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運命ってしっちゃかめっちゃか⑨

「ハリエット様……」

 切なく呼んで振り返れば、ハリエットはうつろな目をカエデに向けたまま、愛の言葉を言わされている最中であった。

「愛してるって言いなさいよ!」

「アイシテル」

 仮にもいずれ王になろうという男が口の端からよだれまで垂らして、あまりにも情けない姿だ。

「コットン、私、彼を……」

 モースリンが何か言いかけた口を、コットンがそっとふさいだ。

「しっ、ダメですよ」

「まだ何も言ってないわ」

「あのアホ王子も連れていきたいって言うつもりでしょう、違いますか?」

「そうだけど……」

「今、あの状態の彼を連れて逃げるのはリスクが高すぎます」

「でも……」

「大丈夫です、ああいった精神操作系の魔法は長続きしませんから、二、三日もすればあら不思議、元のポンコツ王子に戻りますよ」

「ううっ、でも……」

「それよりも今は、この状況からいかに死人の一人も出さずに脱出するか、ですよ」

 スタンドは罵りの声でワンワンと鳴っている。どこからか投げ込まれた熟れたトマトがモースリンの足元でベチャッと爆ぜて、赤い染みとなった。

「こんなものを投げ込むなんて……うっかり殺しちゃいそう」

「コットン、落ち着いて」

「落ち着いていてほしいなら、さっさと脱出を、ですよ!」

「わかったわ、脱出します、援護を!」

「りょーかいっ!」

 コットンはふわりとスカートをまくり上げた。ひらめく布の下、真っ白い太ももがまぶしい……が、そこには暗記や魔玉を収めた黒いガーターがコットンの太ももの白さを強調するかのように巻き付いている。

「閃光玉を投げます!」

 コットンの声を合図に、モースリンは目を閉じた。目蓋の向こうに強い光を感じる。

「足止め成功ですっ!」

 その声に目を開けたモースリンが見たものは、阿鼻叫喚の地獄絵図だった――いや、死人や怪我人はいないんだけど。

 共に笑いあった級友が、顔を見れば挨拶をかわす学友が、教壇から教えをくれた教師が、そのすべてが閃光に焼かれた両目を覆って呻き声をあげている。

「目が、目があっ!」

 さすがのモースリンも少し不安になろうというもの。

「ねえ、これ……」

「大丈夫、まぶしくて死んだって話は聞きませんから!」

 コットンに手を引かれて、モースリンは走り出した。闘技場の出口を目指しながら、ちらりと後ろを振り返る。

 愛しのハリエットは、カエデをしっかりと腕の中に抱え込んでいた。どうやら彼女を専攻からかばったらしく、彼は目を閉じて呻いている。

 しかし彼の腕の中にいるカエデは閃光の直撃を逃れたらしく、まっすぐにモースリンを見て、ニヤリと口の端を吊り上げた。

『ザマーミロ』

 その唇は、どうやらそんな言葉を紡いだようだが、声は聞こえなかった。

「くっ!」

 悔しさに唇をかみしめながらも、モースリンにできる唯一の抵抗は、その勝ち誇ったような表情から目をそらすこと、それのみであった。


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