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12 来訪祭②

 悪樓の柔らかな微笑みを見るたびに、美雨は流されて、自然に『嫁御寮』と呼ばれる自分を受け入れてしまう。美雨が悪樓と、和やかに話していたその瞬間、突然外が光ったかと思うと、つんざくような大きな雷鳴が轟いた。

 驚いて悲鳴を上げた美雨は、反射的に真横にいた悪樓の着物にしがみついてしまった。

 彼女を受け入れるように、やんわりと悪樓に抱き寄せられる。


「ご、ごめんなさい。す、凄い音でしたね。どこかに落ちてないといいな」

「来訪祭が始まった。異界入りしたマレビトが若者組だと祭り騒ぎになる。この雨と雷鳴は、それを告げるのだ。しかし美雨は……怖がりのようだな」

「らいほう……まつり?」


 背中を撫でられ、美雨は頬を染めながら顔を上げると、悪樓は妖艶に笑った。

 しかし彼の言葉は古風で、現代に生きる美雨には理解できない。雷を恐れ子供のようにあやされるのが恥ずかしくなって、美雨はやんわりと彼の体から自分を離した。


(ニュアンス的に『らいほうまつり』は島に来た人を歓迎するお祭りなのかな……?)


「私はその……らいほうまつりに参加しなくてもいいのですか? 歓迎してくれているのに参加しないなんて、失礼になったり……」

「――――必要がない。貴女を誘うようなそんな愚か者は村にはおらぬだろうが、参加したいのか?」

「え……?」


 嫉妬混じりの挑発的な物言いに、美雨が驚いていると彼の指が顎を掴み、屈むようにして口付けられた。

 そして、悪樓は彼女の唇を親指でなぞるとじっと見つめる。美雨は瞳を潤ませ顔が熱くなるのを感じた。


「嫉妬深い男は嫌われてしまうな。もちろん、私は貴女を傷つけるようなことはせぬが。邪魔立てしてすまぬ。私は母屋に戻る。好きなだけここで本を読むといい」

「待って下さい! だ、大丈夫です。あの私、悪樓さんともっとたくさんお話しをしたいです。この島のことも、島民の人たちのことももっとよく知りたいし。また色々教えてください」


 家族のことを考えない訳ではないが、悪樓と話していると、両親とも比較的仲が良い方なはずなのに、二度と会えなくなって、一生ここで暮らすかもしれないという寂しさや、恐怖は感じない。

 むしろ、この島が本来いるべき自分の場所のように思える。それに、なぜか彼の側にいると、故郷に戻ったような懐かしい気さえした。


「無論。明日には晴れるだろう。小嶌には美しい場所がたくさんあるから、私が案内しよう」

「はい」

「この雨が止むまで、貴女の話を聞かせてくれ」


 ふっ、と悪樓は笑うと指を絡めた。

 話をしているうちに、いつの間にか雷鳴は遠くへ行き、さらさらと小雨の音が響いている。美雨は慣れない場所で疲れていたのか隣で眠気に襲われ、彼の喉元に額を寄せると、心音と肌から上品な黒方(くろぼう)薫物(たきもの)の香りがして、心地よさにそのままは目をつむった。

 

 

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