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警戒モードのエラを連れてカフェに入る。
カラン、とドアベルが鳴ると店主が気づいてくれた。
「いらっしゃいませ…おや珍しい。あなた様がどなたかとご一緒とは」
本当に店主とタリーは顔見知りの様だ。
「今そこでお知り合いになったお嬢さんたちでの。主人、今日はテラスの方で良いかの?」
「今日は空いてますからね。どこのお席でも大丈夫ですよ。後でご注文を伺いに参ります。
お嬢様方も良くいらして下さいました。どうぞごゆっくりなさっていってください」
白髪頭のお爺さんの店主は、ゆったりとした口調でジルたちにも挨拶してくれた。
ここに来るまで半信半疑であったエラは、自分だけが見えていない事実に信じられない思いが顔に思い切り現れてしまっている。
小さく会釈しながら、ジルたちも先を行くタリーに着いて行く。
店の入り口こそこぢんまりしていたが奥行きも幅もあり、その割には席数も少ないので、ゆったり過ごせそうな雰囲気の良いお店だった。
センスのいい壁飾りや絵画を物珍しく見ながら、先を行くタリーに続いてテラス席へと向かう。
テラス席は通りと面していても、少しの庭と低い立木に何となく阻まれているので、行き交う人の目も気にならない程度だ。
ジルだけでなく、店主も見えない誰かと会話する姿を見て、いよいよ混乱を極めた様な顔をしたエラは、頑なにジルを危険から少しでも遠ざけようと、席に座らず、ジルの後ろに立とうとする。
落ち着かないからとなんとか席に座らせようとするジルとエラの諍いを見かねたタリーが、ジルとタリーの間にエラを座らせた。
「ははは、これならジル嬢が独り言を言っている様に周りには見えないであろう。逆に良い位置取りだと思うが」
お茶目にウインクしてタリーが笑う。
先程ジルが追いかけてタリーを捕まえた時から、こちらの都合で随分とタリーには待たせてしまう事ばかりだった。
「ドタバタしてしまってお待たせばかりしてしまいまして申し訳ございませんでした…タリー様のご都合も伺わず。お時間は大丈夫でしょうか?」
「いやいや、このカフェへは私が誘ったのだからの。気にせずにいてくれると私も嬉しい。
ここのおすすめはココアとミルクレープだ。ぜひ食べてみておくれ」
それではと、タリーの言う通りにおすすめを注文したジルたち二人に、ニコニコと笑いながらタリーは続けた。
「先ほども言った通り、私の事を認識する人間も少ないのだ、たまにここの主人以外と喋れるのは楽しいのう」
それを聞いたジルの顔は思わず歪んでしまった。
げ、早速怖い話からスタートしちゃった。
結局この話をクリアしないと今後のお付き合いも考えなきゃなんだもんね。
聞くの怖いけど…でもタリーさんはオバケにしても良いオバケっぽいし。
ジルは腰を引かせながら、恐る恐るタリーに直接聞いてみる事にした。
「あのー、まずそのお話なのですが…タリーさんを見える人と見えない人ってどういう事ですか?」
すると思わぬ所から笑い声が聞こえた。振り返ると注文の品を持ってきてくれたここの店主だった。
「どうも立ち聞きとは不躾者で申し訳無いです」
ジルたちそれぞれに品を置きながら、まだ店主は肩を揺らして楽しそうに笑っている。
「タリー様がお連れの方だったので、タリー様の事もご存知かと思えば。タリー様もお人…いや精霊が悪い」
「精霊!?」
「ええ、タリー様は精霊は精霊でもその女王陛下に在らせられますよ」
精霊の女王なんて超ファンタジー代表が、なんでこんな街中に野良猫みたいにウロウロしてんの!
「精霊とは何ですか!?お嬢様!」
ジルは詳細を聞きたがるエラに体を揺すられながら、あまりの衝撃に気が遠くなるのを感じていた。




