私の中に突然現れた存在、だがそいつのおかげで私は手遅れにならずに済んだのかもしれない
「誰だ貴様は!!」
私はここ数日熱で寝込んでいて目が覚めた時に私の中に何かがいる事に気づいた。
私は誰もいないのを確認して自分の中にいるそれに話し掛けた。
『俺か? まあ話すけど、ちょいとややこしいんだよな』
それから私は話を聞く事にした。
そいつの名前はケイという名前で私の住むこの世界とは別の世界で事故にあって命を落としたと言っている。
普通に考えればバカバカしい話だと思うだろう。
『そう思うけどよ、お前と俺の記憶は共有してるみたいだから俺の記憶を見れば俺の言っている事が本当だって思うだろ?』
確かにケイの記憶には見た事ない建物、見た事ない服装、見た事ない料理などたくさんの見た事ないものがあった。
とても単なる妄想だとは思えなかった。
『俺の話が本当だって事がわかったところで次の話に行くけどさ、俺は死んだ後どうやらお前の中に入ってお前の魂と記憶が共有して前世が俺だった事を思い出すみたいな流れだと思うんだけど、どうやら何かしらの原因で記憶は共有したけど魂は別々になってしまったようだな』
何て恐ろしい事を言うんだ。
つまりあのまま魂も共有していたら私という人格が消滅していたかもしれないという事か。
そうならなかったのは取りあえず喜ぶべきだが、問題があった。
「お前が何故私の中に現れたのかはわかったが、私の中に留まっている魂のお前は外に出られないのか?」
『無理じゃね? だって俺自身どうやって出たら良いかわからないし』
「それは、つまり」
『このまま、お前との共同生活だな、おそらくお前が死なない限り俺もお前から出られないって事だろ?』
「何て事だ」
最悪だ、本当に最悪だ。
これから私は死ぬまでこの男と一緒に生きて行かなければならないなんて。
そんな私の悩みなど関係なくケイは話し出した。
『なあ、お前の記憶を見たけどさ、お前結構悩んでるんだな』
「そうか、私の記憶も共有できるんだったな」
『まあ、こうなっちまったし俺がお前の悩みを解決する方法を考えてやるよ』
「な!?」
いきなり何を言い出すんだと思ったがケイはお構いなく話す。
『お前、この国の第一王子なんだろ? だけど色々と問題があるじゃねえか、俺も一緒になって考えてやるよ、一人よりも二人の方が良いって言うだろ?』
正直私は嫌だと思ったがこのまま断ってもケイとはこのまま一緒に生きていく事になるんだ。
なら、断っても仕方ないだろう。
「良いだろう、お前の考えも聞かせてくれ」
『あいよ、ところで今更だけど、お前名前何て言うんだ?』
「本当に今更だな、アルフレッドだ」
『おう、よろしくな、アルフレッド』
こうして私とケイとの奇妙な生活が始まった。
手始めに今日私の婚約者との二人きりのお茶会が行われる。
正直私はこのお茶会があまり好みではない。
何故なら私の婚約者は何ともつまらないと感じるからだ。
口を開けば私に王太子としての責任だとか国のためだとか親同士の婚約だとかそんな事ばかり言ってかわいげも何もない、だから私は彼女との時間が何よりも退屈で苦痛な時間だと思う。
だがケイはそんな私に言うのだった。
『バカだなお前、それは婚約者が本心を内側に隠しているからに決まってるだろ』
本心を隠す? 何故そんな事をする必要が。
『おそらくだけどよ、将来王妃になるって事は色々な国との関係を持つ事だってある、外交とかそんなのか? その時に他国との探り合いみたいなものがあるとするだろ? ほら何気ない会話をする事で相手の顔色を窺ったりするみたいな』
「まあ、あるな」
『その時にさ、王と王妃どっちかが何でもかんでも顔に出るようなものだったらどうだ? 顔に出るわかりやすいタイプだとしたら相手からしたらどう思う?』
「・・・・・・相手の弱みなどを握りやすくなる、そのように誘導して話をすれば」
『そういう事だ、だから感情などを表に出さずに相手になめられないようにするために本心を隠しているって事だろうな、感情を表に出さなければ相手に隙のない相手だと思わせる事ができるし』
なるほど、そう考えると今王妃教育を受けている彼女が感情を表に出さないような淡々とした話し方なのも理解できる。
『なあ、アルフレッドはその婚約者の事をどう思ってるんだ?』
「どうとは?」
『彼女に対しての愛があるかどうかって話だよ』
「愛、か」
『お前がまだその婚約者を愛している気持ちが少しでも残ってるなら、彼女の本心を聞くべきだと思わないか?』
ケイに言われて私は考える。
私の婚約者、確かに初めて会った時は愛はあった。
もしケイの言った通り、彼女が本心を隠して今のような態度で私に接しているとしたら。
「そうだな、正直今も愛はあるかと言われれば、わからない、だが本心は聞きたいと思う」
『そうこなくっちゃな、なら俺の言う通りに聞いてみな、お前こういう時どう言えば良いかわからねえだろ?』
悔しいが確かにそうだ。
彼女が本心を隠してるなんて考えた事もなかった私だ。
いきなりどう聞けば良いかなんてわからない。
そしてお茶会の時間が来たので私と婚約者の二人でいる。
『どっひゃ~、お前の記憶を見た時に思ったけど、滅茶苦茶綺麗な御令嬢じゃないか、こんな美人と結婚できるのに、お前は何が不満なんだよ?』
彼女が美しい御令嬢なのは私も認めている。
って、そんな事はどうでも良い。
私はケイに言われた通りに会話を切り出すのだった。
「・・・・・・なあ、セレンディーネ」
「はい、何でしょうか、殿下?」
私の婚約者セレンディーネは私を見る。
相変わらず何を考えているのかわからない表情だ。
『ほら、俺の言った通りに聞いてみろって、当たって砕けろだ』
砕けたら意味がないじゃないか。
そんな事を思いながらも私は意を決していうのだった。
「セレンディーネ、君は私の事をどう思っているんだ?」
「どう、とは?」
「王太子とか将来国を背負う後継者とか、そういう事じゃなくて、一人の男として私の事をどう思っているかと言う事だ、要は私を一人の男として愛しているのかいないのかって事だ」
「・・・・・・え?」
セレンディーネが間の抜けたような顔をしている。
そんなに変な事を言ったのか?
だが私はそんな事など構わずに続ける。
「私は、君の事を愛している、最初に会った時に君の事をかわいいと思った、一目惚れだったんだ、だから私は父上に頼んで君と婚約できないかと頼んだんだ、君と婚約できたのは嬉しかった、それはもう王太子という立場を忘れてその場で舞い上がってしまいそうなくらいにな」
「・・・・・・」
「だが、王妃教育を受けてからというもの、君は自分の感情を表に出さなくなった、それどころか私に王太子としての自覚を持てだとか、鬱陶しいと思ってしまい、君への愛が薄れていく事を感じた、だがそれでも私はまだ初めて会った時のあのかわいかった笑顔が忘れられない、君への愛が捨てきれないんだ、だから聞かせてくれ、君は私の事をどう思っているんだ? もし君が私の事を愛していないと言うのなら、貴族としての責務を果たすために結婚すると言うのなら、私は君との婚約を破棄したいと思う、私は、君とは愛のある結婚をして共に国を良くしていきたい」
言ってやった、言ってやったぞ。
ケイは私に言った、自分の思いを言ってからセレンディーネの気持ちを聞けと。
今言ったのは私の嘘偽りない本心だ。
これでダメなら、私は彼女との婚約を破棄して彼女には私より優秀な弟を新たな婚約者にすれば良い、そして私は身を退けば良い。
そんな事を思いながら私はセレンディーネを見る。
「・・・・・・」
セレンディーネは俯いていて何も言わない。
当然か、私の自分勝手な言い分だ。
『おい、アルフレッド、彼女の顔をよく見てみろよ』
するとケイが私に話し掛けて来て私は彼女の顔をよく見た。
「・・・・・・」
私は目を疑った。
彼女の顔が真っ赤なリンゴのように赤くなっていたのだ。
「セレンディーネ、どうした?」
「殿下」
「ん?」
「そ、そのような返答に困るような事を聞くのは、よしてください」
そう言っているが、いつもの彼女とは思えないような淡々とした言い方ではなかった。
『アルフレッド、これが本心を表に出さないようにしているって状態だ』
どういう事だ?
『よく見てみろ、彼女の顔を、口元に力を入れているだろ? あれは多分だが、お前に愛していると言われて嬉しさと喜びで叫びそうになるのを必死に我慢しているんだ、それだけじゃない、目にも力が入っているだろ? 身体も強く震えているだろ? 必死に表に出さないように頑張って耐えているって事さ』
なるほど、本心を表に出さないようにしているって事か、本心を隠しているという事か。
何だろう。
そうだと思って見ると、彼女ってこんなにかわいかったのか?
『おっしゃ、アルフレッド、今がチャンスだ、クソ真面目な婚約者様の必死に被っている仮面を外そうじゃないか、さあ、いけぇー!!』
ケイに言われて私は行動に移す事にした。
私は席を立ち、セレンディーネの隣に移動する。
「殿下?」
セレンディーネは私を見る。
まだ顔を赤くしている、かわいいな。
「セレンディーネ、私を愛していないのなら、拒んでくれて構わない、だが私の愛が確かだと言う証拠を示そう」
私は彼女の手を取り口づけをするのだった。
そしてセレンディーネの顔を見る。
「は、はわわ、はわわわわわわわわわわわわ」
気のせいだろうか、彼女の顔から煙が出ているように見えるのだった。
でも、普段見せないような慌てているような顔。
彼女ってこんなにかわいかったのか。
『っしゃあー!! クリティカルヒットだぜ!!』
ケイは物凄く喜んでいた。
何だクリティカルヒットって?
それからしばらくして彼女はようやく落ち着いたようだ。
いや、実際はまだ顔が少し赤いが、それでもかわいいと私は思う。
「セレンディーネ、まだ君の答えを聞いていない、君は私の事をどう思っているんだ? 王太子とか公爵令嬢とか王族とか貴族とか、そういうのを抜きにして私を一人の男として見て答えて欲しい」
「わ、私は、殿下の事を、お、お慕い申しております」
彼女は私を見て言うが、まだ顔も赤いし身体も少し震えている。
ケイの言う通りなら、まだ抑えようとしているって事か?
そう思えてくると、本当にかわいいな。
「なら何故そんなに、私に対して素っ気ない態度や淡々とした口調で言うんだ? 私はてっきり、君が貴族としての公爵令嬢としての責務を果たすために結婚しているんじゃないかと思ってしまうじゃないか、現に今もこうして君の本心を聞かなかったら、君に対する愛も完全に消えていた、何故なんだ?」
「殿下と初めてお会いした時に私も殿下との時間が何よりも楽しく、気づいたら殿下に一目惚れをしていました、ですがその事をお父様にお話した時にお父様から、その気持ちは決して表に出してはならないと言われまして、それが殿下のためになるからと、婚約者に選ばれた時も喜びを表に出すわけにもいかず、王妃教育の時も王妃様から王妃たるもの、簡単に表情を変えてはならない、感情的になってはならない、国のために王を支える存在でなければならないと、だから私はそのようにしてきたのです」
「それでか」
母上と公爵に言われて彼女は私を支えるために表情も変えずに淡々とした口調で話していたのか。
『まあ、子供の時は大人の言う事が正しいって思うからよ、きっと彼女の父親の言葉も王妃の言葉も当時の彼女は正しいと思ったんだろうな、それがアルフレッドのためになると思ったんだろう、まあ、その結果お前との関係が悪化しちまったみたいだけど』
確かにそう考えると母上の言葉も公爵の言葉も彼女が王妃になるためには必要な事だろう。
それは理解できるが。
『だが、結局周りがいくら言っても、当人同士が上手くいかなければ全てが無駄になっちまうな、だからこうやって二人での時間が必要なんだろうけど、お前等お互いに本心を語らないからな』
確かにその通りだ、ケイに言われてやっと理解できるなんて。
これでは私は愚か者と言われても仕方ないな。
『けど、本心がわかったし、彼女がどうしてそんな態度でいるかもわかったんだ、だったら後は、わかってるだろ?』
ああ、その通りだ。
ケイがここまでしてくれたんだ、なら後は私がやるべき事だ。
「セレンディーネ、君の気持はわかった、確かに未来の王妃としても見れば君は完璧と言っても良い」
「殿下」
「だが、せめて私の前でだけは未来の王妃としてではなく、セレンディーネという一人の女性として私に接してくれないか? 私も二人きりの時だけは未来の王ではなく、アルフレッドという一人の男性として君に接して愛の言葉などを囁きたい」
「っ!!」
私の言葉を聞いたセレンディーネはまた顔を赤くする。
「ぜ、善処します」
セレンディーネは顔を真っ赤にしながらも言った。
また身体が震えている、ホントにかわいいな。
『おお、おお、お熱いねえ、見ていてニヤニヤが止まりませんわぁ~』
やかましい、と口に出しそうになったが彼女の前で言ったら変な奴だと思われるから何とか私は我慢するのだった。
その後はお茶会など二人きりの時は、彼女は少しずつだが自分の本心も言うようになって、私も愛の言葉を言うと彼女は相変わらず顔を真っ赤にしながらも嬉しそうにするのだった。
その時の彼女の笑顔を見た時は、私の心臓が止まるかと思うほどかわいかった。
熱で寝込んで私の中にケイが現れた時はどうなるかと思ったが、結果的に彼のおかげで私は手遅れにならずに済んだのかもしれない。
彼との共同生活も案外悪くないのかもしれないな。
読んでいただきありがとうございます。
異世界恋愛ものを始めて書いてみました。
楽しめていだだけたら何よりです。