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厄災なるヒロイン、その名はカエデ! ⑦

「手遅れってどういうことだよ!」

 声を荒げるハリエットを、研究員くんが後ろから羽交い絞めにした。もちろん、手のひらには触らないように細心の注意を払って。

 賢い研究員くんは、シープスキンが何を危惧しているのか、すでに気づいていた。

「魔導検査だけでは不十分でしょう、呪術専門の技師を呼びます!」

「そうしてくれ」

 当のハリエットだけが訳も分からず――いや、わかってはいても認めたくなかったのだろうか。

「説明してくれよ、説明!」

「説明ですか、お聞きになりたいですか」

「聞きたいよっ!」

「それにはまず、魔法と呪いのディクレスト抗体値の違いについて……」

「いや、かいつまんで!」

「かいつまんで言うなら、あのペンダントにかかっていたのは魔法ではなく、呪いだということです」

 魔法と呪いは似て非なるもの、魔法が現実的なエネルギーを集約させて発動するものであるのに対し、呪いは精神エネルギーを起源とする。

「なるほど、だから魔法みたいだけど魔法とは違う波動を、あのペンダントから感じたのか」

「大事なのはここからで、あのペンダントはすでに空になっている、ということは、その中に込められていた呪いはすでに別に移ったということです」

「あっ、あのとき感じた痛み!」

「そうです、つまり、呪いはすでにあなたの体内に入り込んだと考えるのが自然でしょう」

 ハリエットががっくりとうなだれる。

「そんな、呪われたなんて……モースリンとの婚約はどうなるんだ!」

 シープスキンがずるっとずっこけた。

「いや、いやいや、それはもう破棄されたじゃん」

「たとえそうだとしても! カエデ嬢の件をすっかり片付けた後でもう一回プロポーズするつもりだったんだもん!」

「あ~、そう、ま、がんばれ」

「頑張りたいけど、呪いが……ねえ、これってどんな呪いなの?」

 研究員は渋い顔。

「今の段階では不明です」

「解呪は出来るんだよね、こう、ちょいちょいっと」

「それが……呪いは魔法に比べるとメカニズムが複雑でありますので、今の段階では確約いたしかねますとしか」

「あ~、詰んだ、詰んだわ、これ」

 シープスキンはさらに渋い顔。

「それよりもさ、現段階で王位継承第一位にいる君が呪いにかかるの、まずくない? これで君が廃されたりしたら、次期王の椅子を狙って争いが起きるんじゃないかな」

「たしかに、まずいかも」

「かも、じゃなくて、まずいよね」

 ハリエットが王位継承権を失った場合、次に王位継承権を得るのは叔父といとこと伯母と……これがどれかひとりならば何も問題はなかったのだが。しかもこの三人、それぞれが政務の中心であったり国内貴族のまとめ役であったり現宰相の妻であったりと、それぞれに強い後ろ盾を持っているのだからやっかいだ。

「貴族院の連中は叔父上を王にしようとするだろうし、若い貴族たちはそんな貴族院と対立するだろうね、それに伯母上を支持する宰相派と……みつどもえか……できれば、それは避けたいな」

 ハリエットは研究員くんを振りほどき、しゃんと胸を張った。

「たとえ呪われていようとも、私はまだこの国の王子だ、国民の安寧を守る義務がある。よって、緘口令を敷く! そこらに隠れている隠密護衛のみなさ~ん、聞こえてますか~?」

 天井裏から、物陰から、ガタガタと音を立てて隠密護衛たちが返事をした。

「今ここで見聞きしたことは他言無用です~、期限は次の継承者が決定されて正式に発表されるまで~、たとえカルティエ家が相手だとしても、絶対に口を割らないでください~」

 さすがの隠密護衛たちもカルティエ家が相手では自信がないのだろうか、物音がぴたりとやんだ。しかしハリエットは容赦しなかった。

「返事! これは命令だから!」

 しぶしぶ仕方なくといった風に、ガタガタと物音がした。ハリエットはそれを聞いて、少し安堵したような顔をした。

「頼むよ、これは、たぶん……俺の最後の命令になるだろうから」

 彼はもう、迷いもしなかったし喚いたりもしなかった。

 ピンと背筋を伸ばした実に王子らしい振る舞いで、誰の手も借りずに歩き出した。

 そして彼は「少したちの悪い病気にかかった」といううわさを自ら流し、己の身を王城の奥深くに隠したのであった。


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