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森永安美


朝のHRが終わり僕は緊張していた。昨日のように御手洗さんはクラスメイトから袋叩きにされるのだろうか。もう出来れば出てきて欲しくない。


だが、いつも通りに御手洗さんは足早に前に出てくると教壇に立ち大声で言った。


「この島に急患が出ました。船舶免許を持っている方はいらっしゃいませんか?」


今日も何を言っているのかさっぱり分からなかった。


「一級でも、二級でもいいですから」


昨日の精神的責めでも折れなかった彼女にもう何を言っても無駄だと思ったのか、今日は何か言葉を発するクラスメイトはいない。皆怪訝そうな不愉快そうな表情で彼女を見つめているだけだった。


「船舶免許を持っている方いらっしゃいませんか?」


「うるっささささささあああああい」


一番後ろの席から大きな声がし皆の視線がそこに集まる。叫び声をあげたのはおかっぱ眼鏡ことクラス委員長の森永安美だった。


「あなたうるっさいのよ。毎日、毎日。ちょっと可愛いと思って調子にのってんじゃないわよ」


クラスがどよめいた。品行方正な委員長がこんな声を上げるなんて僕も驚いている。


「いいぞ委員長。お前だけが頼りだ」


誰かが言うと笑いが起こった。委員長は御手洗さんに指をさしてがなり立てた。


「何なのよその意味不明な質問は?何が正解なのよ、言ってみなさいよ御手洗令子」


もっとやれとクラスは団結して委員長を応援した。御手洗さんは困っているような様子はなく口の端を上げて言った。


「どうやら今度は当たりがでたようね」


そのまま後ろの席に戻って行った。教室はどよめき近くの生徒と顔を見合わせてバトルをしないで終わりなのかと不満を言ったり、逃げたとか言っていた。


御手洗さんは森永安美の席まで行き、船長が被るような帽子を彼女の頭に乗せて何かを耳元で囁く。


森永安美は慌てて言った。


「私は行かないからね」


困惑している表情だった。


「いいえ、あなたは来るわ。そのマドロス帽に誓ってね」


放課後に何かが起こるのは間違いない。僕は帰りに御手洗さんの後をつけてみようと思っていた。


午前の授業はいつもの妄想タイムで終わり昼休みになった。今日は天気が悪いので友樹と屋上扉前のスペースで食べようという話になった。


友樹は僕の手首に掛かっていた手錠が無いのを見て驚いていた。どうやって外したのかと聞いてきたので御手洗さんが掴んだら取れたと言った。


友樹は腑に落ちないようだった。僕は弁当箱を開け食べながら昨日の放課後からの御手洗さんの異常な行動についても話した。あまりのことに友樹は何度も本当なのかと聞き直したが、その度に起こった事だと言った。


友樹は僕が嘘を言う人間ではないと知っている。僕の弁当をじっと見ながらアンパンの袋を握りしめ真剣な表情で何かを考えているようだった。無意識から出た行動だろうが友樹は僕の弁当が食べたいのではないだろうか。菓子パン一つだけでは頭も良く回らないだろう。弁当のおかずのウィンナーを箸で摘まみ友樹の口に持って行くと、何も言わずに友樹は箸に食いつき口を動かしていた。今度は米の塊を持って行くと、それも食べた。雛に餌をやる親鳥のような気がして僕はなんか楽しくなっていた。


うーんと唸ると友樹は真っすぐ僕を見て言った。


「クッチー、今、宇宙人の目撃情報がいろんなとこで出てるのを知ってる?」


「宇宙人?どんな?」


友樹が言うには、一見人間のような姿に化けた宇宙人が各地で目撃されているらしい。その中には顔に昆虫のような大きな複眼があり、体は硬い殻で覆われている宇宙人がいるということだ。


御手洗さんは実は宇宙人でこの地球で何か調査しているのではないかということが友樹が昼休み中考え抜いて出した結論だった。


あんまり期待してなかったから別にいいかと思いつつ友樹に話せてスッキリとした気分になっていた。そして友樹は腹ペコのようだから今後は母親に弁当を多めに作って貰って食べさせてあげようと思った。予鈴を聞いて僕たちは教室に戻った。



午後の授業も先生の話なんか何も聞いてなかった。御手洗さんがカマキリなら僕もカマキリ。二人は結ばれた後僕は頭から食べられるというような妄想をしていた。御手洗さんの血肉になるならそれもいいかとか思った。


帰りのHRが終わると教室を出ていく御手洗さんを確認し後をつけた。彼女は足が長いので歩幅は広く颯爽と廊下を歩いてサラサラと光る黒髪が左右に揺れている。後ろ姿に見とれながらも見つからないように一定の距離をあけて離されないようについて行く。昇降口で外靴に履き替え出口を右に曲がると中からは死角になっている所で彼女は待ち構えていた。驚いて尻もちをつくと彼女は蔑む様に言った。


「さっきから私の後をつけているようだけど、何か用なの朽木君?」


とっくにバレていたようだ。僕は慌てて言った。


「い、いえ。僕も帰る方向が一緒だったんです」


御手洗さんはしゃがみ込むと僕に目線の高さを合わせ顔を近づけてきた。


「これ以上近づくと戻れなくなるわよ朽木君。早くお帰りなさい」


子供を諭すように言われて僕は少し腹が立ってきた。


「いいんです。僕があなたについて行きたかったからついてきたんです」


立ち上がると僕に冷たい視線を投げかけた。


「じゃあ好きにしたら」


背を向けるとまた歩き出す御手洗さん。吐き捨てるように言った彼女にゾクゾクしながら後について行く。何の根拠も無いがこの後何かが起こったとしてもここで帰ったら一生後悔するような気がする。


思っていた通り目的地は校舎裏だったようだ。到着するとそこには委員長の森永安美と何かを話しているもう一人の御手洗さんがいた。


僕はすぐ隣にいる御手洗さんと森永安美と話している御手洗さんを交互に見た。


「何で二人?あなたは双子だったんですか?」


「しっ、黙って。あれはジェットよ」


「ジェット?」


ジェットと言われたもう一人の御手洗さんは、昨日のようにスカートの中に手を入れパンツを下ろし、しゃがみ込むとそこで粗相をした。


「あっ、またしてる」


僕は恥ずかしくて目を覆いたくなるが、あれはどうやら御手洗さんでは無いから見てもいいんだと自分に言い聞かせた。森永安美は何でか慌てだす。様子が変だ。肌が緑色に変色していき眼は大きく複眼に、体の形も変化して突起が制服を破り昆虫人間のようになった。


「な、なんですかあれは?」


「あれは地底人よ。今ジェットが始末するわ」


昆虫人間は逃げようと走るが、何かにぶつかって倒れた。見えない壁があるらしく、そこで立ち止まっている。


「あそこに見えない何かがあるんですか?」


「ジェットのフィールドよ。周りから見えないし、中に居る者は出られない」


ジェットと呼ばれる御手洗さんそっくりの人型の何かは飛び掛かり昆虫地底人を溶かしながら食べた。


「ああ、グロいのを見てしまった」


正直見たくなかったが、好奇心が勝って食事シーンを全部見てしまった。


「あなたは自分の意志でここに来たのよ。もう私から逃げられないからね」


御手洗さんは僕を見て微笑んだ。その顔を見て僕の胸は高鳴っていた。


怖いと思う以上に嬉しい。御手洗さんから逃げられない。僕は御手洗さんに必要とされている。


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