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救いの雌豚 4

 正門の中から無数のうめき声が漏れ出してくる。ただしそれは苦痛にうめく声でも、苦悩に満ちたものでも、ましてや悦楽に喘ぐ声でもなく、なんら一切の感情を含まない無感情な――ただ気道を通る呼吸が弛緩した声帯を揺らして単純な音を立てているだけの「あー」だの「うー」だのいう純然たるうめき声。

 唐突に、それが闇色の霧の中から飛び出してきた。城付きの警備兵であることを示す軽装備を身に付けてはいるが、目は虚で、顔色も土みたいに黒ずんだ……まさにゾンビ!

「見た目はゾンビだけど、まだ死んでないからね、殺さないであげて!」

 シープスキンの叫びに、モースリンがうめく。

「ええっ、殺さないように加減する方がむずかしいんだけど」

 それでもさすがはモースリン、彼女は軽く身を捻っただけでゾンビ兵の突進をかわし、その背後にするりと回り込んだ。

 手刀が空を切る音と、頸をうつ軽やかな音、そしてゾンビ兵は意識を完全に失って倒れ込む。

「やあ、さすがモースリン、こういうのうまいよね、シュッ、トン、バタンって、全くの無駄がない」

「そんな呑気なこと言ってる場合じゃないから、まだくるから! それも結構な数!」

 コットンが素早くモースリンの隣に滑り込む。

「加勢しますっ!」

 正門の奥でゆらりと闇がゆらめき、ゆらりゆらりと身を揺らしながらゾンビ兵たちが現れた。その数、目算四十人はいるだろうか。

「コットン、右から行って、私は左から!」

「はい!」

 隠密装束を纏った二人の少女が、ゾンビ兵たちの真っ只中に飛び込んでゆく、その姿は力強くも可憐だ。ちいさく振り上げた手刀をシュッと振り下ろし、トンと頸を打つ。

 まあ、それもカッコよかったのは最初の2〜3人だけ。あとは全く作業的に、シュットン、シュットンとゾンビ兵たちを倒してゆく。

 なにしろこのゾンビ兵、動きがトロい上に行動がワンパターンなのだ。

 一体が倒されると、その背後にいる一体が「あ〜」と叫びながら両手を振り上げ、掴みかかろうとする、そこをシュットン。すると次の一体がまた両手を振り上げて「あ〜」と……最初は気を引き締めていたモースリンとコットンも、まったくおんなじ動作を繰り返すだけの『作業』にだんだん無表情になってゆくし、最後はもう「ん、ここは工場なのかな?」くらいの単純作業感が辺りに漂っていた。

 全てのゾンビ兵を足元に転がし終えたモースリンたちは、正門の奥に蟠っている闇を見た。それは風に揺られてゆうらりゆうらりと揺れてはいるが、それ以上動く気配はない。

「多分、正門近くにいた兵士たちはこれで終わりなんだろうね」

 シープスキンの言葉にモースリンがうなづく。

「次の兵士をここに呼ぶとしても、少し時間がかかるわね、つまり、行くなら今しかない」

「行こう、おい、灯り!」

 シープスキンがカエデの鎖を引いた。彼女が発する光の柱にまもられながら、城へと足を踏み入れる。中は案の定、何も見えないほどに真っ暗だった。


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