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ちょっぴり腹黒でチートな旦那様と生きていくために、わたくしの幸せをさがします!

作者: ハピエン主義

「お嬢様、旦那様がお呼びですよ。書斎にお越しください。」のんびり部屋でくつろいでいると、執事のアルスからそう声をかけられた。


書斎に向かいながら、多分わたくしの今後のことよね、と当たりをつける。

この世界では、貴族の子どもは10歳~18歳まで学園に通い、その後さらに専門的なことを学ぶか、15歳前後に婚約者を選び卒業と同時に結婚するのが一般的だ。

だが、わたしくしは、諸事情により、学園を卒業した後は、家でのんびりと過ごしている。


「お父様、お呼びと伺いました」と声をかけながら、ドアを開け書斎に入った。

そこには、ソファに座ってお茶を飲むお父様とお母さまの姿。机にはお茶とお菓子と一緒に高く積まれた本のようなものが見える。


ソファに座るとすぐに、お父様が「お前のために、何人か婚約者候補を探しておいたよ。前の婚約者は、結婚前に浮気がわかって婚約破棄となったからね」と言いながら、高く積まれた本のようなものをわたしの方にずいと押してきた。

ぱらぱらと本のようなもの、婚約者候補の写真を眺めていく。


前の婚約者とは可もなく、不可もない付き合いを続けてきたつもりであったが、婚約者曰く、「燃えるような恋に落ちたんだ」と浮気をされて、婚約破棄となった。まぁ、あちらの有責で、こちらには何の落ち度もないし、年齢はギリギリだか、婚約者はまだ選べる立場だと思っていた。

だが、予想に反して、候補者は、後妻だったり、だいぶ年が上だったり、逆に年が下だったり、あまり選べない感じである。


最後に、きれいな銀髪に切れ長の青い目を持つ端正な顔の人が出てきた。自分の濃い茶色の髪、赤い目とは正反対の色を持ち、「燃える恋」とか言わなそう。家格も同じ伯爵で、次男で宮廷の文官として働いているらしい。

なぜこんな条件のいい方が残っているのかしら?と思いつつ、「お父様、この方がいいですわ」と声をかける。とんとん拍子で話が進み、顔合わせの日となった。


◇◇◇


顔合わせ当日、朝から侍女に磨き上げられ、白いドレスを着たわくしは、自分でいうのもなんだが悪くはない。

だが、お相手の様子がおかしい。本人に間違いはないはずだが、何だか目をキラキラというより、ギラギラさせて、熱い視線を向けてくる。お見合い写真では理性的な印象だったのになぜ。


「あぁ、やっとお会いできましたね。お会いしたかった!」


彼とは初対面のはずだけど?と思いつつ、相手のテンションの高さについていけそうもないので、適当にお相手してお帰り頂こう、と心に決めた瞬間だった。


「いや、そんな引かないでくださいよ。自分で言っていても怪しいですからね」と、こちらの様子を見て少し慌てたように言葉を続けた。


「正直大変だったんですよ。わたしはあなたと会って幸せにしないと、呪いによって、30歳で死んでしまうんです。もう3度目です。

1度目はわけもわからず死亡、2度目はあなたに会えたけど幸せにできず死亡、3度目こそは楽しく人生を過ごしたい、その一心です。

信じるのは難しいと思いますが、証拠はあなたの耳の後ろにある羽のあざです。わたしも同じものがあります」


いろいろよくわからないけど、確かにあざはある。単なるストーカーかしら。


「あなたの婚約者になるために、婚約者に浮気するよう仕向けたり、有望な婚約者候補を蹴落としたり、あなたのお父様にコネをつけたり、本当に大変だったんですよ」


ストーカーね。きっとストーカーだわ。席を立ちかけると、彼から続けて声がかかる。


「わたしと結婚すれば、わずらわしい社交は最低限、快適な生活をお約束します」

それを聞いて椅子に座り直した。「それは魅力的ね。ただ、なぜそんないい条件なのかしら?」

「言ったでしょ。あなたを幸せにしないと死んでしまうと。わたしは今27歳なので、残りは後3年。幸せになると、羽の痣がきえるはずだ。快適な生活の代わりに、あなたの幸せを教えてほしい。」


「しあわせ、とは何かしら」


◇◇◇


気が付いたら、彼、いろいろ用意周到なステファンに外堀は埋められ、結婚していた。

仕方ないので、ステファンのために幸せを探してみる。


まずは、幸せのために、好きなものを好きなだけ買ってみた。

高価なジュエリー、素敵なドレス、おいしいお菓子。買ったときは満たされるがそれだけ。

痣も消えないので、辞めることにした。


次は、心の赴くままにわがままに振舞ってみた。

食事のメニューに文句いったり、気分で行先を決めたり。

周りに気を使われ、精神的に疲れてきたし、痣も消えないので、辞めることにした。


ステファンもわたくしを幸せにするため、サプライズの誕生日パーティーを開催したり、素敵なプレゼントしてくれたり。

燃えるような愛ではないけれど、穏やかな愛情をお互いに育んできた。


そんな感じでいろいろ試していたら、妊娠したので、お腹の子のためにゆっくりすることにした。タイムリミットは迫ってきているが、次の手が浮かばない。


「どうしようかしら」お茶を飲みながらぼんやりしながら、幸せについて考えてみる。

幸せとはお金、地位、名誉かと思いきや、そうでもないらしい。いろいろ試すことで、それなりのお金、地位、名誉を手に入れることはできた。チート気味なステファンと、わたくしの両親のコネのおかげである。

では、この何気ない日常?それも幸せではある。

ただ、幸せだなぁくらいでは、痣は消えないようである。



◇◇◇


タイムリミットまで後半年。

子どもはお腹の中で順調に育ち、今まさに出産の苦しみを味わっている。ただ、子どもがなかなか降りてこず、大出血を起こした、ようだ。

薄れゆく意識の中で、ふと思った。わたくしは間違いなく幸せだったのでは。健康な体、飢えることのない生活、始まりはイマイチだったが愛してくれるステファン、わたしくしの両親。

幸せとは、わたくしが何不自由なく、辛いと感じず生きていること。自分が死にそうになって気がつく幸せ。

子どもの泣き声が遠くから聞こえる。無事に生まれたのね。


あれ?

でも今幸せに気がついたら、ステファンは生きていけるのかしら??


◇◇◇


わたくしを呼ぶ声に、ふと目を覚ますと、ステファンが手を握ってくれていた。


「目が覚めたんだね。大丈夫かい?」


「ステファン、わたくし幸せだったみたいよ」と声をかけると、きれいな顔をクシャリと泣きそうな顔をしていった。

「そうみたいだね。痣は消えているよ。死にそうな時に痣が消えたから、びっくりしたけど、君は自殺願望でもあったのかい?」


何だかすごい勘違いをされているようで、心外である。

「ちがうわ。死にそうになって、わたくしの幸せに気がついたのよ」


すると、ステファンは驚いた顔をして、優しく微笑んだ。

「じゃあ、お互い様だね。わたしは君を失いそうになって、君の大切さに気がついたよ。わたしの幸せは君と生きることだ」


◇◇◇


あれから穏やかに時は流れ、ジョージと名付けられた子どもは3歳になった。

おしゃべりもうまくなってきた。

「お母さま、ぼくね、お父さまとお母さまにあいたかったんだ。

だからおねがいをしたんだ。ふたりに会えますようにって」


ジョージが不思議なことを言い始めた。

「誰にお願いしたの?」


「かみさま!ふたりがしあわせじゃなかったから、ぼくは消えちゃいそうだったんだ。だからかみさまにおねがいしたんだよ」


あぁ、この子のお願いが届いたのね。

呪いではなく、祈りだったのね。


「ありがう、ジョージ。わたくしもあなたに会えて幸せよ」


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