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厄災なるヒロイン、その名はカエデ! ③

「あの女ッ! 絶対許さないッ!」

 荒ぶるハリエットを眺めながら、シープスキンは静かにカップを手に取る。

「まあ、落ち着きなよ」

「これが落ち着いていられるかぁッ!」

「それでも、落ち着け。君も一国の将来を背負う身だろう」

「ぐっ」

 ハリエットが黙り込む。シープスキンはあくまでも落ち着いた、むしろ凍り付くほどの冷静さで話を続けた。

「いいかい、これは国家を覆そうという企みだ」

「そんな大げさな……」

「ちっとも大げさじゃないだろう、僕たちは一応王族なんだからさ、その妻の座に収まれば一国まるまる自分の好き放題に出来るわけじゃん」

「実際は、そんなに好き放題できるわけじゃないけどね」

 国の頂点に立ったからといって、『国』を私物化できるわけじゃない。むしろ『国』という組織を健全に運営する公人であるのだから、経営者的な気苦労のほうが多いのだが。

 シープスキンが「はあ」と悩まし気にため息をつく。

「正直、民が納めてくれた税金だって『私財』ってわけじゃないじゃん?」

「わかる、自分の好きなように散在するための金じゃなくて、国を健全に保つために使うもんだからな」

「まあ、僕の兄妹もそこんところわかってない奴が何人かいるけどさ、あの女もそれと同じクチでしょ、だからわかるんだ、あの女に国庫のカギを握らせたら、金が尽きるまで自分のための贅沢三昧に使いそう」

「傾国ってやつだな」

「そう、傾国」

「まあ、容姿でいえばモースリンの方が傾国っぽいよね、美人だし可愛いしスタイル良いし」

「これ、まじめな話だから、そういう浮かれたの、いらないから」

「あ、ハイ」

「で、ここからが本題」

 シープスキンが急に真面目な顔をする。

「王族である僕らに精神魔法を使った、僕の国ではこれだけで国家反逆罪として咎めることができるんだけど、君のところは?」

「俺のところもそうだな」

「つまり、カエデ嬢を犯罪者として裁くことは可能だと」

「まさか!」

「そのまさかだよ、僕は彼女を法で裁くべく、僕たちに精神操作系の魔法を使っているという証拠を集めるつもりだ」

「つまり、囮捜査!」

「そ。で、君にも囮として協力してほしいんだよ」

 しかし、それにはもちろん危険が伴う。

「もしも、カエデ嬢の魔法に飲み込まれたりしたら……」

「そこは心配しなくてもいい、僕の国には魔法耐性をあげる秘薬っていうものがあってね、まあ、暗殺用の毒薬を研究する過程で生まれた者なんだけど、これがあればカエデ嬢の魅了魔法チャームを無効化できる」

「へえ、それなら安心……」

「ただし、カエデ嬢に疑われないように魅了にかかったふりをしなければならない、だから、どうしてもモースリンには誤解されるだろうね」

「それは……」

 躊躇は一瞬だけだった。

「それはいいんだ、どうせ俺はモースリンにフラれた身だし」

「本当にかい?」

「ああ、それに俺だって王族の端くれ、自分個人の恋心と国家の大事を天秤にかけたときにどちらをとるべきか、よくわかっている」

 口では立派なことを言いながらも、ハリエットの笑顔はどこか寂しげだった。

「俺も普通の男に生まれたかったよ、そうすればこういう時に迷うことも許されたんだろうけれど……」

「ハリエット……」

「なんで君の方が泣きそうなんだよ、やめてくれよ」

「いや、すまなかった。じゃあ、さっそく作戦を」

「ああ、わかった」

 ハリエットは涙を振り払うようにきりっと表情を引き締めた。その胸の奥には愛するモースリンを――その愛しい女が住むこの国を守るという使命感、それしかなかった。


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