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31 蜉蝣

(悪樓さんに抱かれたい、一つになりたい。由依ちゃんになんて渡したくない。早く、本当のお嫁さんになりたいよ。悪樓さんと生きていけるなら、もうなにも怖くないもん)


 悪樓の少し冷たい体温も香りも、離したくない。寿命が短くなっても、自分だけのものであって欲しいと願うほど、悪樓に強く惹かれていた。彼女の心の声が聞こえたのか、悪樓は美雨を熱っぽく見つめると、頬を撫でた。


「美雨。日付を跨いだ。あと一夜明ければもうすぐだ。花嫁衣装も用意させてある。ずっとこの日を指折り待ち望んでいた」

「はい、悪樓さん。私も楽しみです」


 美雨が頷くと、二人は口付けて指を絡めた。切ない悪樓の瞳を見るたびに、胸が締め付けられる。美雨は何度生まれ変わっても、必ずこの人を愛すると強く確信した。


 ✤✤✤


 ――――悪樓が屋敷に戻る、一時間ほど前のこと。

 陽翔は、友人たちと屋敷に戻ると風呂に入った。祭りでの苛立ちを静めるために、海の方へ向かう。悪樓と言い争いになってから、穂香ともなんとなく気まずくなり、他の仲間たちにも気遣われているようで、居心地が悪い。


「ほんと、マジでありえねぇな。はぁ、こんなことになるんだったら、美雨とやっとけば良かった」


 陽翔は悪態をつきながらタバコに火をつけ、浜辺を歩いていた。自分に好意を寄せる美雨に、安心していたのかもしれない。

 なんせ、幼稚園の時に結婚しようといった約束の言葉を覚えているような、純粋さだ。

 陽翔はスポーツ万能で明るく、勉強も平均より上、整った容姿で同級生はおろか上級生からも人気の的だった。

 思春期のまっただなか、選び放題で女には困る事もなく、美雨など眼中になかった。

 けれど、美雨のように一緒にいて、疲れずわがままを許してくれて、自分の欲求を飲んでくれる女というのは、そうそういない。

 地味で、目立たないようにしているが、美雨は顔もそれなりに可愛いし胸も大きい。


「付き合いも長いし。なんだかんだあいつが一番、俺のこと良く分かってんだよな。あんなエロい体してんなら、余裕で合格ラインじゃん」


 どうやって美雨を取り戻すか。

 仄暗い視線を前方に向け、陽翔は悪知恵を働かせる。タバコの明かりと月光、そして提灯の明かりを頼りに浜辺を歩く。不意に何気なく遠くを見ると、なにか波の間にキラキラと光るものが浮かんでは消えているのに気付いた。

 不審に思って、陽翔はそちらに向かい慌てて岩に隠れ、息を殺す。


「なんだありゃ……クジラ? イルカ?」


 そんなものではない。見たこともない大きな魚だ。青い夜光虫の中に泳ぐ幻想的な巨大な魚は、一瞬リュウグウノツカイのようにも見えたが、それ以上に巨大で、長く、角のような赤い背ビレが生えている。

 まるで、海竜。海を泳ぐ龍のように見えた。

 銀色と赤色の尻尾が見え、大きく波を叩く音がしたかと思うと、しばらくして静かになり、夜光虫の青い光に彩られて、海から人影が上がってきた。


「……っ!」


 陽翔は見つからないように様子を伺う。

 月明かりの下、銀色の髪を靡かせ、腕や背中に鱗が生えた悪樓が、全裸で均整の取れた体を濡らし、砂浜に上がってくるのが見える。

 そしてあっという間に人間離れした銀髪が黒く染まり、着物を身に纏う。髪も濡れた様子もなく、何事もなかったかのように普通の人間になると、月明かりの中網元の本家に向かって歩いていった。陽翔は、岩で身を隠しながら体を震わせ怯える。


「なんだあれ……なんなんだあれ。あいつ、化け物………化け物だ」

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