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ジルは遅い朝食と昼食を兼ねた食事を摂り、湯浴みをさせてもらった。
ゆったりとした服装を用意され、大分気持ちが落ち着いて来た事に気付いた。
エラだけでは不便も有るだろうと伯母が侍女を数人付けてくれているので、その内の一人に声を掛ける。
「私、昨日は伯母様たちに碌にご挨拶もせず、大変失礼してしまったわ。今日お時間いただくことは出来るかしら?」
「はい、本日は旦那様も奥様もお出かけにならず在宅しております。お嬢様がその様に仰る様でしたらお会い出来るようにしてございますので、確認してまいります。少々お待ち下さい」
感じのいい、元気な様子の侍女は跳ねる様に頭を下げてどこかへ向かっていった。
年嵩の侍女はその作法を苦いものを噛んだかの様な顔で見ていた。
これはきっと後であの子怒られるわね…私にしてみたらあのくらいが丁度良いのだけどなー
まあ追々、皆にも楽に接してもらえる様に話してみよう。
やがて先程の侍女が戻り、今からでも会えると伝えてくれた。その場には伯父も一緒にいるそうなので、ジルは少し緊張してしまう。
間も無く執事が部屋まで迎えに来てくれて、挨拶を交わす。
「ストークス家の執事を務めておりますナイジェルと申します」
きっちりと横分けにした髪は一本の乱れも見られない。
いやぁ、うちの執事も出来るオーラ凄いけど、こっちの執事も負けてないわぁ。
イケオジだし仕事出来そう…できオジとかいうのかな?そういう場合。
ジルがくだらない事を考えているうちに、案内され、部屋に到着した。
執事が扉を叩き、ジルが訪れた事を知らせると男性の声が聞こえた。
「お入り」
ジルは執事の開けた扉に足を一歩踏み入れると、これが初めての出会いかの様に深くカーテシーをとった。
「シルフォレスト王国、チューダー辺境伯が娘ジルヴィア・アシュリーがご挨拶申し上げます。
伯父様、伯母様におかれましては、この度はご迷惑をお掛け致すこととなり、父にも代わりましてお詫び申し上げます。また暖かくお迎えいただいたこと、重ね重ね御礼申し上げます」
二人が立ち上がった気配がした。
「ご丁寧な挨拶をありがとう。でもどうか顔を上げてくれないかい?君の伯母様が君が少しでも元気になったか、顔を見たくてウズウズしているよ」
伯父の声で顔を上げたジルは、改めて二人の顔を見る。
「僕はアリシアの夫でハーレイ・ストークスと言うよ。
このカーン領を治めている公爵になるね。そして君の伯父さんでもあるわけだ。ジルヴィア嬢、これからどうぞよろしく」
背の高い伯父は、黒髪に優しげな明るいブラウンの瞳をしていて、柔らかく微笑んでいる。
「昨日はちゃんとご挨拶しないでごめんなさいね。
あなたのお父様の姉でアリシアと言うわ」
伯父の肩ほどの身長で華奢な伯母は、父と同じ金の髪に濃いブルーの目をしている。
どこが似てるとは明確には言えないのにそれでも父の面影もあり、ジルは懐かしい思いが湧き上がってくるのを感じた。
その伯母は心配気な顔をジルに向けていた。
「よく眠れたかしら?ご飯も食べられた?どこか体調がおかしいとかはなくって?」
「まあまあ、アリシア。落ち着いてまずは座って話をしようじゃないか。
誰かお茶を頼むよ。ジルヴィア嬢は何か好きな飲み物はあるかな?」
伯父は皆をソファに誘い、ジルに問いかける。
「伯父様、伯母様どうか私をジルヴィアまたはジルとお呼びください。
私はミルクティーにしていただければ嬉しいですわ」
ジルの言葉に執事が笑顔で頷き、見入ってしまう様な手際で茶を入れ始める。
「ありがとう。ではジルと呼ばせてもらうよ。
それにしても見事なカーテシーだったね。高い教養を感じられる、目の覚める様な所作だったよ」
「こちらこそありがとうございます。そんなにお褒めいただいたら面映いですわ」
「本当よ!ジル。あなたがまだ幼い頃に会ったっきりだったのに、こんなに素晴らしい淑女に育ったあなたと再会できてわたくしは本当に嬉しく思っているのよ」
「伯母様…」
「こんな事情だから諸手を挙げてとは言えないけど、でもあなたと一緒にいれるこの機会はわたくしにとって幸せな時間ではあるわ。
こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、そうでもなきゃお互い忙しい身である訳だし、会えるのはいつになっていたか分からないもの」
伯母にそう言われると最悪だと思っていたこの状況も少しはマシになってくる気がする不思議だ。
「ジルはまだ疲れが残ってるだろうから二、三日はゆっくりしたまえ。その間、我が奥様の話し相手になって貰えるかい?なんせデイビット君から君をこちらに送る旨の連絡が来てから、ずっと待ちかねていたくらいなんだ」
「嫌だわハーレイ。そういうことはバラさないのが出来る夫の嗜みなのに…でも、ジル、わたくしと一緒にお茶を飲みながらおしゃべりしてくれるかしら?あなたの今までのお話を沢山聞きたいわ」
はにかみながら伯母がお茶のお誘いをくれる。
ジルもこの可愛らしい伯母が大好きになってしまっていた。
「伯母様、私も是非沢山お話ししたいです!
ついでに…と言っては失礼ですが、せっかくの機会ですので私の事業についても聞いていただいて、相談に乗っていただければと思います」
「事業?あなたが?」
「まだまだ始まったばかりだったのにこんな事になってしまったのですが…オーダーメイドのドレスと装飾品の製作販売を始めたのです。
この身から離してアシュリーに置いたままにしたく無くて、デザイン画とか商売で使うもの一式は持参したのです。どうかそれらを見て、伯母様のご意見を伺いたいですわ」
途端に叔母の目がキラキラと輝く。
「まあまあまあまあ!なんて楽しそうなお話しなの!
ええ、ええ。うちの服飾に詳しい使用人も呼びましょうね。どうしましょう、わたくしも注文してしまおうかしら」
一気に盛り上がりを見せた女性陣に、弾ける様に伯父が笑う。
「ははは、それは良い。是非ジルに儲けさせてあげなさい」
あれ、もしかしてここでも伯父バカ伯母バカが始まりつつある?
「伯父様も伯母様も、まずはデザインだけでも見てからのお話ですわ!」
三人の笑い声が響く応接室を微笑ましそうに眺めていたできオジ執事が、まだまだ止まらないお喋りにおかわりのお茶の準備を始めたのだった。




