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狩野トーマスの決意

狩野トーマスが背中の痛みで目を覚ますと知らない部屋で寝ていた。体を動かすと硬くて痛いベッドの寝ごごちは最悪であった。手で触るとまたこの感触、昆虫の殻の様だった。


上半身を起こし何があったのか思い出してみる。どこまで行っても止まらないエレベーターの中で暑さに耐えられなくなりそこから先は覚えていない。


誰かに助けてもらったのだろうか?見回すとベージュ色の六畳くらいの部屋でドアも窓も無い、ベッド以外何も置いていないようだった。ここが地上だとはとても思えない。額に何か冷たい物が張り付いているのに気が付き取ってみるとそれは冷え冷えシートだった。


「一体どういうことなんだ?」


呟くと同時に部屋の扉が横に開いた。それは壁と同化していたので扉と認識出来ていなかった。


5匹ほどの人型の昆虫がぞろぞろと中に入って来る。


「うわっ」


狩野トーマスが驚き上半身をのけぞらせて戦闘ポーズを取っているのに気が付くと一匹が手で制した。


「あー落ち着いてください狩野トーマスさん。我々はあなたの敵ではありませんよ」


人間の言葉を話している。目を細めてよく見ても目の前の昆虫のような質感の生き物は被り物の類ではないのは明らかだった。


「一体なんなんだあんたらは?」


話を聞いてみると昆虫のような姿をした彼らは人間とは違う進化を遂げた地底人だということがわかった。暑さにはめっぽう強く地下30km以内の地殻の中に居住地を構えて生活しているという事だった。エネルギーは地熱発電、必需品は人間に化けて地上に買い出しに出る事もあるということらしい。


狩野トーマスは道着の襟から汗でグニャグニャになった紙を取り出し何とか読めるように平らにすると地底人達に見せた。


「俺の飼い犬のジェットが攫われたんだ。ここの真上にある交差点に来いという事だったのだが、これを書いたのはあなたたちではないのか?」


地底人達は顔を見合わせ肩をすくめる。


「我々の居住地の上で今朝爆発があったのですが我々も何があったのか良く分かってません」


「謀られたということなんだろうか?あなた達と戦わせるために仕組まれていた?」


「今後調査していくつもりです」


先程地底人の一人を攻撃してしまったのを思いだし、狩野トーマスは謝罪したいと思った。


「火だるまにしてしまった彼はどこにいるんだろうか?あなたたちの区別がつかないが彼に謝罪したい」


すると一人の地底人が話し出した。


「私の息子はあなたの熱烈なファンなんです。監視カメラに映ったあなたを見て、居ても立っても居られず色紙を持って出かけて行きました。あなたに会うといきなり殴られて、蹴り飛ばされたと言って泣きながら帰ってきました。今も自室で泣いています」


「それはすみませんでした。息子さんに何枚でもサインを書きます。お許しください」


狩野トーマスは深々と頭を下げた。丈夫な息子さんで良かったとしみじみ思っていた。


アリの巣のような構造の地下通路を歩き、親御さんに案内されて蹴りを入れてしまった息子の部屋に入るとベッドで泣いていた。近付き誤解だった事を伝え謝罪すると機嫌を直してくれたようだった。サインを書いて一緒に写真も撮るととても喜んでくれたようで一安心した。


部屋を出ると促されて横移動のエスカレータのような乗り物で暫く移動し円形のホールに入ると椅子に座らされた。何が始まるのかと待っていると狩野トーマスを囲む様な形で地底人たちが高い段になっている椅子に10人程座った。


その中の一人が話し始めた。


「狩野さん。あなたは我々のテリトリーに偶然入ってしまったのだが、戻ってもこの地下世界の事は口外しないようにしてもらいたい。了承してもらわなければここから帰すわけにはいかない」


「何故自分たちの存在を秘密にしておきたいのですか?」


「それを君に話す必要は無い」


正面に座っているこの中で一番の長らしき彫りの深い顔の地底人の低い声がホールに響いた。


慌てて隣の地底人が言った。


「全てを隠していては彼も納得できないでしょう」


地底人同士が小声で話し始め、何を言っているのか聞こえないが議論が熱くなっているようだった。


話し合いの後に暫しの沈黙があり、端に座っている地底人が今度は話し始めた。


「我々地底人は地上に住む人間達の暮らしを静かに見守ってきた。それは今後も変わらない。今更出て行っても要らぬ混乱を引き起こすだけです」


「ただ地上を見守っているだけの存在ということですか?」


「そうです。人間同士の争いには干渉しません。ただ地球外の脅威には目を光らせています。最近は地上の様子を窺っている仲間から悪い知らせが次々入って来ている。宇宙人が地上を我が物としようと企んでいるということらしい」


狩野トーマスは身を乗り出して言った。


「宇宙人だって?知ってるぞ」


「そう。あなたがバラエティ番組で話している、あの宇宙人の事です。地上の人達はただの笑い話だと思っていますが」


「やはり人間にとって敵だったのだな。しかし奴等は何故表立って人間を攻撃をしてこないんだろうか?」


「惑星連盟に加入している星の先住民を攻撃出来ないからです。数百の連盟の勢力を敵に回す事になる」


「惑星連盟だって?そんなの初めて聞いたぞ」


「加入しているのは我々地底人なので地上の人間は知る由もありません。ただ地底人はこの星の先住民と見做されていないので宇宙人の攻撃を受け続けている状態です。最近仲間たちの死体が地上で発見される事が多くなりましたがそういう理由です。もし我々地底人が消されてしまえば自動的にこの星は惑星連盟を脱退する事になる。あなたたち人間が宇宙人の標的になることでしょう。宇宙人もそれがわかっていて我々を一人残らず殺すのに躍起になっている」


「宇宙人が攻撃していた時、地上の軍事力で対抗できるのだろうか?」


「全く話になりません。直ぐに占領されて支配されるだけの存在になるでしょう」


狩野トーマスは腕を組み暫く考えた後、正面の長と思われる人の目を見据えて言った。


「ここで出会ったのも何かの縁だ。あなた達が消されないように何か俺に協力出来る事はないだろうか?」


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