第7話 俺初めてなんだ……、優しくしてね?
抱擁を終えた俺たちは今後について、とりあえずダンジョン脱出について話し合う。
今の美咲からは、先程の弱々しい姿が消えいつものキリッとしたクールな美咲に戻った。
普段の美咲も良いが、しおらしい美咲も最高だった。
時々でいいから見せてくれないだろうか。
新しい目標ができたところで美咲と現状を整理する。
「私たちはダンジョンの奈落へと落下した。ここから脱出するには、入口を目指すほかないわね」
そう言って美咲は、安全地帯から外に出てダンジョンを見上げた。
不思議なことに俺たちが落ちてきた穴はどこにも見当たらない。
美咲が言うには、落下地点から移動していないらしいので塞がったとみて間違いないだろう。
穴が空いていれば、俺が新しく手に入れた<飛行>スキルで飛んで行けたが。
だが、上手く行ったとしても王国兵士が待機していた場合、そこで揉め事になるのは避けられない。
<完全偽装>で容姿は誤魔化せるが、俺たちが落ちた穴から出てきたら怪しさの塊だ。
それならいっそのこと――――
「いや、ボス部屋攻略を目指そう」
「攻略?」
「あぁ。ダンジョンはボス部屋を攻略すると次の階に進む魔法陣と入口に戻る魔法陣がある。それを利用しよう」
「……なるほど。一般の冒険者を装うのね?」
「その通り」
このダンジョンは普通の冒険者も利用している。
俺たちが来た時も先に進んでいた冒険者も居た。
ただ問題があるとすれば、王国兵士がダンジョンを封鎖している可能性だ。
封鎖後に俺たちがダンジョンの入口に転移した場合、怪しさ満点でそのまま王城へレッツゴー。
逆に封鎖直後であれば、まだダンジョンから出ていない冒険者ということで誤魔化すこともできるかもしれない。
王城からこのダンジョンまでの距離は、およそ半日。
ガゼフが外で待機している兵士と合流し王城へと移動していると仮定して、あとはどれくらい騎士団に自由権を与えられているかが問題だ。
ダンジョンを封鎖する権限を持っているなら既に封鎖済み。
だが、ダンジョンは冒険者ギルドも関与しているため騎士団長の独断では判断できないだろう。
冒険者ギルドは国をまたいで展開しており、その勢いは戦国時代と言われているレイヴァンハート王国東側にある諸国にも迫っている。
これほどの権力が相手では如何に大国である王国の騎士団長とて簡単に命令を出すことは難しいだろう。
つまりガゼフが国王から王命を受けダンジョンを国として封鎖するまで意外と猶予はあると思う。
「分かったわ。攻略を目指しましょう」
「おう」
美咲の了承を得たことで本格的にダンジョン攻略へと進む。
現在が何階層か分からないが、ガゼフが言うにはこのダンジョンは確認されている限り10階層ごとにボス部屋が用意されているらしい。
そのため最大でも10層攻略できれば俺たちは無事にシャバに出られる。
俺はダンジョン脱出を意気込み気持ちを整えて<分解修復>で構築した安全地帯から出るとそこに広がっていたのは、上層つまり迷宮のようだった階層とは違い完全に洞窟のような場所であった。
通常の洞窟であれば足元が見えないくらい暗く前に進むことなど不可能だが、このダンジョン、というよりもこの世界独自の生態系により洞窟の天井や足元、壁などにヒカリゴケが生えている。
その輝きは、洞窟をぼんやりと照らしており、どこか幻想的でもあった。
ここが洞窟探検ツアーの一部であれば、感動的であるが残念ながらwith死の危険であるため気を抜くことができない。
いつか気軽にこの世界を堪能できるほど強くなることができれば、様々な秘境に美咲と一緒に観光しても面白いかもしれない。
俺たちが移動を開始してから数分、ようやく魔物が現れた。
現れた魔物の姿はミミズのように細長いが、俺と同じくらい胴体が大きくその口元には、獲物を捕食するためのサメのようなギザギザとした歯が生えており、一見するととても気持ち悪い。
「こいつよ。ここに落下してから襲い掛かって来た魔物は」
「へぇ。こいつが……」
どうやら俺が気絶する前に無双ゲームのように討伐していた魔物が目の前のミミズらしい。
ミミズを観察していた俺は、自身のレベルが上昇したことにより<鑑定>が使いやすくなったことに気付き目の前のミミズに<鑑定>を使った。
――――――――――――
名前:無し
種族:プロト・ワーム
職業:ダンジョン魔物
Lv:43
MP:204/215
攻撃力:D
防御力:C
魔法防御力:C
素早さ:E
器用さ:E
知力:F
幸運:E
スキル:【土魔法】
称号:≪ダンジョン産≫
―――――――――――
<鑑定>の結果、このミミズはプロト・ワームという種族であることが分かった。
俺のレベルが上昇したことで<鑑定>のランクが上がったのか、以前まで見ることができなかったステータスを詳細に見ることができるようになった。
つまりこれで安全に相手と戦うのかどうか決めることができるようになった一方で、その情報が<偽装>によって誤魔化されたステータスである可能性もあるため難しい。
<鑑定>の進化スキル<完璧鑑定>も同じく<完璧偽装>によって相殺されてしまうためあくまでもステータスは、判断の材料の1つぐらいに考える方が安全だ。
「来るわよ」
俺が<鑑定>について考察しているとプロト・ワームがこちらへ向かって蛇行してきた。
その速さはゴブリンよりも速いがベヒーモスとは比べるまでもない。
俺は冷静に左手で鞘を握り親指で抜刀の構えを取り右手で柄を握る。
『シィヤァアアアア!!!』
「フッ!」
腰を入れて横に一文字を書くように一閃する。
刀がプロト・ワームの口元に食い込みそのまま流れるように体を半分に切り裂く。
少し力が入ったからだろうか、俺が抜刀した刀から斬撃のようなものが飛び出しプロト・ワームの背後にあったダンジョンの壁を抉った。
「やるわね」
「まぁな」
実は武器を使った魔物との戦闘はこれが初めて――俺が起きていた時だが――だったのだが、あまり感動が無い。
レベル上昇と新たに手に入れた<刀術>のおかげだろう。
少し残念に思うが、何が起きるか分からない戦闘を無事に切り抜けたことに満足しよう。
「よし、進もう」
俺たちはダンジョンの先へと進んだ。