18
その後、ジルは父とサイモンと踊り、キッチリ広告塔の役割を果たした後、マルグリットとまたしてもソファスペースでオシャレ談義に花を咲かせた。
しばらく何処ぞへと消えていた父も戻って来てそろそろ帰る雰囲気になりそうだったので、その前にと化粧室へとジルは向かった。
用事を済ませ、鏡の前に立つと後ろにメロディがいるのが見えた。
最悪の鉢合わせなんですけどー!
いや逆に絶対わざと鉢合わせしに来た感じかな?
トイレで待ち伏せとか趣味悪すぎる!
ジルは顔には出さない様に気を付けながら心の中で悪態をついた。
そして鏡越しに首を傾ける。
あんた誰?と。
ジョルダン家とは正式に挨拶も紹介も受けていない。
だからこちらから話しかけない限りメロディからも話しかけられることはないのだ。
ヨシ、無視無視。
ジルは化粧室から出ようと方向を変えようとしたその時。
「ちょっと!」
おーい!マナーのせんせーい!ここにおバカな子がいまーす。どこにいますかー?
私にちょっかいかけられて、怒り心頭の父様をあの間近で見てたって言うのになんで話しかけてこれるかね。
三歩歩いたら忘れちゃうタイプ?
ジルは足を止めたが振り返らなかった。
「ちょっと、あなたを呼んでるのよ。分かったならこっち向きなさいよ!
あなたね、派手な格好して人目を引いていい気になってるんじゃないわよ田舎者のくせに。
それに殿下に声を掛けて頂いたからって調子に乗るのはやめておいた方が宜しくてよ。私が婚約者候補の筆頭なのですから、泣きを見るのはあなたですわよ!」
なるほど…そう言う意味の睨みつけでしたか。
自分より目立つな、人の男取るなと。
あれを声掛けて頂いたと取るのは相当のオツムだと思う。ああいうのは絡まれたって言うのが正解かと。
アレな王子が良いならさっさと持ってってよ。
私は熨斗付けてタダでくれるって言ってもいらないねー!
「ちょっと聞いてるの?こっち向きなさいって言ってるでしょ!」
まだギャンギャン吠え立てるメロディに流石にジルもイライラし始めた時、手を伸ばしてきたメロディに肩を掴まれそうになった。
その気配に咄嗟に扇でその手を弾き返しながら、メロディの正面を向いて立つ。領軍で習った事が少しだけ身についていたらしい。
「失礼ですがどなた?あなたどなたかとお間違えでは無くて?」
「な…なんですって?」
弾かれた手をさすりながらメロディが狼狽える。
「だって私、あなたの事見かけた事は確かにございますが、ご挨拶もご紹介も受けておりませんの。田舎の家庭教師にはその様な関係の方とは、私の身分では口をきいてはなりませんと言われておりますわ。
もしかしたらあなたはご存知無いのかもしれないので教えて差し上げますけれど、私に初対面で直接話しかけて良いのは王族だけなのですって。
あなたは今はまだ王子殿下の婚約者候補筆頭…なのでしたっけ?それともあなたは既に王族の方なの?」
「な……な…」
いきなり掴み掛かろうとするのも、言い負かされてプルプルするのも兄妹そっくりね。
すると入り口からマルグリットが現れた。
「ジルが随分遅いからお父様が心配なされておられるわよ。
あら?メロディ嬢でしたのね。大きなお声が外まで丸聞こえでしてよ。淑女にあるまじき事ですわ。
これまでのマナー講師は不出来の様ですので代えていただいて、お兄様と一緒にもう一度教育していただいた方が今後の為になるかもしれませんわよ」
父様のもそうだけどマルグリット様の冷たい目線もキッツイなぁ。
美人が怒るとめっちゃ怖い…
真っ赤になって黙り込むメロディを置き去りにマルグリットと父の元に向かう。
…これ数日前に同じ事やった。
思い返すと足取りも重くなるジルをマルグリットが優しく肩を抱いてくれた。
「案の定絡まれてましたわよ」
父と合流するとマルグリットがそう報告する。
「やはりか。ジルの後を追う様にあの令嬢が向かったからそうじゃないかと思ったけど、まさか立て続けに事を起こすとは…」
父はため息を吐く。
それを聞いたマルグリットも呆れた顔で何も無い宙を見上げる。
「あの子もずっと両親に甘やかされて。
家の外でもジルがこっちに出て来なかったせいもあって、同世代では一番の身分だったから。
それで取り巻きにもチヤホヤされ続けて来たでしょう?勘違いしてしまってるのね。
でもあれは反省しているそぶりもなかったから、これからも注意しておいた方がよろしいかと思うわ」
父とマルグリットから目線を貰ってジルも困ってしまった。
「目立って調子に乗ってるとか王子殿下に取り入ろうとしてるって言われましたわ。でも正直気をつけようも無いと言うか…」
ジルが力無く答えると、父が片眉を上げた。
「分かった。既に公式行事の際でもどこにでも一緒に入れる者を見繕ってはある」
「わたくしもなるべく気を配るようにいたしますわ。
お友達にも協力をお願いしておきますけれど、ジルも自分でも気を付けておくのですよ」
出る杭は打たれるとは言うものの、初っ端からこれとはジルの不安は募るばかりだった。
…早くお家に帰りたい。




