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7.魔女の役割

『ルナ、いい? 私たち魔女は魔物の闇の力をこの身に溜め、鎮静させるんだよ』

『師匠、でも魔物が増えちゃったらどうするの? 魔女は二人しかいないんだよ?』

『昔は一族が沢山いたから、普通に暮らせていたのにね』


 ルナは懐かしい夢を見ていた。


 師匠のアリーに魔女としての役割や力の使い方を教わっていた頃。


 兄に殺されたとして、その存在を消されたルナセリア第一(・・)王女は、薬師としてひっそりと生きる魔女、アリーに預けられた。


 まだ10歳で王家を出されたルナは、寂しさや悲しさもあったが、兄と大切な約束をした。王家である自分たちにとって大切な使命でもあった。


『ルナ、貴方が生まれて来てくれて私は嬉しかった。私の姉も家族も皆、根絶やしにされてしまったから。ただ、今度は貴方が一人になってしまうのが私は心配だな』

『アリー、僕がついてるから大丈夫ですよ!』

『私がテネについてるから大丈夫なんでしょ!』

『何だよ!』

『何よ!』


 時折、悲しそうに笑うアリーだったが、アリーとテネとルナ、三人でいればいつも温かかった。ルナにとってはここが家で、二人は家族だった。


「師匠……」


 自分の呟きでルナは目が覚めた。


 目から落ちた涙が頬を伝い、シーツを濡らしていた。


「テネ?」


 この家はいつも暗いが、遮光してあるとはいえ昼と夜の違いはある。


 いつも起きる昼の時間であろう。


 ルナはまだ乾いていない涙を手の甲で拭うと、布団から抜け出る。顔を洗い、服を着替える。遅い朝食の準備をしてテーブルにつく。


「テネったらどこに行ったのかしら」


 いつも一緒に朝食を取るテネの姿が見えない。仕方なく、一人で朝食を取る。


 クロエにもらった美味しい紅茶も、一人だと何だか味気ない。


 急に涙が込み上げそうになる。


「やば、久しぶりにアリーの夢を見たせいかな」

「何独りごと言ってるのさ」

「テネ! どこに行ってたの?!」


 カップをテーブルにドン、と置き、ルナはテネに駆け寄る。


「ちょっと情報収集にね」

「……いつもは夜に行くじゃない」

「王宮は昼の方が潜りやすいからね」

「王宮に行ったの?!」


 テネの言葉にルナはギョッとする。


「大丈夫。昼間活動するときは、白い美猫になるから」

「美猫って言葉、必要?」


 テネがくるりと回ってみせれば、黒い毛並みがあっという間に白に変化する。魔女の使い魔にしか出来ない芸当だ。


「まあ、僕は黒くても素敵だけどね」


 呆れるルナを気にせず、テネはふふん、と続けた。


 この国は「魔女」が禁忌とされている。口にしようものなら牢獄行きだ。そして、魔女の象徴である「黒猫」は同等に処分されている。


 まだ魔女たちが普通にこの街で暮らしていた頃、黒猫は魔女の使い魔だと認識されていたからだ。


(だからって黒猫を見かけたら処分なんて、酷い)


「僕はアリーの母上からの使い魔だから助かったけど、他の仲間たちは魔女たちと一緒に粛清されてしまった……」


 ルナの怒りを感じ取ったテネも珍しく怒りを見せていた。

 

 ルナの祖母は、魔女の家系だった。このランバート王国の王太子であった祖父と恋に落ち、結婚した。


 それを機に、密かに魔物を鎮静してくれていた魔女たちの存在が明らかになり、祖父は魔女一族と力を合わせて国を守っていこうとした。


 しかし、この国の権力を握ろうと目論む有力貴族が、魔女の存在が如何わしいものだと、国を乗っ取ろうとしていると濡れ衣を着せ、魔女狩りが始まった。


 祖母も、魔女一族も処刑され、根絶やしにされた。必死に止めようとした祖父も、その貴族に嵌められ、死んだ。表向きは魔女による暗殺ということにされて。


 祖父は、祖母の妹だけは何とか匿うことに成功していた。それがアリーの母である。


 薬師として身分を偽らせ、信頼おける人物に託した。クロエの家でもあるオクレール商会だ。


 ルナの父であるこの国の現王は、その魔女狩りの中心だった貴族、今は宰相の地位にある人物の言いなりだ。ルナの母にあたる第一王妃はもちろん密かに葬られ、宰相の娘が今は第一王妃としてその座にいる。


 そしてその娘、ルナにとっての妹にあたる、第一(・・)王女であるルイーズがこの国の聖女として君臨していた。


 聖なる力を持って生まれた王族としてルイーズは貴族たちから崇め奉られていた。そして父王さえもその力を信じ、教会に多額の税金を注ぎ込み、今や教会は大きな力を持っていた。その裏にはもちろん宰相が絡んでいることは、兄のルイードとルナは知っている。


 魔物から国を守っているのは聖女であると国民にもふれ回っている。そのための税収も厳しく、国民は反発を持ちながらも逆らえず、耐えている。


 皆知っているのだ。聖女には何の力も無く、魔物を抑えてはいないと。


 魔女たちがいなくなり、魔物が増えていることを。


 警備隊たちが命がけで魔物と戦っていることを。


 聖女でもある王女は、城から出たことのない、温室育ちの我儘なただの小娘であると。


 でも皆、口を閉ざす。逆らえば、牢獄に入れられ、処刑される。それほどまでに魔女狩りの過去は国民に恐ろしい記憶を植え付けていた。

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