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暴走するカレと妄想するカノジョと②

 断頭台の上に立たされた夢だ。手足は縛られていて動かせず、さるぐつわをかまされて声は出せず、ただなすすべもなく跪いてギロチンの刃が鈍く光るのを見上げている夢だった。

 通常、こうした残虐な刑は見せしめとして大衆の前で行われるものである。ギロチン台の足元は広場になっていたが、そこには人、人、人――この国の民の全員が押しかけて来たのではないかというほど、人であふれかえっていた。


 ――どうやら、まだ『死の運命』を回避できていないのね。


 これが夢だという自覚はある。だから、モースリンはこの上なく冷静であった。

 きっと今から執行人が上がってきて、罪状を読み上げるに違いない。そして断頭台に頭を載せるようにと命じられるのだ。

 しかしその期待は、台上に上がってきた人物の顔を見たとたんに打ち砕かれた。


 ――は、ハリエット様……!


 モースリンの目前に立ったのは見知らぬ執行人ではなく、優しくて頼りない、愛しの『元婚約者』だった。その目は今まで見たこともないほどに冷ややかであった。

「モースリン、最後の慈悲だ、君の罪状はこの僕が直々に読みあげてやろう」

 そう言うとハリエット王子は、台下に手を差し伸べて一人の少女を台上に引き上げた。

「彼女のことは知っているな?」

 知っている――一度目の予知夢の中で見た少女だ。いや、これから母になるのだからもう『少女』ではないか。

 モースリンがだまっていると、ハリエットが呆れきったかのようにため息を吐いた。

「まったく君はこの期に及んで……僕の寵愛を彼女に奪われた君は、嫉妬して彼女にさんざん嫌がらせをした。それのみにとどまらず、あまつさえ彼女の命を奪おうと刺客を差し向けただろう、それが君の罪だ」


 ――嫉妬……私が嫉妬なんてするわけがないじゃない。


 王妃教育の中には嫉妬心を押さえるための感情コントロールも含まれていた。王たるものどうしても世継ぎをなさねばならないのだから、何人もの女を囲い込む可能性もある。それにいちいち嫉妬などしていては後宮が女同士のどろどろした嫉妬合戦の場になってしまう。

 そうした諍いを諫めるためにも、後宮の主である王妃は特に、絶対に嫉妬などしてはいけないのだと――仮に心の内でどう思っていても、嫉妬とは無縁であるかのようにふるまうように厳しく厳しく躾けられる。

 確かに今、夢の中ですら胸の奥がツキンと痛むような失恋の傷を感じるが、それを理由に自分の嫉妬心の赴くままに行動するわけがない――絶対に。

 矜持をこめてぐっと顔をあげるモースリンを見下すハリエットの表情は、あくまでも冷たかった。

 彼が片手をあげて執行人に合図をした。屈強な男が二人、モースリンを抱え上げてギロチン台にその首を置いた。


 ――そう、私はハリエット様に捨てられてしまうのね。


 ギロチンの刃がギラリと大きく閃いて落ちた。

 モースリンの首は――


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