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暗い森の中を、前方を照らす魔道具のランタンを灯した大きなソリ型の馬車が走り抜けていく。
しんしんと雪が降り続ける夜で、分厚い雲に隠れて月も星も出ていない。
出ていたとしてもこの森の中まではきっと光も届かないであろうけども、晴れているというだけでまだ少しは心強かったのではないかとジルは思う。
そのくらい真っ暗で静かな夜だった。
ソリ馬車の前には御者が、後方にはブレーキの係をする者が乗って、操舵する者たち独特の合図をお互いに送りあい、出来るだけ早くこの森を抜け、目的地へと無事にジルを送り届けるためだけに走り続けている。
ジルは父が持たせてくれた防寒着と膝掛けに包まり、侍女のエラがそれらを隙間がない様に整えてくれたのにも関わらず、魔石を使った簡易の暖房器具を取り付けた馬車の中にまでじわじわと寒さが忍び寄っている。
外にいる彼らは魔道具で風防を作っているにしてもさぞかし寒かろう。
乳母も最後までジルについていくと言い張っていたが、高齢に差し掛かった彼女に無理させる事にならずに済んで本当によかったと思う。
父はもちろんだが、何より使用人や領軍兵、領民全体へ大変な苦労と心配を掛けさせてしまっている。
ジルは雪と氷がこびりついたソリ馬車の小窓の端を見つめながら考える。
なんでこうなっちゃったの…
何度も溜め息をつきたくなるほど、巻き込まれただけの皆が気の毒になってくる。
…だって私たち親子のせいでこういう状況になっているのだから。