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 あれから数日後、ストークス家の馬車を出してもらい、伯母と一緒に街にようやく出る事が出来た。

過保護な伯母は毎朝ジルの顔色を見ては、もう少し休んだらどうかとか、一度医者に診てもらったらどうかと、なかなかジルを外出させようとしなかった。


そんな私の顔色悪い?

儚い詐欺が悪い方に作用しちゃってるだけだと思うんだけど…


 今日は伯母御用達のお店で一着、屋敷の中で着るデイドレスを作って貰いながら敵情視察をする作戦として、その後も宝飾店も含め数件のお店を回る計画にしている。


 馬車の窓の外には晴れ渡った空が広がっている。

チューダーの空は雪雲ばかりで、青空など何ヶ月も見ていなかった気がする。

少し離れているだけなのに、こんなに空が違うのかとジルは思った。


 店に着き、エラの手を借りて馬車を降りる時、ジルの視界の端を色鮮やかな影がチラリと見えた気がした。

咄嗟にその華やかな影を目で追ったが、人混みに紛れたか建物の影に入ったか、もうその姿は見つけられなかった。

「お嬢様、どうかされましたか?」

エラが気遣わし気に聞いてくる。

「いいえ、なんでも無いわ。気のせいだったみたい。お店に入ってみましょう!」


なんだったんだか分かんないけど、気のせいかな?


 お店の中で店員や伯母とあれこれやっているうちに、ジルはそんな影についてはすぐに忘れてしまった。

ドレスの種類はシルフォレストとあまり変わりはなかったが、それでもやっぱりおしゃれは楽しい。

沢山の布の色味をジルに合わせてみたり、少し飾りを変更してもらったりしているうちに随分と時間が過ぎてしまった。


「伯母様どうしましょう。結構な時間になってしまいましたわ」

「そうねぇ、もう少し見て回るつもりだったけど、予定を変更して職人街へ行って宝飾品を見てみましょうか」


 伯母がそう言うとエラが動き、御者に行き先の変更を告げる。

「伯母様ごめんなさい。私が長く話をし過ぎました」

「ジル、わたくしだって楽しい時間を過ごせたのよ。久しぶりに若い娘のドレスを作れて嬉しかったわ。だから今日はこれで良かったのよ」


 伯母の長男は伯父の跡を継ぐまではとフォーサイス王国の騎士団へ武者修行へ行っている。

長女は既に嫁ぎ、ここから更に北へ行った領地の公爵夫人として辣腕を奮っているらしい。

「やっぱり若い子がお家に居るって良いわね。何をやっても楽しく感じるわ」

二人で顔を見合わせてうふふと笑った。


 馬車が移動した10分程で街の様子が様変わりしていた。

ここ一帯は職人が集まる一画なので職人街と呼ばれている。

先程までと同様に賑やかでは有るが、着飾った女性より庶民の服を着た男女が増えていて、街の風景も小洒落たショーウインドウより、がっしりしたレンガや石造りの建物ばかりになっていた。


 それらは工房だそうで、金属を扱う工房も多いので、炉から万が一出火させても延焼しにくい様に石造りの建物が多くなっている様だ。

それぞれの建物は通り沿いに看板をぶら下げていて、それを見れば何を作っているか分かる様になっていた。

その中の宝石を模した看板の下がった一軒にジルは伯母と入って行った。


 ここも公爵家の御用達だそうで大層歓迎された。

ジルが自己紹介すると、だいぶ寂しくなった頭皮を光らせた恰幅のいい親方はジルの父を知っており、デビューの際のティアラ作りに少しだけ協力したんですよと、かかかと笑って教えてくれた。


 親方が工房で作った商品の一部を見せてくれた。

やはりシルフォレストの装飾品よりも繊細で、細やかな細工も美しい。


うわー、めっちゃゴージャス!

でもこれって耳につけたら耳たぶ伸びちゃわないのかな?


 ジルが手に持ったイヤリングも宝石が美しく輝く、ゴールドやシルバーの細工も目に眩いが、これもショーケースに並ぶ商品も大ぶりなものが多い気がする。

これは確かに夜会などでは皆の目を引くであろう逸品では有るが、もう少し普段使いの物も見てみたい。


「とても美しいですが、もう少し小ぶりな普段使い出来る様な物はありませんか?」

「普段使い…でございますか?」

「ええ、例えば何処にも出かける用事はなくても、自分が身に付けてそれを見て楽しむ用途の物であったり、ちょっとした贈り物にして、相手が気軽に毎日使える物といいますか…」

親方は困った様に眉間に皺を寄せて、絞り出す様に言葉を探す。

「そう…ですね。そういった用途のものはなかなか…どちらかと言えば、言い方は悪いですが皆様は誰かに見せつけるといった用途にお買い求めなされるので」


そっかー、その家の財力の分かりやすい物差し代わりがアクセサリーって扱いなのか。


「私ね、父と今は離れてしまったのだけど、ずっと愛していますっていう意味を込めて指輪かペンダントトップでも作って送りたいと思っているのです。

ですがあまり華美であると普段使っていただけないと思うの。何処にいてもそれを見たら私を思い出して貰える様に、いつも付けていただきたいの。そういった物を作っていただけるかしら?」

親方は合点がいった顔をして頷いた。

「なるほど、そういった事ですか。普段の生活でも邪魔にならず、かつ閣下に似合った様なお品を考えてみましょう!」


 隣で親方との会話を聞いていた叔母もウズウズと口を出す。

「それ!わたくしも夫に作りたいわ!」

「まあまあ!伯母様、それではお揃いの指輪なんて如何ですか?同じデザインだけど太さが違うとか、お互いの瞳の色をそれぞれの指輪に入れるとか!…私も父とお揃いの指輪とネックレスにしようかしら!」


 結局、この工房でも時間をたっぷりと使ってしまって、他の店への偵察はまた後日となってしまったのだった。

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