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17.食事会

「初めまして、ルナです」


 差し出された手を掴み、握手をする。


(この人がクロエの旦那さん……)


 話には聞いていたが、豪快で優しそうな人だ。


「……いつもありがとうございます」


 ルナがエルヴィンに聞こえないようにボソッと言えば、シモンはにっこりと笑って、握手の手を強めた。


「こっち、俺の奥さんね」

「初めまして。妻のクロエです。噂の薬師さんと夫からよく話を聞くエルヴィンさんに会えて嬉しいわ」


 シモンに促され、クロエも挨拶をする。ルナとエルヴィンと交互に握手を交わす。


「よく話す?」

「ははは、さあ席にどうぞ」


 じとりとしたエルヴィンの視線を無視し、シモンがルナに席を指差す。


 貸し切りということで、ホールに客はいない。


 奥にセッティングされたテーブルまでシモンはクロエの手を取り、案内する。


 後ろを歩くエルヴィンが「あ……」と声をあげ、シモンがにんまりとしていたが、ルナはどうしたんだろうと首を捻った。


「ルナ……」


 エルヴィンに手を出され、ルナもようやく気付いた。


 エスコートというやつである。


「はい……」


 顔を赤くしながらもここは従うべきだろう、と手を預け、テーブルまで歩く。


 手を触るのは初めてではないのに、やたらと恥ずかしい。この短い道のりも随分長く感じた。


「外套をお預かりします」


 スパゲッティ屋のスタッフから促され、ルナは外套をようやく脱いだ。


「……!」

「これはこれは」


 絶句したエルヴィンと、やたらとニヤニヤするシモンが一斉にルナに視線を送る。


「あの、変……でしたか?」


 不安になったルナが恐る恐る聞く。


「いいえ! とっても可愛くて、ふたりとも見惚れていただけよ」


 クロエはパン、と両手を叩いて言った。


「そうそう、可愛いよ〜」


 シモンがニコニコと笑って言う。


 エルヴィンは固まったままだ。


「ふふ、エスコートしてきたエルヴィンさんと同じ、髪と瞳の色のワンピースなものだから、私たち勘ぐっちゃただけなのよ」

「そうそう、貴族の間じゃあ、婚約者に自分の色を身に着けさせるからなあ」

「うえ?!」


 クロエとシモンの言葉にルナは一気に顔が赤くなる。


(クロエ〜! はめたわね?!)


 ぷるぷると震えるルナがエルヴィンの方を恐る恐る見れば、エルヴィンの顔も赤くなっていた。


「す、すみません、エルヴィンさん!! 誤解されるような服を着てきて……! あの、偶然なんです!! それに私、貴族でもエルヴィンさんの婚約者でもないし!!」

「あ、いや……」


 早口でまくしたてるルナに、エルヴィンもようやく口を開く。


「まあまあ、可愛いからいんじゃねー?」

「そうそう。そんなことより、食事にしましょう?」


 シモン、クロエ夫妻がほのぼのと話題を終わらせる。


(そもそも! クロエがくれたワンピースでしょ?! そりゃ、夕日みたいなオレンジは元から好んで着てたけどっ)


 キッ、とクロエを睨めば、彼女はウインクで「似合ってるぞ!」とばかりに語りかけてきた。


「エルヴィンも可愛くてびっくりしたんだよなー?」


(そこ、エルヴィンさんに振るな!)


 今度はシモンが何も考えずにエルヴィンに振る。


 慌ててルナがエルヴィンの方を見れば、彼は顔が赤いままぽつりと溢した。


「似合ってる……」


 その言葉にルナもフリーズする。


「あ、ありがとうございます?」


 やっと出たお礼の言葉に、辺りが生暖かい空気になる。


「さあ、食事にしましょうか」

「そうだな」


 クロエとシモンの合図でようやく空気から解放され、ルナはホッとした。


 ルナは、クロエ、シモン夫妻とテーブルを挟んで向き合うように、エルヴィンの隣に座る。


「じゃあ、ルナちゃん、警備隊の危機を救ってくれてありがとー!」


 シモンの合図とともに、用意それたグラスを四人、頭上にかかげる。


「救ったなんて、そんな。こちらこそわざわざこんな場を開いていただいてありがとうございます」


 用意されたグラスには果実水が入っていた。甘くて美味しい。他の三人はアルコールで乾杯しているようだった。


「あの薬をこんな可愛い子が作ってるなんて驚きだわあ」

「君に迷惑がかからないように、このことは伏せてあるから。薬も多くは作れないんだろう?」

「はい。私一人でやってますので……」


 打ち合わせ通り、初対面ながらの会話が続いていく。少し不安だったが、シモンとクロエがリードしてくれているので安心した。


「エルにもこんな可愛い友達が出来るなんて、俺は嬉しいよ」

「えっ」 

「ぶほお!」


 シモンの言葉にエルヴィンが吹き出す。


「な?! た?」


 慌てふためくエルヴィンに、ルナは見たことのない表情だ、と新鮮に感じる。


「だってお前、ルナちゃんは友人だって言ってただろ?」

「い、言いましたけど……! 本人目の前に……」


 赤くなりながらルナの方を向いたエルヴィンと視線が合う。


「嬉しいです」


 ルナはにっこりと笑ってエルヴィンの耳に口を寄せる。


「私たち、戦友ですもんね!」

「あ、ああ……」


 思えば、こんな明るい場所でエルヴィンを見るのは初めてだった。


 綺麗な夕日色の瞳を間近に、ルナは近づきすぎたことに気付く。


「ご、ごめんなさい……!」

「いや……」

「何だ何だ〜? 二人、内緒ごとか?」

「野暮よ、あなた」


 何だか甘い空気に、シモンが茶々を入れたが、クロエがすぐに止めに入った。


 二人赤くなって俯いていると、湯気を上げながら、スパゲッティがテーブルに運ばれてきた。

 

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