第3話 未知の生物、ドラゴンを観察してみた!
今、ドラゴンを撮影できる人間なんて自分1人だろう。このチャンスを逃すわけにはいかない。
月明かりが照らし、虫の音が響く闇夜に、俺は1人、目的のため歩いて行く。助けなんていらない。俺はただ俺の動画を見てくれる視聴者のために進むのだ。
記憶が正しければこっちのはず。間違っていたらその時はそん時だ。
「お、いたいた」
少し開けたところにコウモリのような翼を布団のように被り眠る赤いドラゴンがいた。
俺は木陰の少し離れたところから手に装備していたビデオカメラを起動して録画を始めた。
「どうもみなさんこんにちはノボルチャンネルへようこそ。今、私は、未知の生物の前にいます」
ドラゴンを起こさないよう小声で動画の挨拶をする。
「ドラゴンでしょうか? 前足が確認できます。いわゆるワイバーンではなく4本の足があるドラゴンです」
俺は前足があることをズームして確認する。
「CGなどではございません。全て事実でございます!」
俺は少しずつ忍び足でドラゴンに近づいて行く。
「ビビってる暇はありません! さあ観察していきましょう!」
手の届くところまでやってきた。ドラゴンは唸るようないびきをあげながら眠っている。
皮膚は爬虫類のようで、手のひらのサイズほどの鱗が一枚一枚重なっている。
俺はドラゴンが眠っていることを確認して触れてみた。
「とても硬いです」
爪で叩いてみると、コツコツと音がして、剣や刀で簡単に貫けるものではないとわかった。
尻尾は鋭い刃物のようだった。
次に前足を見てみると、鋭い黒い爪を有していることがわかる。
視点を前足から頭部に移した。太い2本のツノが生えていて、ワニや恐竜のような輪郭で、凛々しさを感じた。
「かっこいいですね」
俺は動画投稿者としての好奇心で頭に手を伸ばし撫でた。
「今、私はドラゴンを撫でています。おそらくYouTuber初でしょう!」
俺は撮れ高を期待し、さらにエスカレートしていく。俺はドラゴンの頰に自分の頰をくっつけた。まるでライオンをペットにして暮らす海外の猛者のように張り付いてみた。自分の顔が映るよう自撮りする形でビデオカメラを持った。
「私は今、ドラゴンと接触しています!」
カメラに向かってそう言い、ドラゴンの方を見てみた。
目が合った。ドラゴンは起きていてこちらを凝視していた。
数秒目が合ったまま固まった。
「撮れ高は十分だ! 撤退撤退ッ!」
俺が急いでその場を離れようとすると、ドラゴンは起き上がり雄叫びを上げた。
「まずい。俺死ぬかも!」
命の危機を感じながらもカメラは止めずに全力で走った。
ドラゴンが前足を突き出し、歩き出そうとしたその時、ドラゴンは体勢を崩し、音を立てて倒れ込んだ。
「なんだ?」
明らかに挙動がおかしかった。自分の命の心配はないと判断し、ドラゴンに駆け寄った。
苦しそうに息を吐くドラゴン。腹部を見ると傷があり、血を流していた。
「大丈夫かお前!」
明らかに大丈夫じゃなさそうだ。しかしドラゴンの怪我の応急処置など素人の俺にはわかるわけがない。何かしてあげたいが、何をしたらいいのやら。
「動かないで横になってろ。俺は敵じゃない」
俺は宥めるようドラゴンの頭を撫でた。ドラゴンは抵抗する気力もないのか荒い呼吸だけをしていた。
しかしこの傷、何者かに攻撃されたのだろうか。何かで突き刺されたような傷跡だ。
数秒後、その正体がわかった。木陰からこっちを覗く数体の目。さっきのツノの生えたイノシシウサギだ。
「寝込みを襲ったのか?」
奴らは自分よりも数倍大きいドラゴンをも攻撃するのか。
5体以上確認できる。ここから逃げたらこのドラゴンの身が危ない。
いや、逃げ出すことはできなさそうだ。完全に囲まれた。
少しずつゆっくり木陰から出てくるイノシシウサギ。
こっちにくる前に急いで何か武器になるものはないかリュックと紙袋を探す。
そして取り出した圧力鍋の蓋とビデオカメラのスタンド。蓋は分厚いので盾になるし、スタンドは鈍器になる。装備すればほぼ勇者のフォームだ。
リュックと紙袋をドラゴンのそばに置いておく。
「これは忘れちゃいけねぇ」
忘れずにもう一つのスタンドにビデオカメラをセットする。未知の生物と戦う勇姿を納めないともったいない。
カメラをセッティングすると、タイミングを見計らったかのように一斉に向かってきた。思ったより数が多い。10匹くらいいるだろう。
「こい! 相手してやる!」
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名前:辻風 昇
職業:無職
チャンネル名:ノボルのトコトコチャンネル
登録者数:16
総視聴回数:2373
総再生時間:373.5
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コメント:15 「ドラゴン写ってる?」
何か反応をください。辛辣なコメントでもいいので。