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「あの…それってチューダーの事はもう怒ってはいないって事でしょうか?」
そうジルに聞かれるとタリーは椅子に背を預け足を組み、掌に顎を乗せてふむと鼻息を吐いた。
「怒ってる怒ってないで言ったら、まだ怒ってるって言うのが正直な所かのう。
だけどものう、その怒りはどこにって言うのは…もう昔の話すぎてなぁ、矛先を向ける方向が分からなくなってしまってるんじゃよ」
そしてタリーはふーっと息を吐いた。
「ただ…また同じ事が起こるかもしれないと聞いた時、血が沸騰するかと思ったのう。あの時の怒りが再燃した。
もう次はない。私の全力を持ってしても二度とあの非道は繰り返させぬよ」
一瞬、タリーの瞳の色が緑からどす黒く変化した様に見えた。
ジルの体が寒気を感じた様にふるりと震えた。
「や、やはりタリー様もフーアがまた攻めて来るとお考えですか?」
「何度か過去にちょっかいは出されてるから、あり得ない話でも無い…という気はしているのう」
「そうなのですね。父は私をこちらに逃して時間を稼ぎ、私を戦争発動の駒として連行しようとした使者は王都から一度は来たそうですが、私がいない事を屋敷を隈なく捜索してから、渋々ですが戻って行ったそうです。父も何か策を考えてはいる様ですが…」
ふんっと息を吐いて腕を組んだタリーは、ジルの言葉に答えた。
「結界からあっちの国だけでやる分には私は関係ない。
勝手に人間同士で潰し合うのも別に良い。ただ私の大事だけ守れれば良いのだ。
ジルには冷たく感じるかもしれないが、それが今の私のスタンスなのだよ」
そこで日が傾き出した事に気付いたタリーがこの場のお開きを告げた。
「そうだ、ジルとは連絡が取れる様にしたいのう。ちょっと待っておくれ」
タリーがドレスの隠しポケットをゴソゴソ漁り、出てきた物をテーブルに積み上げるが、ポケットの大きさと中身の量が比例していない。
それをあんぐりとジルたちは見つめるしか無かった。
「ここに…確か…あったあった!
これは森で拾った石なんだがの、結構落ちてるのじゃが面白いから私の好きな石なのだ。軽くて不思議じゃろう?私は晴れた日にこれを日に透かして見るのが好きなのじゃ」
タリーが何かを自然に手渡すので、ジルもつい反射的に手を伸ばして受け取ってしまった。
ぽんと手のひらに置かれた物は、透明感のある明るい茶色をしていて、大きさの割に軽くて、ジルは前世のプラスチック製品を思い出してしまった。
「琥珀…」
「おお!知っているか!美しい物よな」
ジルの前世での記憶では、琥珀は他の宝石類と同様に発掘する物だ。
「これらは落ちているのですか?」
「ああ、掘るともっと大物も出てくるが、落ちている物もあるな。
循環している魔力がその循環からうっかり外れて停滞して固まった物だからの。まあこのサイズだと循環から跳ね落ちた雫みたいなものか」
確かに先程から手のひらをくすぐる様な琥珀の魔力のざわめきを感じる。
わあ!もうそれは魔物からしか採れない魔石とほぼ同意義では!
これ普段ならミサイル爆撃受けた並みの衝撃を感じる話題なんだけど、これまでの話からすると小物並みに感じちゃうの…慣れって怖いなー
「ではこの琥珀は魔力の塊なのですね」
「そう言う事だの。だから私との連絡を取り合うにはちょうど良い」
ジルの問いに答えると、その流れでタリーは琥珀に2本、指を添えた。
琥珀が一瞬発光し、元の色に戻る。
「これに私の印を写したから、ジルの用事がある時に握りながら私を呼んでおくれ。その場に私が訪れよう」
ジルはうっすら頭が痛い様な気がした。愛想笑いの一つももう出てこない。
情報が…情報が多すぎて耳から煙が出て来そうだよー!
「では近いうちにまた会おう!」
颯爽とタリーが消えた。
ドアを出て行ったのではなく、文字通り消えた。
疲れ切ったジルは笑い上戸の店主に見送られ、ふらふらとエラに支えられる様にして店を後にしたのだった。
「あ!お土産渡すの忘れた!」




