表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ラブコメ・恋愛

そういうあなたはどうなのよ


「これ、このメールはなんなのよ」


「こ、これは、冗談で送ってきただけで。それが浮気の証拠になんてならないだろう」


 修羅場っていた。

 幼馴染の二人がまさか、ケンカ別れか。

 幼馴染の二人の向かいの家に住むモブは、窓が開いていたせいか、向かいの会話が聞こえていた。


「じゃあ、これは、この可愛らしい名刺は何。もしかして、そういうお店に行ってきたの」


 あ、あいつ、高校生でまさか、もう……許せませんよ。

 彼女がいるのに、お店とか。今度、俺も連れて行ってほしい。


「だ、だったら、この男誰だよ。雨の日に、二人で傘をさして歩いていたようじゃないか」


 えっ、両方、別の異性とーー。

 幼馴染も現実では理想とは違ってしまうのか。二人ラブラブではなくて、ああ、なんて哀しいんだ。

 俺は、そっと自室の窓を閉めた。そうすれば、二人の声は何を言っているか分からない程度のボリュームになってくれた。二人は、それからもしばらく言い合っていた。





 学校に行くと、二人の幼馴染は仲睦まじく弁当を食べていた。

 うん、夫婦喧嘩は犬も食わないと。

 あんな喧嘩をしていた次の日には、一緒にお昼ご飯とは。

 その胆力、尊敬します。


「昨日のことはいいのか?」


 俺は、自然と二人に割って入った。

 カップルの食事中に割り込めば、馬に蹴られてしまうかもしれないが、まぁ、親しき仲だから遠慮しないでおこう。

 今日は少し距離おいていたし。巻き込まれたくなくて。


「昨日? なんかあったっけ」


「いや、何もなかったと思うが」


 うん、よかった。なんでもないやー。

 いらぬ虎の尾を踏むこともなさそうだし。やぶ蛇も危ないし。


「あ、そうだ。昨日、ボードゲームやってたんだ」


 彼女は箸を止めて言う。


「ボードゲーム?」


「そういうあなたはどうなのよ、っていう浮気の言い訳ゲーム。二人には、浮気の証拠カードが3枚配られるんだけど、それをめくって、追求されたら言い訳して、見事、浮気を回避して、真実の愛を守れるかという」


 なんだ、その修羅場を潜り抜けるゲーム。

 俺も混ぜて欲しい。いや、二人プレイが限界か。


「ちょうど、今持ってきてるぞ」


「ちょっと、遊ぶ物持ってきちゃダメだよ」


「これは知的ゲームだから知育玩具でオッケー?」


「なわけないけど。説明してあげたら」


 俺は、そういうあなたはどうなのよ、のルールを読む。

 浮気の証拠カードを3枚配る。男性、女性に分けられる。

 プレイヤーは交互に一枚ずつ相手のカードをめくる。

 浮気の証拠に対して言い訳をして相手を説得する。

 破局せずにカップルを維持できれば成功。


『君は、この浮気の証拠から逃げ切って、パートナーとの愛を守れるか』『+浮気の言い訳の練習にも最適』と。

 なかなかに修羅場ゲームのようだ。二人とも許すつもりでやれば出来レースだけど。本気でやれば、怖いって。


「浮気の証拠か。『襟首に、女性の口紅がついていた。明らかに彼女のものではない。ほのかに服に香水の匂いもついているようだ』」


「あー、あったな。それ。偶然、道端で人にぶつかった時についたって言い訳した」


「満員電車でついたとかでも潜り抜けれそう」


「ふふっ、ずいぶん身長の高い女性だったみたいね、って聴いて、どんな女性だったって聴いたら、ペラペラ容姿を喋ったから、なんでそんなに詳しく憶えてるのって突っ込んであげた」


「俺が必死に、容姿をイメージしてたのになぁ。マジ、ビビった」


 ご愁傷様です。たしかに偶然ぶつかった人を詳しく憶えていたら怪しいよなぁ。


「気になるなら二人で今やってみるか。道具も少ないし先生に見つからないっしょ」


「え、彼女と」


「俺とお前で」


「男同士かよ」


「安心しろ。女役は俺がやってやるって」


 そういうポイントでもないんだが。

 まぁ、いっちょ、やってみるか。



 そういうあなたはどうなのよ、のカードを配って、準備を終えた。

 幼馴染の彼女は、さも関係ないかのように静かに隣りの椅子に座っていた。


「ふはは、俺のバトルフェイズは強いぜ」


「どこに女役要素が」


「わかったわかった。ちゃんと女子にするから。えーっと、女の子の声、女の子の声。よーし、やるぞー」


「普通にキモい」


「え、なにがー。わたしの声、変かな」


 幼馴染男子が芸達者すぎる。お前、まさか、普段から女声の練習とかしてないよな。女子っぽすぎて引くんだが。見ろよ、幼馴染女子が愕然としてるぞ。


「声真似の達人なんでな。大概の声はトレースできるぞ」


「いらん特技を」


「声真似一発芸の力を知らないのか。人気者になるための作法だぞ」


 たしかに。言われてみれば……。

 いや、今はゲームの方だ。


「先行は男からだよな」


「うん、めくっていいよ」


「女子っぽいけど、顔を見なければ。めくるぞ」


『男友達もいるグループで遊びに行って朝帰りしてきた。しかも、お酒を多く飲んでいたようだ』


「ど、どういうことかな、カノジョー」


「えっと、女友達の家に泊めてもらったの。飲みすぎて帰れなくて」


「普段、お酒飲んでもあんまり酔わないよね」


 こういうのはアドリブが大事なのだ。ストーリーを作り上げるために。


「うん、一升瓶飲んだからー。さすがによっちゃたー」


 可愛い声で一升瓶飲み干した宣言、だが男だ。


「ごめんね、ダーリン」


 うわぁ、素直に気持ち悪い。顔を見るな、声だけ信じろ。声だけが真実だ。


「いや、いいんだ。ただ、今度から飲みすぎないように。それと、連絡を入れるように」


「てへぺろ」


 やめろー。変なノリをするな。

 幼馴染女子の視線も痛いんだよ。冷めた目でこっちを見てきてるって。俺の趣味じゃないぞ。


「でもー、そういうあなたはどうなのよー」


 浮気の証拠カードがめくられた。

『大量のエロ画像が見つかった。しかも同じ女優ばかりだ。さらに、全然彼女と似ていない』


「これも浮気なのか」


「精神的な浮気なんじゃないか」


 元の男声で言ってくる。お前、絶対、普通に見てるだろ。


「誤解だ。これはずっと前にダウンロードしたもので、今は全く見ていない」


「でも、これ、最近ダウンロードしたのあるよー」


 ごはぁっ、そんなアドリブをいれるなー。

 俺の言い訳に合わせろよ。


「そ、そんなはずないなぁ。たぶん、スマホの時刻がズレてたんだ」


「ふむ、スマホに保存しているタイプか。ーーーー、えー、でも、機種がわたしと付き合ってからのだよねー」


 お前、俺を殺る気か。

 お前が本気ならこっちも徹底的に叩いてもいいんだぞ。


「か、仮に、たまぁに、見てたとしても、それは、君の可愛さを分かるためにだよ」


「じゃあ、削除していいよね」


「も、もちろん」


「削除〜削除〜、はい許してあげる。二度目はないよ」


 ああ、精神的に磨耗するゲームだな。

 だが、分かった。俺は手心を加えない。アドリブは先に加えた方が有利。相手を追い詰めてやる。


「浮気の証拠カードオープン。『あなたは探偵を雇って、尾行をさせました。すると、頻繁に彼女はある男性と会っているようです。あなたはその男性に見覚えがありません』。ああ、これは、もうダメだな。男と密会。もう信じられないよ」


「それ、お父さんだよ。わたしの」


「いやいや、お父さんは、全然違う顔だったろう」


 俺は引かない。この言い訳は通さない。


「うん、育ての親じゃなくて、産みの親なんだ。ごめんね、こんなこと言えなくて……ぐすん」


 あっ、ごめん。

 いやいや、そんなバカな言い訳を通してなるか。


「そんな嘘をーー」


「し、信じてくれないの」


 なんか、こっちが悪者みたいな。


「わかったわかった。今度、その証拠を持ってきてくれたらいいから」


「やったー。嬉しい」


 なんて声だけのやつなんだ。

 というか、がちで女声上手だな。違和感ないわ。

 

「じゃあ、こっちの番だね。浮気の証拠『偶然通りを歩いていると、彼氏が女性と腕を組んでいた。二人をつけると仲睦まじそうに映画館に入って行った』ーーふーん、そう、もう別れよっか。わたしたち無理だよね。不倫は文化だもんね。浮気は男の甲斐性だよね。据え膳食わぬは男の恥だもんね」


「ご、誤解だっ!!それは、えっと、それは〜」


 えっ、なんだ、この絶望のカード。腕組んでる時点で限界突破してるよね。ただ組んで歩いていただけの女友達。無理だ。それはあり得ない。

 でも、まだっ!


「そ、それは、俺のお母さんだ。母さん、いつも腕を組みたがるからなぁ。若い彼氏がいるふうに見せたがる美魔女だから。あれで、40代なんだぜ、信じられるか」


「マザコンと」


「おい、今、レッテルをペタっとしたな」


「ううん、お母さんと末長く幸せにね」


「……ああ。浮気じゃなかっただろう」


「そだねー。そうかな」


「そうだよっ。さて最後のカードか。『元カレとまだ連絡をとっているようだ。しかも、今度内緒で会うことになっていると発覚した』ーー、おいおいおいおい、これは、もう黒確定だろ。真っ黒だろ。なんで内緒にしてたのかな」


「元カレから脅迫メールが来てて、カレシがいるなんて言ったら、あなたが危険だと思うし、わたしが一人で解決しなきゃって、そう思って……うるうる、うるる……」


 こいつ、泣けばいいと思ってそうだな。

 でも、これ責めづらいぞ。


「なんで連絡先ブロックしなかったんだ」


「彼、住んでる場所知ってるし」


 ダメだ。思いつかない。ここからの責め方。


「一緒に解決しようか。その問題を」


「うん」


 ああ、俺ってやつは。

 簡単に女子に手玉に取られそう。

 まぁゲームの趣旨的には成功で終わった方がいいのか。


「最後、開けるね。『公園で女子小学生に彼氏が抱きついているのを目撃した。女の子は驚いた表情をしていた』、サイテーのロリコンゴミ野郎。小学生に手を出すとか浮気以前に、通報なんだけど。刑事事件なんだけど。触ったら逮捕なんだけど」


「ご、誤解だっ!!」


 俺は何度誤解を解けばいいんだ。

 てか、もっと普通の浮気カードこいよ。

 なんで浮気相手が幼女なんだよ。公園で小学生に抱きついたら、それはもう事案なんだよ。


「と、友達の妹と一緒に遊んでただけだ」


「へー、友達の妹に欲情して、つい興奮してフンガフンガしたと」


「フェイクニュースだ。間違いだ。それは俺じゃない」


「さっき友達の妹と一緒に遊んでたと言ったばかりじゃない。ああ、そっかー、わたしと付き合ったのも、わたしが幼い顔で身長も小さいからかー。あー、そっかー」


 ナポコフさん、なぜロリコンは言い訳しないといけないのでしょうか。助けて。ロリコン罪で捕まる。


「そ、それでも、君のことが一番好きだ。小学生とは結婚できないじゃないか。ロリコンかもしれない。でも、俺は法律を守る」


「守ってないし、普通にタッチしてるんだけど」


 もう矛盾なんてしーらね。早く終わらせよう。


「小学生に抱きついてわかった。俺は君の方に欲情すると」


「えっと、うん、豚箱に、会いに行くねーーーー。ということで、刑務所ラブエンドと」


「精神が、精神が、や、やられる」


「おーい、どうだったよ、俺の迫真の美声は」


 幼馴染男子は颯爽と、幼馴染女子の方に歩み寄るが。

 幼馴染女子は全く見向きもしない。我関せずと、教科書に顔を埋めている。


「ん、どーした」


「周り見てみなよ」


 ぼそっとそう呟くのが聞こえた。

 俺は、クラスを見回した。

 

 無茶苦茶、見られてました。

 女子たちがすごい目で見てきている。あるグループはキラキラした目で、あるグループはゴミを見るような目で。

 あれ、俺ゲーム中なんかボリューム上がってたかな。まずいことを言ったかな。

 

「ご、誤解だっ!!!!!!!!!!!」


 俺は、言い訳にはクリエイティブが必要なことをよく学んだのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ