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第1話 底辺YouTuberの日常

10万文字ちょっとで第一章完結予定です。

「どうもみなさんこんにちは! ノボルチャンネルへようこそ! 今日はこのポテトチップスを食べたいと思います!」


 アパートの一室、カメラの前で1人喋っている俺はYouTuberだ。

 今日も人気YouTuberを夢見て撮影中。

 今はみんな大好きなポテトチップスを食べる動画を撮影している。みんな大好きなんだから動画も見てくれるに違いない。そう思って俺は食レポを始める。


「美味しい! 美味しいですねぇ〜ああ美味しい。この塩がね、美味しいですね。うん美味しい」


 しっかりと魅力を伝え、美味しく食べる。YouTubeの基本は心得てるつもりだ。もう1年もやっているんだ。なのに再生数は多くて10回。登録者は1人しかいない。何が問題なのか。


「今日の動画はここまで。次回はカメラを新調するので見やすく綺麗になっていると思います! 是非次回もご視聴ください!」


 問題なのはきっとカメラだ。カメラをよくすれば視聴率も上がるだろう。そうに違いない。

 そう考えた俺は日本最大の電気街、秋葉原に足を運んだ。

 メイド喫茶など目を引くお店がたくさんあったが今日の目的はそんな浮ついたことではない。れっきとした仕事で来たのだ。

 道なりに歩いてジャンク通りに入るとレトロな電気屋が増えてきた。

 その中の1つのお店の看板が目に止まった。

 その看板には「YouTuberいらっしゃい」と書いてあった。


「ここ入ってみよう」


 看板のYouTubeという文字は、どこに入っていいか迷う自分にとって良い後押しになった。

 店の前には安くなったジャンク品が山のように積まれ、他のお店に比べて手頃な感じがしたのもきっかけだろう。

 店に入ると中は扇風機やらパソコンやらが無造作に置かれ、上からいくつものコードが垂れ下がっている。まるで機械が生い茂ったジャングルだ。


「ここなら俺が今持ってる機材を一新できそうだ」


 人が歩けるように押し除けられた機材の間を獣道を辿るかのように進み、山菜を収穫するかのように新しいビデオカメラやマイク、三脚などを見定めていく。


「こ、これは圧力鍋。しかもお手頃価格……。欲しい。しかし今日は仕事で……。いや、YouTubeでこの鍋を使えば問題ない?」


 欲しいものがたくさんあり葛藤もあった。1時間ほど入り浸ってやっと決めることができた。優柔不断なのは俺の悪いところだ。

 散乱している床のトラップに気をつけながら抱えた商品をレジまで運ぶ。

 やっとレジのカウンターに辿り着き荷物を置いた。


「こんにちは〜」


 レジに誰もいなかったので店の奥に尋ねるように声をかけた。


「はいはいはい今行きますねー」


 奥から男の声が返ってきた。


「いらっしゃい」


 奥から出てきた男は謎の仮面をかぶっていて顔は見えなかった。

 正直びっくりした。どこかの民族がつけてそうな仮面だ。


「にいちゃんYouTuberだろ?」


 男は電卓で俺が持ってきた商品の合計を計算しながら俺に問いかけた。


「俺もとうとう気づかれるくらい有名になったのか!?」

「自惚れるなにいちゃん。お前みたいな奴をたくさん見てきたからわかるんだよ」


 男は笑いながら言った。1年コツコツ動画投稿した甲斐があったと思ったのに辛辣だ。


「そんな顔すんな。お前は俺がいつも見てきたYouTuberとは違うオーラがある。粘り強いオーラだ。決して諦めずに努力する。そんな奴が人気YouTuberになるんだ」


 なんだか説得力を感じる言葉だ。きっと幾人もの底辺YouTuberを見てきたのだろう。そんな男に言われた褒め言葉は嬉しいものだ。


「どうだい。こんなのがあるが買っていくかい?」


 男がカウンターの隅から謎の立方体を持ち出した。1辺15cmほどの大きさだ。


「大抵のものが充電できるモバイルバッテリーだ。こんなの滅多に手に入らない代物だぞ。二千円でどうだ?」

「いらないよ。充電器は買ったけどモバイルバッテリーはまた今度でいいかな。嵩張りそうだし見たことないから難しそうだし」

「エジソンは言ったぞ。『天才とは、1%のひらめきと99%の努力である』ってね。つまりさっき言った君が努力できる人間だって話も、センスがなきゃいくら努力したって意味がないってことになる。こういうレアな代物をYouTubeのネタにしようって考えにはならないのか?」


 やはりこの男は辛辣だ。グサグサと心に刺さってくる。


「わかった。買うよ」

「毎度あり!」


 今日買った品々を二つの紙袋とリュックに入れて店を後にした。

 その紙袋から仮面の男に買わされた立方体を取り出した。


「まんまと乗せられてしまった」


 よくよく考えると俺は間抜けだった。何がエジソンだ。無理矢理偉人の言葉を利用して説得力を持たせたんだ。

 ていうか重たい。結局圧力鍋も買っちゃったし帰りは過酷な道のりになりそうだ。

 俺は紙袋を両手に空を見上げた。視界いっぱいに青空が広がり、綺麗だった。


「YouTube。頑張るぞ!」


 両手の袋も夢と希望の重さのように感じてきた。俺はポジティブな人間なのだ。

 家に帰ろうと、重い荷物を持ち電車に乗り込んだ。

 さすが都会といったところか、帰りの電車も混み合っている。当然空いてるイスはなくドアのそばに立つことにした。

 何かイベントでもあったのか、次の駅に停まると大量の人が押し寄せて来た。満員電車である。

 ドアの窓に顔を押し付けるほどの混み具合で、一番近くにいたデブ男が拍車をかける。

 外はもう夕暮れで、さっきまで青かった空も夕闇に染まろうとしている。

 電車が揺れた。大量の人の体重が俺の方向にかかる。

 く、苦しい。声も出ないほど重かった。特に目の前のデブ。

 不意に耳の奥で鐘がなったようなコーンという音が鳴り響いた。

 その瞬間、圧迫感から解放され、その反動で俺は地面に手をついた。


「草だ」


 視界には倒れて咄嗟に突き出した手とそれを支える草の生えた土。感触は、少しチクチクしていて芝生そのものだった。


「え?! え?!」


 何が起こったかわからず辺りをキョロキョロ見回した。

 まずわかったのは、俺は今、電車の中にいない、と言うことだった。

 森だろうか、木々が生い茂っていて今俺のいる場所は少し開けている。

 冷静に分析しているが、全く理解が追いついていない。

 とりあえず立ち上がる。


「俺死んだ? 天国? いやいや、デブに潰されて死んだなんて最悪だよ!」


 足元には秋葉原で買ったものが入ってる紙袋が二つ倒れている。


「俺、夢を見てんのかなぁ」


ーーーーーーー

名前:辻風 昇

職業:無職

チャンネル名:ノボルチャンネル

登録者数:1

総視聴回数:65

総再生時間(時間):0.9

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