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 グググっと両手両足を踏ん張り、歯を食いしばって押し寄せてくる圧力に抵抗する。

「よっこいしょー!」

 連日の修行で声を出す事で、土中にパイプを通す力技や、地下を流れる琥珀の川の圧に負けなくなるやり方を得たジルは、積極的に声を上げて自らに魔法を纏わせる。


本当は技名詠唱みたいなカッコよく『出よなんちゃらー!』なのやりたいけど、そっちよりどっこいしょー!みたいなのの方が何故かタイミング合うんだよね…


 最初は奇妙なジルの掛け声にキョトンとした顔をしたタリーも、今ではすっかり慣れてしまっている。

 掛け声方法で随分と結界の移動が捗る様になり、ほぼほぼチューダー方面を覆う様に結界の元となる、地脈を流す地下パイプが伸びている。

 雑なタリーの解説ではさっぱり分からず、タリーの結界を借りてそれを動かすことから始めたが、魔力の使い方や変化のさせ方がだんだん分かってきた今では、新たにタリーの結界をジルのオリジナルパイプで更に延長させる方法も習った。大量の土を押し分け、パイプを継ぎ足しながらどんどんと結界を延伸出来ていっている。


最初は魔力を粘土みたいに紐状に伸ばして中に空洞を作ってーってやってたけど、途中で細く伸ばした魔力を家電の受話器のコードみたいに螺旋状に巻いてくっ付ける方式に変えたら、結果ドリルみたいにもなって穴開けも一緒に飛躍的に時間短縮が出来たのよね。


 今はまだ空洞だが、地脈の通り道は作れる様になったので、これらが全てが繋ぎ終わったらタリーに魔力の循環が出来るようにしてもらう予定だ。


 ジルが不慣れからウッカリいじって形を変えてしまった元の結界の修復がタリーの仕事だ。

ほぼ一日中暇をして終わる事が多かった最初の頃と違って、一日に何度もタリーを呼ぶ機会も増えた。

「いいペースだのう。この勢いで学んでいけば、あと数日ぐらいで形が整うのではないか?」

「本当ですか!?確かに望遠鏡からでは分かりませんが、こう目を離して高くから見ると、まだ不格好ですが領地のほぼ全域は届きましたね!」


 こんな結界作りなど、精霊女王であるタリーにかかれば一瞬で終わってしまうものだが、人間であるジルではもう二週間以上もかかってしまっている。

 それでもこの間まで単なる魔法のド素人だったジルにとってみれば上出来だろう。


 ご機嫌に笑いながらジルはぐうっと背筋を伸ばす。

「だんだん魔力の使い方に慣れてきて、要領よく使うって事も分かってきました。最初はどうなることかと思いましたが…」

「手本を得て、それを扱い、少しづつ細かい調整を知る。コツコツこれを行うのは面倒くさく投げ出したくもなる事であるが、結局はそれが一番の近道なのじゃ。

ジルは薄まっているとは言え、精霊の血を継いでいるのじゃから私は最初から出来ると信じておったよ。ただ使い方が分からなかっただけでその身は才能に溢れ、可能性に満ちておる。まずは出来ると己を信じる事だの。なんせ」

「魔法はイメージだから!ですわよね?」

ふふふと笑ってジルはタリーの十八番のセリフを奪った。

「はは、そうじゃ。その通りであるよ」


 ジルはよし!と気合いを入れ直し、定位置のオペレーター席に座った。

望遠鏡を覗いて、チューダー方面に方向を合わせる。


 ところが作業を始めようとしたジルの視界に、今までなかったものが映る。何か目の錯覚かと望遠鏡を調整してそれを良く見た瞬間、背筋に雷の様な衝撃が走った。


「嘘!嘘でしょう!?」

「ジル!いかにした!?」

「あの平原の向こうに兵が見えるわ!」

 慌てたタリーが走り寄りジルの肩に手を置いたが、ジルは絞りを合わせて更に国軍の様子がもっと良く見えないか、望遠鏡を見続けた。


 チューダーの領地の先、ポンコツ結界のあたりに国軍が陣を張っているのが見える。

そこからチューダー寄りはまだ雪深く、軍もチューダー領軍相手には活動がしにくいからだろう。

これでは雪解けが始まり、国軍が動きやすくなった途端に進軍が始まってしまう。


 タリーも目を細めて厳しい顔つきで、ジルの見ている方向を見ていた。

そのタリーにジルは振り返り、泣きそうな顔で訴えた。

「嫌!チューダーが壊されてしまうわ!」

「ジル!ジル!落ち着くのだ」

「だってあんなに近くに国軍が駐留してる!これではすぐに内戦が起こってしまうわ!そうだ結界を…結界を繋げなくちゃ、早く…」

ジルは震える手でレバーを操作しようとする。

するとその手を押さえてタリーは言った。


「ジル、結界を繋げてもあれは人間を通す」

「え!嘘!?だって…でも!この国の結界は悪人を引き止める様に調整したと聞いたわ!」

「それは、精霊に対する害意に対してであるよ。人間同士の諍いには精霊は関知せぬ」

「そんな!そんな…じゃあ戦争しかないの?そんなのヤダ、それじゃ皆が…あ…ならば、わ…私が行けば…」

そんなジルの言葉にタリーは左右に首を振りながら言った。


「あの規模の軍隊が出てきているという事は、何としてでも内戦を起こしたいのだろう。今更ジルが出ていっても何も筋書きは変わらんよ。

それよりジルはこの国にいるべきだ。あやつらがどう言ったとしても、この国まで手を伸ばすとなれば精霊が目的って事だからのう、さすればこの国の結界が作動する」

「それじゃ私だけ生き残るの?」

「違う。ジルの父上は何か策があると言っていたのであろう?待つのだ。信じて」

「そんな…事は」

「待つのだよ、ジル。私は少し確認に出掛けてこよう。日没前までには戻るが、ジルは屋敷に戻るかね?」

気遣わしげにジルを見るタリーに首を振る。

「いえ、たとえ無駄になったとしても結界をちゃんとやり切りたいのでここに残ります」

「…そうか分かった。では…な」


 タリーの姿が掻き消えた瞬間、ジルは泣き崩れた。

大切なものを失うかもしれない恐怖に我慢できずわんわんと声を上げて泣いてしまったのだが、ふとある事に気付くとふらりと立ち上がった。


ただ泣いて時間を無駄にしてる場合じゃない。

そんな場合じゃない!

結界をやり切ろう。少しでもあの場所を守れる様に。


 ジルはぐいっと涙を拭いて、望遠鏡付きの椅子に座り込んだ。

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