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 ジルのここ最近は、起きて身支度をして朝食を取るとタリーに連行され、塔の上で魔法の練習をして、日が暮れる頃、屋敷に連れ戻され、電池が切れた様に眠るを繰り返す日々だった。


社畜リーマンか!

でも悔しいけど面白いんだよなぁー


 ジルの過ごす日数が増えるにつれ、日々塔の上は驚くほど設備が充実されていった。

ある日からジルがお腹を空かせたり喉が渇いたりしても大丈夫な様に、食器類や食料品や茶葉が入れられた茶箪笥がセットされた小さなキッチンが出来ていて、トイレだって完備されている。

ジルの作業中、暇を持て余したタリーの為に本棚も出来上がっていて、ジルも暇があるなら借りてみたい本がずらりと並んでいる。

8枚の窓にはレースカーテンがたなびき、壁紙は美しいボタニカルな模様が描かれ、休憩用のソファーセットだって緋色の座面に猫足のアンティークだ。

これで風呂さえあれば何日だって暮らせるくらいの部屋になっている。


どこの別荘か!


 そんな部屋の窓際には、例の望遠鏡付き椅子が置かれているが、それも謎の進化を遂げていた。

リモートで押しても実感が湧かないから森に行くと言うジルのために、タリーは両手両足それぞれに板状のレバーを新たに設置して、そこに手足を当てれば琥珀の流れを実際の圧で体で感じられる様にしてくれた。


なんだろう…これ前世のVR的な何かだと思うんだけど、ビジュアルは船着場とかのコンテナ運びのオペレーターや建築現場の重機の運転手さんみたいだと思うの…


 ジルは微妙な気持ちでガコガコと板を押してみる。

以前よりはマシだが、数回に一度は空振りする様に魔力の流れを素通りしてしまう。

「はぁ!また失敗した!」

「ははは、そんなにあっさり成功されてしまえば精霊の立つ背がない。私とて数百年の時を経て体得したのだ。

頭にどうしたいのかイメージを作り、それを手先と足先に伝えよ。さすれば魔法は必ず起こる」

本を読みながらのんびり答えるタリーは、何度もジルに言い聞かせたイメージ論を繰り返す。

「やっと出来ても少しずつしか前に進みません…」

「慣れじゃ、慣れ慣れ!これは練習…ではない!修行じゃ!魔法を使うということを体に染み込ませよ」

「…ハイ」


 こんなやり取りをしてはいても、ジルはコツコツやる事は好きなタチで、失敗を繰り返しても少しずつやり方を調整して挑戦する事も、飽きずに繰り返す事もできる性質を持っていた。

やっとの思いで数ミリずつ動かす、何度も失敗するを繰り返しているうちに、数日後には数メートルの移動、三回に一度程度の失敗と、だんだん魔法の練度を上げていっている実感がジルにも湧いてきた。


ーーーーー


「タリー様!私ずいぶんと上達したと思われませんか?」


 ある日、ジルは上機嫌でタリーを振り返った。


「どれどれ」

猫足の長椅子に寝そべり、砂糖菓子をつまみながら本を読んでいたタリーが気怠げに立ち上がった。


「ほう。ようやく目に見えるほどの変化が出てきておるのう」

目を細めて結界の位置を見るとタリーは指先をちょいちょいと動かした。

出発地点であるタリーの結界から数キロほど出っ張る形となってしまったジル作の結界をそのままに、今まであった位置の結界の不具合の調整をした様だ。

「国境の検問所の関係もあるでな。元の位置の結界の場所はずらせぬ。ジルの結界は全て繋ぎ終わり不具合の確認をしてから連結する事にしよう」


 それからも毎日ジルの訓練は続いた。

ジルよりも、見守る以外何もする事がないタリーの方がつまらないだろうに毎日付き合ってくれて、ジルの一喜一憂に寄り添ってくれていた。


 そんなある日、塔の最上階にタリーが防いでいるはずの風が吹き荒れた。

驚いたジルが思わずタリーに縋り付く。

「ななな…」

「おお、来たか」


 風が止むと、そこに銀の髪と緑の目を持った男性が立っていた。

「タリー、我が子孫に会いに来た。この子がそうか?」

急に現れた男はそう言ったかと思うと、冷えた目でタリーにしがみついたままのジルをじっと見つめた。


美人のタリーさんとはまた真逆の雰囲気な人だわー

この冷たい感じは…父様みたいな感じに近いかな?

軍服とか着せたらめっちゃカッコ良さそう。

でもなんか目がおっかないんですけどー


 あまりにも見つめられすぎて居心地が悪くなってきた頃、気付くとジルはタリーの腕の中から緑の目の男性の腕の中にいた。

いや、高い高いされていた。

「これは正しく私の血筋だ!間違いない。なんともクラリスと面差しがそっくりではないか!」


 何度も高い高いされてジルは脳がグラグラし始めていた。

「おいデニス、ジルが限界だ。離してやれ」


 はたとジルの顔色を見たデニスと呼ばれた男性は、散々揺さぶられてグロッキーのジルをソファにそっと寝かせて、申し訳なさそうに枕元に膝を付いた。

「おお、この様に苦しませて申し訳ない。私の娘は小さい頃こうされるのが大好きだったのだ。面差しの似ている君も好きかと思い…つい…」

「こう見えて私はかなり大きくなって…いえ、もう大丈夫ですわ。あの…あなた様は私の何代も前のお祖父様であられますのね?」

「そうだよ。君はジルと言ったね?タリーから聞いたのだが」

「はい。ジルヴィア・アシュリーと申します。チューダーの家のものです」


 デニスはジルと顔を合わせながらも、何処か遠くを見る様な目をしながら言った。

「チューダーか…懐かしいな。私はデニスと言う。

ジル、君は見れば見るほど、クラリス…私の娘だが、クラリスにも私の妻だったクリームヒルトにもよく似ている。先程から胸になんとも懐かしい痛みが走るよ。

もう…思い出しか残らず、二度と会えないと思っていた者たちにまた再び会う事ができたこの喜びを…どうすれば表せるものなのか」


 とうとう片手で目元を覆ってしまったデニスを励ます様に、反対の空いている手をジルは握りしめた。

ハッと真っ赤になった目を見せたデニスにジルは優しく微笑みかけた。

愛した者と肉親たちが自分より先に旅立ち、ずっと孤独の中にいたであろう祖父にジルは寄り添いたかったのだ。


「デニス様、デニスお祖父様とお呼びしてもよろしいですか?」

問いかけたジルをデニスが力強く抱きしめた。

「もちろんだ!君は私の可愛い私の孫だとも!」


 その後は休憩を兼ねてお茶を飲みながら三人でいろんな話をした。

ジルのこれまでの生い立ちや、チューダーの今の様子。デニスのチューダーで過ごしていた頃の話、ジルがドレス作りにハマっていてデニスにも一緒に手伝って欲しい事、今、タリーに特訓を付けてもらってる魔法の話。


 結局もう今日は訓練どころではないなと言う時間まで話をした。


 別れ際、この状況を大層羨ましがったデニスは、自分もここに遊びにきてもいいかと聞いてきた。

「ええ、勿論ですわ。デニスお祖父様も来てくださったらとても賑やかになりますし、タリー様も暇を持て余す事が無くなるでしょうし。ねえタリー様」

「ああ…と…う、うんああそうだな…デニスも暇な時だけ来ると良い」


 何故か歯切れの悪いタリーに、おや?という様にデニスは片眉を上げた。

そんなやり取りに首を傾けたジルであるが、いつもの様にタリーに屋敷へ送り届けられた。


「タリー様、お祖父様が来られる事は何か不都合がございましたでしょうか?」

「はぁっ!?い、いや何もない!不都合など何もないぞ!…何もない…はずよな」

後半もじょもじょと口を濁したままタリーが掻き消えた。


 その場には一体なんなんだと頭を捻るジルだけが残された。

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