした。

「何か思いついた様だのう」

「デニスお祖父様ありがとうございます!ただ、この魔法を全結界に浸透させるにはどうしたら良いのでしょうか?」

「ジルの結界はぐるりとパイプの様に領地の外周を一周させているのであろう?

その一部分でも地脈の上流部分にその魔法を混ぜれば、地脈がその魔法を循環の力で巡らせて行くであろうよ。

ただ全長はそこそこの距離があろう。相当の量を流さねば隅々全てには流しきらぬであろうな。数カ所から分けて流すのもアリかもしれん」


確かに…難しいかもしれないけど出来る事は全部やっておきたい!


「デニスお祖父様!私を地脈の上流に連れていっていただけませんか?」

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