婚約破棄が禁止された王国
最後までお付き合い頂けたら幸いです。
「セイラ。君とのアレをアレしたい」
貴族街にある緑豊かな公園。
婚約者である子爵令息アベルに急に呼び出されたと思ったら、この仕打ちである。きっとアベルは私との婚約を破棄したいのだろう。
しかしファーガス王国では先日、貴族から平民に対する一方的な婚約破棄を禁止する王令が下された。王令に背けばその家は爵位を取り上げられて、平民にされてしまう。
「アベル様。アレとは何のことでしょう?」
「その、アレだよ……。君との間に交わした……」
アベルは眉を下げて苦しそうだ。
「交わした……? あぁ、口付けのことですね! もう一度、口付けをしたいのですか? こんな明るい時間から積極的ですわね!」
アベルと婚約する為にウチの商会は莫大な額のお金を子爵家に支援している。何としてでも、私は子爵家に嫁がなければならないのだ。
「いや……違うのだ。君とは別に好きな女性が出来てしまって……」
「妾の一人や二人、私は気にしません」
「その相手は男爵家の令嬢で……」
なるほど。平民の娘を正妻にし、貴族の娘を妾にすることは出来ないと。ふーん。そんな理屈、私には関係ない。商人の娘を舐めるな! である。
「分かりました。ウチの商会からの資金援助、全て返していただけるなら婚約をなかったことにしましょう」
「い、いや! 援助された資金は既に借金の返済に使っていて……」
アベルはしどろもどろだ。この程度のことで取り乱すなんて、情けない。商人の世界では生きていけないタイプ。
「話になりませんわ」
「そこをなんとか! 頼む!」
「ならば、別の条件を提示しましょう」
アベルは引き攣った顔で身構える。
「一体、どんな……?」
「こうするのは如何ですか?」
私の提案を聞いたアベルは「考えさせてくれ!」とだけ言って、逃げるように去っていった。
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「セイラ」
「なんでしょう? お父様」
お父様は眉間に皺を寄せて困った様子だ。
「……いや、その。君にお父様と呼ばれるのはいつまで経っても慣れないなぁ」
「あら、まだそんなことをおっしゃっているのですか? もう一年も経つと言うのに」
私が子爵家の養子になってから一年が経とうとしていた。養父の名前はアベル。かつての婚約者だ。
「で、お父様。何か用があったのでは?」
「……実はアニータが妊娠したみたいなんだ」
「あら! お母様が! 嬉しいわ」
アベルが私に「アレをアレしたい」と言い出した原因。男爵令嬢アニータが今の私の養母にあたる。
私の提案はこうだった。
『アベルとアニータは直ちに結婚し、アベルは爵位を継ぐこと。そして私を養子として子爵家に迎えること』
どうしてもアニータと結婚したかったアベルは両親を説得してこの提案を受け入れた。
そして私は晴れて子爵家の一員だ。
「私に弟か妹が出来るのね! お祝いをしないと」
別に兄弟が出来たところで、構わない。私は子爵令嬢という肩書きを持って社交界に出入り出来れば問題ないのだ。
そこで私は顔を広げ、実家の商会に有利になるように働きかけている。
「お、お願いだから仲良くして欲しい」
「もちろんですわ! お父様! 私は赤ん坊が大好きですから」
アベルは顔が良いだけの男。全く頼りにならない。子爵家の跡継ぎには私が英才教育を行う予定である。
人は私のことを浅ましい女と呼ぶかもしれない。
しかし私は商人の娘。利益を求めることが生き甲斐なのだ。
「セイラにもいい人が見つかればいいなぁ」
「あら、お父様。私には相手がおりましてよ」
「えっ……それはどんな……?」
私は懐から金貨を一枚取り出し、アベルに差し出す。
「この方です」
金貨に描かれた初代国王の顔を見て、アベルはため息をついた。
「君はいつまで経っても商人の娘だなぁ……」
「お褒めに預かり光栄です」
何としても婚約破棄したい貴族と、貴族に連なりたい商人がお互いの妥協点として行う養子縁組。ファーガス王国ではこれを「セイラ方式」と呼び、婚約破棄禁止の王令が取り下げられるまでの間、盛んに行われることとなった。
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