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 ガタゴトと小さな振動を感じながら、ジルは馬車に揺られていた。


 ジルも十六歳となり、とうとうデビューを迎えるために王都にあるアシュリー家のタウンハウスへ向かっているところだ。


 ダフネにドレスを発注したあの後も、アシュリー親子は精力的に働いた。


 本格的なドレスの作製に初めて身近に触れたことで、北部の手仕事に関して大きな興味を持ったジルは、チューダー織や刺繍などをもっと洗練、発展させる事は出来ないかと家の内部資料などはもちろん、北部に根ざしている貴族宅にも協力を仰ぎながら過去の資料を漁り、長い年月の間に埋もれてしまった技術や文様を掘り起こした。


 時代遅れととされ、いつの間にか忘れ去られていたデザインや文様も、今見ると新鮮で可愛いらしいものも多い。


前世でもあったけど、ダサいって言われて廃れたものも一周まわると急にレトロで可愛くなるものよね。

この花模様とかもコロンとしててめっちゃ可愛い!


 それらを元に最新技術と組み合わせ、現在でも通用する様に職人に頼んでブラッシュアップさせた。


 ジルはドレスメーカーの工房へも足繁く通い、ダフネやスタッフとも交流を深めた。

そうすることで集めた情報を共有したり、ジルが思いついたアイデアでも、現在の技術で出来る事出来ない事を現場の人間から生の声として聞く機会を貰う事が出来た。

そして実現させるためにはどうすれば良いのかも少しずつ学んでいったのだった。


 ジルはこの二年で北部のファッションや製作技術は格段に上がったはずだと自画自賛してしまう。


 北部の僻地の魔物から採れる糸を使った野蛮な布。

『昔は縄を作ってた様な下賤な素材を高貴な者が使うべきでは無い』と敬遠気味にされていたチューダー織を、まずは売り上げ好調の羽毛布団との抱き合わせ販売したシーツをスタート地点として、ベッドリネンとして受け入れてもらう戦略を取った。


 綺麗な色に染めたり、たっぷりとフリルやレースを付けることで、夢ふわお姫様仕様にしたりして地位向上に努めた。

手触りが良く、発色の良いチューダー織のベッドリネンは単品でも口コミだけでかなりの購入申し込みが入っているらしい。

羽根布団も工場が拡大され、地場産業として領地の人たちを多数雇用しフル稼働しているそうだが、未だ購入希望者全員には回っていない様だ。


貴族のお家は無駄に部屋数多いから…

自室はもちろんだけど、客間とか入れたら何セットも買わないといけないから、いちいち大量発注になっちゃうのよね。


 出所が魔物だとしても良いものは良いと認識してもらえたら、次の使い道を世間に知らしめるべきだろう。

寝て気持ちいい素材は着ても気持ちがいいものなのだ。


良い素材に良いデザインが乗ったら最強でしょう!


 ジルには生まれながらの立場がある。

せっかくのそれを上手く使わない手はない。

貴賤に関わらず、それぞれの立場の人間と会い、話し、出来上がった縁を更に他に繋ぐ橋渡しを果たしながら、北部にしか出来ない唯一を作り出すべく、ジルは自ら東奔西走した。


 領地のためもあるが、何よりもーーー。

埃にまみれて引っ張り出した過去の記録を、戦利品よろしくすでに同志となった感のある職人たちと興奮しながらあれこれ考察するのは、ジルにとって本当に楽しい時間であった事ものめり込む理由の一つであったのだが。

前世で言うオタ活と推し活の様になりつつある。


 父は父で、ジルのティアラ制作がキッカケで鉱物の分野にも手を広げ、宝石や貴金属の採れる隣国との取引を開始した。


 ティアラ作りでデザインやアイデアを、今ある素材では思う通りに出来ない事にキレたのだ。

ならば新素材を見つけ出すのみとばかりに、四方八方へと素材探しの旅に出たこともあった。

その時はジルも父の妥協を知らぬ執念に呆れた物だ。

準備期間に二年もあれば十分だと思っていたジルを、散々間に合わないのではと煽っていた父の本意を知った瞬間である。


そりゃ心配するよね。

流石の父様でも、あれだけ熱を入れ込むと思ってなかったから、私も途中で間に合わないんじゃ無いかと不安になったもの。

親にとってみたら、こっちのデビューはあっちの成人式みたいなものなのかしら?


 長閑な田舎の風景の中を進む馬車の中から、窓の外を眺めるジルは、ドタバタだった日々を思い出していた。

そんなに前の話では無いはずなのに、随分昔のことの様に思ってしまう。

結局ダフネにもティアラ製作を引き受けてくれた工房の親方にも多大なる迷惑をお掛けして、今のこの旅路がある。


 絶対にドレス工房や携わってくれた皆の為にもデビューを成功させなければならない。

今シーズンは二回しか夜会に出ないため、この二回でジルはキッチリ領地の宣伝塔となってこなければならないのだ。


 素人が単なる思いつきで発言しただけのアイデアが、ダフネのお陰で素晴らしい発展を遂げて、ドレスはこれ以上ないくらいの出来上がりを見せた。

試着を見た父は感涙に咽び、この瞬間を後世に残すべくすぐさま絵師を呼びつけた。


 最初のダフネとの打ち合わせ合宿から二年経ち、ジルは開花間際の蕾の様な匂い立つ色香と瑞々しさを、奇跡のバランスで併せ持つ美少女に成長している。


儚そうな外側とは正反対の、テキトーで大雑把な中身が詐欺すぎだって領民からもよく言われるんだけども…


 少女らしさを全面に出すのも、恐らくこのデビューが最後の機会だろう。それからは嗣子として相応しい装いを心がけなければならなくなる。

今の未熟と成熟の境界あやふやな、儚い美を余す事なく表現し切る為に、領地を立つ最後の最後まで調整が行われた。


 無事納品を終えたダフネの工房もきっと、皆で完成を祝い、打ち上げを行なって今頃のんびりしているとは思うが、並行して計画を立てていた、今後必要になるだろう数着のドレスの製作をもう始めている様な気もする。


 彼女たちもまた歴とした服飾オタクなので、新しい材料が目の前にあり、それらを弄る時間が出来たとなると、触らずにいる事などできない種類の人間なのだ。

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