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「じゃあひとまず今日はジルの話はここまでとして、次は私の話をしても良いかの?」
笑顔から真面目な顔でジルを見るタリーの変化に、ジルは気を引き締めた。
え、なに。
さっき会ったばっかりの野良女王から急に真面目な話されるって…精霊狩りの話で怒られるのかな?
ジルの怯えた顔を認めたタリーは顔の前で手を振った。
「そんなに恐ろしそうな顔をしないでおくれ。大した話じゃ無いのだよ。
ほらジル、私の目の色はどこかで見た事ないかの?」
「はい…私の目の色と一緒だなって思いました」
ジルが鏡の中で見る自分の瞳の色は、今まで同じ色の人とは一度も会ったことがなかった。
緑色の目の色に人には会ったことがあったが、少し薄かったり、暗い色の人ばかりで、ジルの様にピカピカと輝く様なペリドット色の瞳ではなかった。
「そうだの。私たちは血の繋がりを感じるくらい同じ色の瞳をしておるな。
それで、会った瞬間にもしやジルは精霊の血を繋いでいるのやもしらぬと思ったのだ」
もうこれ以上の爆弾無いと思ったら、それ以上が来たー!
「お嬢様!」
口をパカリと開けて白目を剥き倒れかけたジルを、エラが咄嗟に支える。
いやいや倒れてる場合じゃない!
「どっどっどういう事ですか!?」
「まあそれ以上の意味はないのだが」
タリーは両方の手のひらを上に向け、目をくるりと回した後に話を続けた。
「ジルを一目見て、過去にジルのご先祖様に精霊と番った者がいたのかと思ったのだが、聞けばいやはやチューダーの者とな。
なるほどだからジルは精霊を見る目を持っておるし、私がこの店に連れてきても良いと思うくらいの興味を持ったのも必然だったのだと思ったのだ。因縁とは言うて妙よな」
な…なるほど。父様の言う『私の妖精姫』もあながち間違いではなかったと…
いやそういう事じゃなく!
「私…に本当に精霊の血が流れているのですか?」
「おそらくそうだと。それも高位の精霊だったのであろうの。そもそもそうでなければちゃんとした人型を取れないのだから、すなわち人と番う事も出来ぬ。
そして精霊も色んな瞳の色を持ってるが、この色は一部の流れを汲んだ者しか持ってない色だからの。だからジルの先祖はアイツだろうと思いつく精霊はおるよ」
タリーが自らの目を指差しながら続けた。
「ジルのひいひいひいひいおじいちゃんくらいになるのかの?ふむ?もっとかの?」
「その方はまだご存命なのですか?」
「妖精は高位になれば精霊となり、そこまでいくと途端に長命になるからの。人間の枠では計れぬほどの時の流れであるよ」
「それ程の長命…ですか」
「ああそうじゃ。だから私も君のご先祖に会った事がある。もう何百年前だったか…君も知っている様な雰囲気だが、精霊狩りのあった時代だのう。
あの時代、愚かな国家が隣国を脅して無茶振りをしておったのだ。君のご先祖はかなり反対したらしいし、何百もの我が同胞を逃してくれていたがね」
思わぬ昔話にジルたちは息を呑む。
「それでもあの国が狩りに関わったのは事実だ。
だから我々は制裁を下したのじゃ。
その後、彼の国には一切の加護を失わせた。
ジルの国からは精霊や妖精たちを引き上げさせた。
そして結界で境界を築き、弱き妖精たちを魔物たちに守らせる事にしたのだよ」
あの魔物にはそんな理由があったとは…
あまりの話に誰も口を挟む事ができない。
「そういう事で加護のなくなったジルの国は自力で魔物から身を守らねばならなくなった。
それで、その最前線となる地となるあの場所を守護する様になったのは、ジルのご先祖だったのだ。険しき地に身を置くのは我々への贖罪でもあったのだろうの。
ジルのご先祖はあの地にやってきた日に、森のほとりまでやって来て膝をつき、涙ながらに詫びておったよ。
本当はの、裁きの日に全てを滅ぼしてしまおうと思っておったのだよ。あの森の地脈の力、全てを打ち込んででも」
隣に座っているエラの口からヒッと息を呑む気配があった。
だがジルは身動きする事すら出来ない。
「だがの、私は長命でこの生に飽きることもあるが、こうやって長年と一言で言うには長すぎる時を経て、彼の子孫のジルに出会い楽しいひと時を過ごすと、あの時の答え合わせをしている様な気持ちになるの」
話の流れが変わり、ジルはキョトンとした顔になる。
「あの時に怒りに任せて全てを無にしていたら、あやつらの孫娘と会う事もなかったであろうし、きっと今のこの楽しい時間も無かったであろう?」
タリーはそう言うとニッコリと笑った。
「人間には不老長寿を願う者が居るらしいが、しかしのう…長すぎるのは…これもなかなか面白みも少ないものなのだよ」
ジルから目を逸らし、唇を尖らせて不貞腐れた様にタリーは付け加えた。
「何でもほどほどが一番良い」




