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厄災なるヒロイン、その名はカエデ! ⑥

 あとはカエデに用はない。二人は「次の授業の準備があるから」とかなんとか、適当かましてその場を後にした。

 もちろん、次の授業とかどうでも良くて、ただ、そのペンダントを王城のしかるべき機関に送るために急いでいたのだが――ハリエットはペンダントをぎゅうっと握って校門に向かって走っていた。

 その後ろをついて走るシープスキンは、惜しみない賞讃をハリエットに送る。

「いやあ、見事なスケコマシっぷりだったよ」

「それ、褒めてないだろ」

「いや、褒めてるんだよ、大絶賛だよ、おかげで事を荒立てることなく、こうして『物証』を手に入れることもできたんだし」

「まだ『物証』と決まったわけじゃないだろう。まずは調べてみなくっちゃ」

「いやいや、限りなく黒に近いグレーでしょ、あのキュプラ猊下が関わってんだからさ」

「そうは言ってもだな……痛っ!」

 突然、ハリエットがペンダントを放り投げた。小さな石はキラキラと光りながら宙を飛ぶ。

「おいっ!」

 シープスキンは大慌てで両手を差し出し、転びそうになりながらもようやくペンダントをキャッチした。

「何やってるんだ、大事な証拠を!」

「ご、ゴメン、だけど、すごく痛かったんだ」

「痛いって、なにが」

「そのペンダント、俺の指に刺さったよ」

「刺さった?」

 ハリエットは手を広げてみたが、そこには傷一つないし、何なら赤くなったり、皮膚がこすれていたりといった小さなダメージのあとすらない。

「気のせいじゃない?」

 シープスキンは言ったけれど、ハリエットは納得しない様子だった。

「いや、そんな感じじゃなかった。まるで肉をえぐって体内に潜り込んでくるような痛みが、確かにあったんだ」

「でも、怪我一つないじゃん」

「そうなんだよな……」

 ハリエットはしばらく指を撫でまわしていたが、傷があるわけでも、痛みが残ったわけでもないのだから、そんなことなど、すぐに忘れてしまった。むしろ二人の最大の関心ごとは、そのペンダントにどんな魔法がかけられているのかだった。

 しかし三日後、城の魔道研究室からあげられた報告は、『疑わしきところは一つもナシ、ただのきれいなガラス玉である』というものだった。わざわざ城の魔道研究室まで赴いて報告を聞いた二人は、その報告をにわかには信じようとしなかった。

「そんなわけはない、僕は確かに、なにか魔法に似た気配をあれから感じたんだ」

 そう声を荒げたのはシープスキン。彼は研究員に噛みつかんばかりの勢いであった。

「もっとちゃんと調べてよ、絶対に何か出てくるはずなんだから!」

 しかし研究員は、報告書をぱらぱらとめくりながら困り顔だ。

「そうおっしゃられましてもですねえ、むしろこんな検査までする必要あるのってくらい調べてあるけれど、全く何の魔法反応も出なかったと……」

「秘匿魔法とかは? 魔法がかかっていないように見せかけることもできるんだよね」

「その可能性は一番最初に調べましたよ、でもですね、魔法の痕跡など欠片もなかったんですよ」

「なに一切?」

「はい、なに一切。本当にただ綺麗なだけのガラス玉ですってば」

 どこまで行っても水掛け論、しかもハリエットはうわの空で、しきりに指をさすっている。

「ハリエット、もっとまじめにやりなよ!」

 少しイラついたシープスキンの声に、ハリエットはびくりと身を震わせた。

「いや、ごめん、朝から調子がおかしくてさ」

「おかしいって、指が?」

「うん、なんだかしびれているみたいな感覚があるんだ」

「そういえば君、ペンダントが潜り込んでくるような痛み、とか言っていたよね、そして今、ペンダントには何一つ魔法の痕跡がない、ふむ……」

 シープスキンはハリエットの手をじっと見つめた。なんの不調もないように見えるが……

「ちょっと君、研究員の君、そう、君だよ、大至急、ハリエットの体の方を調べてくれ」

 ハリエットは未だ、さすさすと指をさすっている。

「いや、調べてもらうなら医者にじゃないのかい、指先がしびれるって、これ、脳こうそくとか脳溢血とかなんじゃ?」

「ああ、そういう不安があるのならば医者にも見てもらえばいい、だけど、先に魔導検査だ」

 シープスキンが小さく唇を噛んだ。

「手遅れにならないうちに……」


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