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第5話 ふぅ、一件落ty―――え!?ここで!?

作戦は単純。


俺のユニークスキル<分解修復>でベヒーモスを素材に<分解>するだけだ。


だが、俺の<分解修復>の発動には条件がある。


それは―――


「桜木君がベヒーモスに触れられたら勝ち、ということ……」


「ああ、そうだ」


 そう。


 唯一の方法にして最難関なこと。


 俺がベヒーモスに触れて<分解修復>を使う必要があることだ。


 これが美咲や高橋ほどのステータスがあれば何とかなっただろうが、生憎と俺のステータスは低い。



―――――――――

名前:桜木春

年齢:18

種族:人族

職業:無職

Lv :1

HP:50/50

MP:50/50(400/400)

攻撃力:F(E)

防御力:F(D)

魔法防御力:F

素早さ:F(D)

器用さ:F(EX)

知力:F(EX)

幸運:F(D)

エクストラスキル:【多言語理解】

ユニークスキル:【分解修復】【学習】

スキル:【家事】【速読】(土魔法)(剣術)(格闘術)(偽装)(忍び足)(鑑定)

    (自動MP回復)(空腹耐性)(痛覚耐性)

称号:≪異世界人≫≪読書愛好家≫(偽る者)


():偽装中

―――――――――


 素早さが圧倒的に足りない。


 捨て身の策として攻撃を喰らった瞬間に<分解修復>をする方法もあるが、俺の防御力じゃ1秒とて耐えられないだろう。


 <痛覚耐性>も痛みを麻痺させるだけで俺へのダメージを緩和させるわけではないし。


 結論、俺が単独で行くには無理。


 つまり俺を運ぶ人、俺がベヒーモスに触れるまでの間囮になる人が必要だ。


 話合った結果、美咲が俺を運び高橋たちが陽動を担当することになった。


「やるぞ!」


 ガゼフの掛け声とともに俺たちは動き出す。


 ベヒーモスは俺たちの行動に興味が無いのか、その巨体を元居た場所まで戻しその場で寝そべっているだけだ。


 俺は不気味に感じたが、美咲はそのままベヒーモスの元へと近付いていく。


 だんだんベヒーモスとの距離が詰まっていくが、一向に動く気配を見せない。


 案外簡単に終わり―――じゃない!


 あと数メートル、美咲のステータスなら瞬きする速さで到達できる距離までベヒーモスと近付いた時、突然後ろから空気が裂ける音と共に絶壁が押し寄せてきた。


「美咲!」


「くっ!」


 俺は美咲に後ろから迫ってくる絶望を伝えたが、避ける隙が無い。


 そのまま絶壁とベヒーモスの体に挟まれ表現できない痛みの後、ミンチ―――になることは無かった。


 痛みに耐えるため反射的に閉じていた瞳を開けるとベヒーモスが少し離れた場所におり、隣にはガゼフが居た。


 俺はこの状況に理解が追い付かず混乱したが、美咲は冷静にガゼフへと質問した。


「今のは一体……」


「相棒のユニークスキル<スイッチ>でお前たちと相棒の位置を入れ替えた」


「ッ!ということは……」


「気にするな。相棒も望んでそうした」


 どうやら副団長のユニークスキル<スイッチ>によって俺たちと副団長の位置を入れ替えたらしい。


 ありがとう、名前も知らない副団長。


 君のことは生きている限り、多分忘れない。


 俺が副団長にお悔やみを述べているとベヒーモスが動きだす。


 ゆっくりと4本の巨大な足で体を持ち上げ俺たちに向かって赤い眼光を飛ばす。


『GU……』


 前足を曲げ、体を低くしこちらを睨みつける。


 嫌でも伝わってくる威圧感に俺は唇を震わせ歯をガチガチと鳴らしてパニック寸前になったが、美咲は俺の腕に優しく触れてくれた。


「安心して、春。あなたは私が守るわ」


「美咲……」


 その言葉を聞いた俺は、不思議なことに震えが止まった。


 惚れちゃいそうだ。


 カッコいいなぁと思いつつ余裕ができた俺は、腕をスライドさせ左美咲山へと入山する。


 3日ぶりに入山したことで俺は元気1000倍、スーパー桜木春へと変身しそうになったが、豆腐でできた鋼の精神で耐える。


 俺の愚かな行動を許して欲しい。


 だが、死に直面すると誰だって性を実感するものだ。


 うん、そうに違いない。


 今日の美咲山の天候は絶好調らしく拳の雨が降ってこない。


 今の運で行けば、そのままベヒーモスも倒せる気がする。


 無事に美咲と王城に帰って王城から脱出するんだ!


「……高橋君。本当に大丈夫なの?」


「<ブレイブ・ハート>が効き過ぎたかも」


 高橋が苦笑しながら美咲と会話しているが、俺には一切入ってこない。


 そんなことよりも目の前の課題に集中して欲しいのだが。


「翔太、それ花子にも使えないのか?」


「ごめん、涼介。これは生きる希望がある場合のみ有効なんだ」


「そう、か」


『GUWOOO!!!』


「来るぞ!」


 談笑していた俺たちに向かって雄叫びを出しながら超スピードでこちらへと突進してくる。


 俺では避けきれないスピードだが、高ステータスの美咲たちにとっては紙一重で躱すことができた。


 しかしベヒーモスが走ったことでできた衝撃波に対処することができず、俺たちは散り散りに分散してしまう。


 ベヒーモスは、自分で出したスピードに止まることができずそのまま進んでいき壁に激突した。


 その衝撃で天井が一部崩れ、雨のように降ってくる。


 状況は混沌としてきたが、俺たちの作戦は変わらない。


 高橋たちが陽動して美咲がベヒーモスまで俺を運び、俺がベヒーモスに触れる。


「<ブレイブ・ソード>!」


 高橋の詠唱と共に巨大な光の剣が出現し、ベヒーモスの方へと音を出しながら飛んでいく。


 これまでこちらの攻撃を気にした様子を見せなかったベヒーモスであったが、高橋の<ブレイブ・ソード>には先程の突進と同じぐらいのスピードで避けた。


 ベヒーモスは本能でヤバいことに気付いたのだろう。


 流石、ユニークスキル<勇者>だ。


 レベル差が激しいであろう相手をビビらせる程の威力。


 これで俺の<分解修復>も通用する可能性が高くなった。


 高橋が<ブレイブ・ソード>でヘイトを買いながら美咲がベヒーモスへと確実に近づく。


 俺たちは自然と目を合わせて作戦を共有する。


「<ブレイブ・ソード>!」


 再び光の剣が出現しベヒーモスへと向かっていき、ベヒーモスはオーバーに避ける。


『GUWOO!!!』


 最も厄介な存在だと認識したのか、ベヒーモスは先程と同じように足を屈め高橋へ向けて突進する。


 前よりも分かりやすい挙動であるため高橋の高いステータスなら余裕で躱すことができる。


 そしてそのままベヒーモスは壁に激突するはずだからその隙を狙う。


 俺の考えを伝えるために声を出そうとしたが、それよりも前に美咲は高橋の元へと走り出す。


 これが以心伝心。


 感情が大気圏を突破しそうだ。


 高橋がベヒーモスを確実に壁に激突させるためにギリギリまで引き付けている。


 そして闘牛士のように華麗に避けベヒーモスを壁に激突させる―――ことは無かった。


 何を思ったのか高橋はそのまま受け止めるような態勢を作りベヒーモスを真正面から迎え撃った。


 いくらステータスがSであろうともレベル差がある。


 ベヒーモスは顔を下から上へ勢いよく上げて高橋を飛ばす。


 そして高橋が顔の高さまで飛んできたことを確認すると頭突きをして高橋を壁に激突させた。


「翔太ぁああああ!!!」


「美咲、そのまま!」


「ええ、分かってるわ!」


 壁には、床にトマトを潰したかのような血の染みができていた。


 高橋がやられたことで気が動転した佐藤は、ベヒーモスへと突っ込んでいく。


「止めろサトウ!」


「どけ!」


「ぐっ……」


 佐藤と一緒に居たガゼフが止めに入るが、怒り狂いガゼフへ<拳聖>の技を使い吹き飛ばした。


 そのままステータスに物を言わせてベヒーモスの顔面へと跳躍する。


「喰らいやがれ!<正拳突き>!」


 気合いの入った一撃。


 だが、無情にもベヒーモスには傷1つ付けることはできなかった。


 ベヒーモスは、人間が蚊を叩くように尻尾で佐藤を壁に叩き潰した。


 その衝撃で壁が崩れベヒーモスの足元へ雪崩のように落ちていく。


「ああ、やっと死ねる」


 ベヒーモスの足元には山田が居たが、次の瞬間には瓦礫の下敷きになった。


 高橋が命を賭して守った者も無惨に死んでいった。


 残ったのは、俺と美咲、そして突然の攻撃によって気絶してしまったガゼフ。


 状況は絶望的だが、高橋たちが命を落として作ってくれた隙は確実にベヒーモスを追い詰める。


 だって―――


「春!」


「<分解>!」


 俺はベヒーモスに触れることができたから。


 ベヒーモスの左後ろ足に触れた瞬間、俺はこれまでで一番早く詠唱した。


 俺が<分解>を唱えるとベヒーモスの姿形が消え、代わりに鱗や骨といった素材と数メートルはあると思う巨大な魔石が現れた。


 俺はベヒーモスの素材を道具袋へと入れる。


 クラスメイト全員とは言えないが、協力して討伐することができたベヒーモスの素材は、俺が必ず有効活用する。


 それが高橋たちに贈るレクイエムだ。


 どうか安らかに眠って欲しい。


 そしていつまでも俺と美咲を見守っていてくれ。


 そう思いつつ素材を回収していると佐藤に気絶させられたガゼフが目を覚ましこちらへと近付いてきた。


「終わったようだな」


 ガゼフは、死闘を終わったことを噛みしめるかのように呟いた。


「サトウは……」


「死にました」


「……そうか」


 端的に俺は答えるとガゼフは顔に影を落とす。


 この1週間、ガゼフと交流が深かったのは意外なことに高橋よりも佐藤だと美咲から聞いた。


 訓練が終わってからも一緒に居ることがあったらしい。


 相棒と親しんだ副団長と勇者の中で最も親しかった佐藤が立て続けに死んだんだ。


 落ち込むのも無理は無いだろう。


 俺は他の人とは違い、少し狂ってるのでそこまで悲しいとは思わないが。


 俺がガゼフと佐藤の関係を推測しているとガゼフが俺を図るように訪ねてきた。


「ところで、この素材たちなんだが……」


「俺のユニークスキルです」


「……凄まじいな」


 この作戦を思いついた時からバレることは気付いていた。


 そして<分解修復>が有用なスキルであるということも。


「是非、これからも王国に貢献してもらいたい」


 ガゼフは鋭い眼光で俺を睨みつける。


 とても共闘した後に作っていい雰囲気ではない。


 勿論お断りだ、と伝えるわけにはいかないので俺は自分の感情を<偽装>をし王国に貢献す―――


「ッ!」


 突如、俺たちが居る場所の手前に巨大な岩が落ちてきた。


 俺たちに当たることは無かったが、着地した時に地面に亀裂が走り俺が居た床の穴が抜け俺はダンジョンの底へと落下した。


「サクラギ!サクラギぃいい!!!」


 俺が落ちる時に見た光景は、奈落の底へと向けて手を伸ばすガゼフ。


 こちらへと飛び込んでくる美咲。


 そして―――


「さよなら、桜木君」


 左腕が潰れ、肩で息をしながら俺を見つめる影山の姿だった。

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