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十話

「うわあ、懐かしい! 久々に来たけど相変わらず田舎だねえ」


 大幣(たいへい)駅の前で、はしゃぐ女性。彼女の長い髪は結えられておらず、右に左に自由に動き回っている。

 それはまるで、彼女の性格を表しているかのようだ。


「お待ちください、ミコお嬢さま。貴方が怪我をされるようなことがあれば私の立場が無くなってしまいます」


 そんな彼女の後ろには、礼儀正しい口調で制止する男性。ピンと伸ばした背筋に、シワ一つないスーツ。傘を持つ彼は、自分の肩を濡らしながら、慌ててミコと呼ばれた女性を雨から守る。その仕草が彼の性格と立場を表しているのだ。

 時代離れした雰囲気を醸し出す二人は、加えて二人とも仮面で顔が隠されていた為、かなり異様であった。


「グウジは心配し過ぎなんだよ」

「し、しかし……お嬢さまをお守りするのが私の仕事ですから」


 白のフルフェイスのベネチアンマスクを付けるミコ。ペストマスクを付けるグウジ。二人とも顔が隠れているが声質からまだ若いということが分かる。

 駅前で言い争う二人に、仕事終わりのサラリーマンたちは不審がっているのだが、そんな周りの様子に気づかない二人は、話を続ける。


「そんなことより、大幣支部も大変だね。オンジくんだっけ? 居なくなったの」

「ええ、ランク7の内の一人。最強の一角である彼が居なくなってはこうなることも予想出来ておりました」


 彼らこそ、大幣支部の応援に駆けつけた祈祷師たちである。グウジはオンジが居なくなったことを受け、必ず他支部の応援が必要になると考えていた。


「そうだね、もしかしたらオンジくん、”喰われちゃった”んじゃない?」

「お嬢さま、縁起でもないこと言うものではございませんよ」


 えへへと冗談ぽく笑うミコに、グウジは声を低くする。どちらも顔は見えていないのだが、何年も付き合っていく内に少しの仕草でお互いの考えを読み取れていた。


「ちょっと君たちいいかな?」


 そんな二人に話しかける者がいた。二人が振り返ると、ニコリと笑う警察が立っていたのだ。


「あ、私たちは怪しいものでは……」

「はいはい、話はゆっくり聞いてあげるから」


 グウジの腕はしっかりと掴まれており、逃げるのは難しいと判断した彼は、はあと大きく溜め息を吐いた。

「お嬢さま、どうやら誤解を解く必要がありそうです」

 そう言って隣を見るグウジは、彼女の驚愕の行動に目を飛び出す。

「お、お、お嬢さま! こんな公衆の面前で変身してはなりません!」

「大丈夫だよ、誰も見ていないのちゃんと確認したもん!」

 ミコはエクソシストに触れて、一般人には見えなくなっていた。黒のドレス姿に白のマスクが良く映えている。

 グウジは小声でミコを叱りつけるが、ミコが悪びれる様子はない。

「それじゃあ僕、先に行くね!」

「お待ちください、お嬢さま! お嬢さまー!」


 そして彼女は、グウジが制止するのも聞かずその場を去ってしまうのだった。


「あれ、さっきまでここに居た女はどこに行ったんだ」

 警察は辺りをキョロキョロと見回すが、見つかるはずもなくグウジのみ事情聴取されることとなった。


「それにしてもすごい燃えてるなー、明るいからすぐに場所が分かるわ」

 そう言って現地に到着したミコは、太刀を構える女性たちが、他のソウル達とは一線を画すほど大きな鳥型のソウルと戦っているのを発見した。

 恐らくあのソウルこそが今回の火災の元凶なのだろう。


「うわ、思ってたより強そう」

 ミコの知り合いである太刀使いの女性、ウスイ ホノカはランク4であり、その実力はオンジのいない大幣支部ではトップクラスと言って良いだろう。

 他二人も、それぞれの武器に四つ玉が埋まっているため、ランク4ということが分かる。

 ウスイたちの身体はヒビだらけで満身創痍だ。


 それでも諦めることなく太刀を構えるウスイ。ミコの記憶にあるウスイ ホノカという女性は、こんなに強くはなかったのだが……。


 いつもマスクをしたもの同士で話すミコやグウジは、人の心を読むのに長けている。一度ウスイと会ったときに感じたこと。

 彼女はいつでも”死んでも良い”と考え、誰かを守った上で自分が死ぬことこそ理想と考えるような女性だった。しかし、今の彼女は死んでも死ねないと言わんばかりの熱意を感じる。


 ミコはニヤリと笑って飛び出し、ウスイと火の鳥の間に割って入った。そしてミコは、体当たりを繰り出す火の鳥を一蹴し、吹き飛ぶソレを見送ってから振り返った。

「へえ、いい顔するようになったじゃん」

 一方的な戦いを強いられていたウスイたちは、驚いたように目を見張っている。

「固まっているところ申し訳ないけど、危ないから避難してもらっていいかな。君たちを庇う余裕はなさそうなんだ」


 吹き飛んだ火のソウルは、まるでダメージを受けていないのか、すぐさま立ち上がって火の粉を撒く。辺りは火の勢いを増して燃えていった。

 その様子にウスイたちはミコの言葉に従って、避難を開始した。


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