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一人ぼっちの魔女は三日月の夜に運命の騎士と出逢う  作者: 海空里和


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41/42

41.約束

「ルナ!」


 離宮から議会場までは地下の日の当たらない場所を通って来た。王城にはそういった抜け道が多くある。昔、ルナが処刑されたことに出来たのも、その抜け道たちのおかげだ。


 抜け道に入ると、追ってきたエルヴィンの声が遠ざかる。


(エルヴィンさん……)


 会うと、気持ちが揺れてしまう。ルナは自分の気持ちを押し込めて、離宮へと急いだ。


「ルナ、お帰り」


 日差しが一切入らないこの離宮は我が家のように薄暗い。ただ小屋とは違って広いし、調度品が豪華だ。


 ベッドの上であくびをするテネにルナはドレスを急いで脱ぎながら告げる。


「テネ、今晩には家に帰るよ」

「……そう。じゃあこのフカフカなベッドを堪能しておかなきゃね」


 テネはそれだけ言うと、再びベッドに丸まって眠った。


 ルナはそんなテネから目線を外すと、着ていたワンピースに着替える。日没までまだ何時間もある。


(お兄様には昨日お別れ出来たから――)


 ベッドに横たわり、ルナも日没まで休むことにした。


 目を閉じれば、疲れからかあっという間に深い眠りに落ちる。


 ルナは夢を見た――――


 アリーとテネと太陽の下で笑って街を歩く夢。


 三人は楽しそうに街を歩いた後、スパゲティ屋に辿り着く。


 スパゲティ屋の扉を開けると、笑顔のエルヴィンが迎えてくれた――――


「エルヴィンさん……」


 自分の呟きで目が覚める。身体を起こして部屋を見渡すと、暗さの度合いから日が傾いていることがわかった。


「随分寝ちゃったな」


 この期に及んでエルヴィンの夢を見るなんて。


「未練がましいぞ、ルナ!」


 自分にそう言い聞かせ、ベッドから降りる。テネを探すも、姿はない。


「もー、どこにいっちゃったんだろ?」


 情報収集が習慣になっているテネは、またふらりとどこかに行ってしまったのかもしれない。


 ルナは仕方無く外套を羽織り、帰る支度をする。


 外套の色がルナの心をざわつかせるが、考えないようにする。


「一緒に帰ろうと思ってたのに……」


 ブツブツと言いながら、ルナはそっと離宮の扉を開く。帰る場所は同じなのだから、そのうち帰って来るだろう。


 外は日が沈んだばかりで、ピンクとオレンジが混ざったような鮮やかさが空に広がっていた。


「うわあ、綺麗……」


 街よりも高い場所にあるこの王城は空に近い気がする。高台を好んでいたのは、この場所に近い感覚を持っていたからかもしれない。


 ルナがしばらく空を眺めていると、ニャー、という声がした。


「テネ? もう、遅いよ。どこに行ってたの……」


 振り返ると、テネを先頭にしてエルヴィンが立っていた。


「エルヴィン……さん?」

「ルナ、どうして俺に黙って消えようとするんだ……さよならなんて……」


 この離宮は限られた者しか知らない。テネがエルヴィンを連れてきたのだとすぐに理解した。


 突然現れたエルヴィンにどうして良いか分からず、ルナが立ち尽くしていると、エルヴィンが距離を少しずつ縮める。


「ルナ、カッコつけてんなよ」


 ニャーン、とテネは言いたいことだけ言って、夕闇の中へと消えて行った。


(あ、あいつぅ……)


 テネの消えた方向を睨んでいると、すっかり距離を縮めたエルヴィンが目の前に立つ。


「ルナ、俺は、今日陛下に君の近衛になれるよう申し出るつもりだった」

「え……」

「生涯君を守るって言っただろ?」


 真剣なエルヴィンの視線が絡み、ルナの心臓の音が煩い。


「エルヴィンさん、もう危機は去ったんだから、今度はお互いの場所でお互いの役目を果たしましょう」

「どうして……っ!」


 ルナが突き放すように言うと、エルヴィンの声色が険しくなる。


「エルヴィンさんと私は住む世界が違います。あなたはこの国の近衛隊員で、私は魔女で薬師です」

「君はっ、王女だろう」

「……太陽の下に出られない王女なんて、お兄様の邪魔にしかなりません」

「俺が……、君を守る!!」


 エルヴィンの必死な訴えに、ルナからは涙が溢れる。


「私のことなんて忘れて、元いた場所で輝いて、エルヴィンさん」


(あなたの夕日色が眩しいくらいに、好きだった――)


 涙を流しながらも笑顔を作ってエルヴィンに告げると、ルナは外套のフードを被り、エルヴィンの横を通り過ぎる。


「ルナ!!」


 通り過ぎた瞬間、ルナはエルヴィンに腕を取られ、抱き締められる。


「離して、エルヴィンさん」

「離さない! 離したら君は逃げてしまうだろう?!」


 エルヴィンがルナと再会したとき、同じように腕を掴み、離してくれなかった。数日前のことなのに、なぜだか懐かしい。それくらい、ルナとエルヴィンは濃密な日々を過ごしてきた。


 今は、逃げないようにと、エルヴィンからキツく抱き締められている。


「そうか……」


ルナを抱き締めながらエルヴィンが呟いた。


「王女とか、魔女とか、薬師とか……関係ない。俺は……」

「エルヴィンさん?」


 エルヴィンの熱い眼差しが目の前にいた。歪んだ視界でルナはエルヴィンを見つめる。


「俺は、ずっと君といたい。君を泣かせたくない」

「でも私は、エルヴィンさんとずっと戦友ではいられない」


 真っ直ぐなエルヴィンの言葉に、ルナはとめどもなく溢れる涙と共に吐き出す。


(これじゃあ、告白してるみたい)


 吐き出した言葉に冷静な自分もいて、恥ずかしさで目眩がする。止まらない涙でぼやけながらもルナはエルヴィンを見つめ続けた。


「違う……俺は……」


 困惑するように溢した呟きと共に、エルヴィンの腕に力が入るのをルナは身体で感じる。


「俺は、君が好きだ」


 ドキン、とルナとエルヴィンの心臓が跳ねる。


「友人として、ですよね?」


 まるで時がゆっくりと進むかのような感覚に包まれながらも、ルナは冷静に返す。


「違う! 俺は、君を、一人の女の子として、好きだ……!」


 叫んだ瞬間、エルヴィンの顔が赤くなる。ピンクとオレンジの空がだんだんと漆黒の藍色に変わっていくが、至近距離のため、それはわかった。


 いつもの友人ムーブとは様子が違う。


 ルナの頬もエルヴィンの自覚と共に赤く染まってゆく。


「君が、好きだ」


 エルヴィンはルナにもう一度そう言うと、きつくきつく、離さないとばかりにルナを抱き締めた。

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[一言] ようやく告白! 絶対離しちゃ駄目!
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