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十一話

 僕たちは避難したまま、その場から動けないでいた。変身を解いているためソウルに襲われることはないが、逆に自身の身体は炎による熱気を直に感じていた。


 ヒラヤマさんが居なくなってから一時間程度経った頃、急に戦闘音が激しくなった気がする。

 それと同時に、少しずつではあるが辺りの炎が弱くなっていった。


「ようやく応援が到着したようね」

 先ほどまでの焦燥感の漂う空気は、オオチさんの一言で緩和される。しかし、未だ現れないウスイさんと、居なくなったヒラヤマさんの不安は拭いきれない。

 降り続く雨や、水を撒く消防士の手により次々と家屋は鎮火されていく。

 そこを狙ってレスキュー隊は、火の海へと飛び込んでいった。


 どんどん救出される人たちは、軽傷者がほとんどだ。但し、時には重傷者もおり、そんな人は救急車で運ばれて行った。

 初めて見る大規模な火災現場の光景を前に、僕は雰囲気に酔って吐き気を催す。


「すみません、ちょっと……おえ」

 僕がそう言うと、オオチさんは呆れたようにため息を吐いている。

 周囲の人からは見えないよう、パトカーや救急車の影に隠れようとする僕は、あるものを目の前にして固まった。

「ちょっと君、こっちはダメだよ!」

 そんな救急隊員の言葉は、僕の耳には届かない。段々と動悸が激しくなり、同時に息が荒くなっていく。


「ふぅ、ふぅ、はあ、はあ……はあ……はあ!」

「ちょっと、ちょっ、大丈夫!?」


 慌てる救急隊員を無視し、僕は奥にあるブルーシートを見つめる。


 ブルーシートに包まれたソレがなんなのか、すぐに理解することが出来た。

 爛れた皮に、赤く腫れた顔。左手の薬指に光る指輪。それは紛れもなくヒラヤマさんであった。

 既に治療を諦めているのか、救急隊員は他の重傷者の治療に当たっている。


 何とか息を整えようとして、それでも整えることが出来ずに、次には胃から逆流してくる液体に喉が焼かれる。


「ちょっといつまで……え」

 戻らない僕を心配してか、オオチさんが呼び戻しに来たのだが、彼女もまた固まる。

 しかし、オオチさんはすぐにその焼死体との関係を、刑事に説明し始めた。そしてそのまま刑事に連れられ、彼女はホワイトボードを机に広げる本部へと歩いて行った。


 未だに吐き気を催す僕は、彼女の冷たい反応に苛立つ。

(そんな……なんでそんな冷たい反応ができるんだ……)


 喉が胃液に焼かれる苦痛からか、それとも哀しみからか、じわりじわりと目から涙が溢れ出て止まらない。


「ヒトシ……くん?」

 しかし、僕はその声に固まらざるを得なかった。その声は、吐き気を忘れるほどに鮮明に僕の耳を刺す。

 レスキュー隊員に囲まれるウスイさんは、恐らく火災現場から救助された後、重傷者として連れられて来たのだろう。


 そのタイミングは、偶然か、それとも必然か。


 レスキュー隊員の元を離れて、ヒラヤマさんの頬に触れるウスイさん。彼女の顔につらりつらりと涙が伝う。

 たったの数週間、同じ時を過ごしただけの僕でも大きなショックを受けていたのだ。ウスイさんの哀しみは、僕を遥かに上回るだろう。


 そっとしておくべきと考えた僕は、静かにその場を離れる。


 初めての仕事に、驚きの連続を迎えた僕は足をフラつかせる。まさか初めて見る死体が、知り合いのものになるとは思わなかった。

 ふと、焼死体を見た時のあの光景が甦り、再び吐き気を催す。


 これ以上、衝撃的な出来事など起きないだろう。

 そう思っていた僕は、次の瞬間その考えを覆される事となる。


 ぴゅー、とまるで打ち上げ花火が上がったような音。そちらの方向を見る。

 すると、その方向には大型の鳥型のソウルが高層域まで飛び上がっていた。そのソウルを見て、僕は嫌な予感がした。


「ピィーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 その鳴き声で、嫌な予感は確信へと変わる。


「ピィちゃん?」

 いつも隣に居てくれたソウルだから分かる。あれは間違いなくピィちゃんだ。

 ピィちゃんが元凶なのか? なぜ、なんのために……と、疑問が溢れて止まらない。


 そんな僕を置き去りにし、先ほどからピィちゃんは周りにいるソウル達を取り込み続けている。どんどん炎の勢いが収まっていたのは、そのためだったのだろう。

 次の瞬間……ピィちゃんは吸収したソウル達を一気に放出し、大爆発を巻き起こす。


「伏せろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 誰が言ったのか分からないその声に、皆が反応して伏せる。そして……。


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォォォォ!!!!!

 光から数瞬遅れてやってくる轟音と爆風。その反動で巻き上げられたガラスの破片や、家屋の廃材でさらに被害は拡大する。


 幸い怪我のなかった僕は、次の瞬間走り出していた。

「どこに行くのよ! ちょっと待ちなさい!」

 と、後ろからオオチさんの声が投げかけられるが、僕の耳には届かない。


「なんで……なんで……」

 僕は抑えることのできない感情を吐露し、友人であるソウル、ピィちゃんの元へと向かうのだった。

最近、『教室隅の男・その名はジャック』というYouTuberにハマってます。

星新一のショートショートがお好きな人はハマるような気がします。

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