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「ふむ…まだ分からぬとな?さすればあとはどうするか…」


 悩み、思考の海に沈んでいったタリーを放っておいて、ジルは折角なので望遠鏡で我が家の方を覗いていた。

さすが女王謹製の魔法道具なだけあって、普通の視界であれば画角や木々など遮蔽物で見えないであろう物まで見る事が出来た。


まだまだあっちは雪深いなぁ。

あああ!屋敷が見える!父様とか誰か知っている人誰か見えないかな?

あの水鳥パラダイス湖も既に懐かしいよー!


 そんな風に久し振りの実家を堪能しているジルの肩ががっちり掴まれた。


「えっ!?」

「分かったぞ!ジル。まずは実地じゃ。

魔法はイメージじゃ!頭に描けぬものは実現出来ぬ!現物を見てそれを頭に叩き込むのだ!」


 ヒュンと音がして、脳が揺らされた様な気がした。これは塔の上に連れ去られた時と同じ感覚だ。

ジルが瞬きを数回するとようやく視界が定まる。

「ここは…」

「結界を張った森に移動したのだ」

 確かにジルたちの周りは木々に囲まれている。

とろりとろりと落ちてくる琥珀の液体の滝が目の前にある。


「これが結界…」

「ああ、まずは私が地脈と木々の根を繋げた。

まぁ簡単に言うと地脈の力を吸い上げた根は、それを木々に巡らす。そしてやがて枝先まで届いた力はまた落ちて、地に、地脈へと戻る。それをまた木々が吸い上げるという循環の仕組みだの」


ふあああああ!

それはほぼ夢の永久機関じゃないっすか!


「タリーさま!これは素晴らしい機関ですわ!

何と、この様なものが実際作られていて、私の目の前にあるとは!私は夢を見ているのでしょうか?」

 ムンクの絵の様に両の手を頬に当てて、叫ぶ様にジルが言った。それを聞いて満更でも無いタリーはそうであろうと何度も頷いた。

「フフン、まあ私にかかってみれば、この様なものを作り出すなど朝飯前であるのだがな」


 そんな言葉を聞き流す様にジルはフラフラと結界をよく見ようと前に出ていく。

「おい、おい、ジルや…あまり前に出ると…」


 ジルが上空を振り仰いだ時、滝から外れた枝からの大きな一滴がぼたりとジルに降り注いだ。

瞬間で顔こそは下を向けたが体は避ける間もなく、どぼりとジルに当たった琥珀色の液体はジルの頭の先からジルを包む様に滴り落ちていく。

一滴といっても大きなバランスボールほどの大きさがあった。ジルは全身を包むほどの液体の中を潜っているが、窒息する様な感じもなく普通に呼吸が出来る。

だが確かに暖かいハチミツの様な液体がジルの体を濡らしている様な感覚はあるのだ。


なんて不思議な感覚…当たった瞬間は後頭部辺りにドンと重量感を感じた気がするんだけど大きさの割に重たくはなかった。

今もドロドロの飴を被ったみたいなのに熱くも冷たくもなくて…手もこんなにベタベタになって見えるのに、実際触ると乾いててサラサラだわ。

全部が…全部が矛盾してる。

魔法って何だろう。

地脈って何?

この琥珀色の液体って結局何なの?


 目の高さにして見るジルの指先からは、今も確かに糸を引いてぽたりぽたりと滴る琥珀色の液体がある。

下ろしてあった髪からもまた同じく。


「ジ…ジルや」


 慌てた様なタリーの声かけにジルは振り返り、未だ琥珀の纏わり付いたサラサラの髪を掻き上げ破顔した。

タリーは琥珀の輝きを逆光にした、ジルのその壮絶な微笑みに思わず息を呑んだ。


「タリー様、本当に本当に本当に素晴らしいですわ!

私、魔法を扱える様になりたいです!」


 ジルの知識欲と好奇心とがワクワクとなって、その身の奥からししどに溢れ出て止まることがない。

「そ、そうか。前向きになってもらったなら良かった…であるな」

何故か赤面しているタリーを不思議に思いながら、ジルは更に疑問に思った事全て矢継ぎ早にタリーにぶつけ、実際に琥珀の滝に触れてみてもした。


 タリーに教わりながら、琥珀の滝を押す練習もした。

普通に触っただけでは手が通り抜けてしまって、押すという行為は出来ないのだ。

手のひらに魔力を纏わせ、そっと滝を押すと流れに変化が起きる。これを土中でやると地脈と繋げたタリーの結界の位置を変える事が出来るという。

だが、ズブの素人のジルでは土中の循環パイプと地脈との接続は出来ない。それらの微調整は後ほどタリーがやってくれるとのことだ。


 教材としての活用だけでなく目標も欲しかったジルは、タリーの結界の一部から分岐させた魔力の循環パイプ部分を、動かして伸ばしてジルの故郷、チューダー全体を囲う事をこの課題のゴールとしてもらった。そしてそれを新たな結界として活用したい。ジルだって故郷の役に少しでも立ちたいのだ。

そうは言っても、人間の戦に関わり合いたくないタリーを説得するのは少しだけ骨が折れたが。


実際に触ってタリー様の結界を大分理解できた気がする…これなら私にも出来るかも!

あのポンコツどころか役立たずだった結界の代わりに、立派なみんなを守れる結界が欲しい!

絶対に頑張るぞー!


 決意も新たに、両手を握り締め結界の帯を見つめるジルをタリーは不思議そうな顔で見ていた。


「さっきの胸の感覚は一体なんだったのかのう…」

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