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運命ってしっちゃかめっちゃか⑥

 すり鉢状の闘技場――そのすり鉢の底を覗くようにそそり立つスタンドは、早くもお祭り騒ぎであった。

「いいかー、もう一回コール行くぞー!」

「ファイト、ファイトっ、アセトンた~ん!」

 揃いの応援服で声援の練習をしている一団。

「早く早くっ、一番いい席でモヘア様の試合を見るんだからっ!」

 席取りに余念のない淑女の一団。

「やっぱりお貴族様も来る交流試合ともなると、珍しい屋台があるな、よし、全屋台制覇するぞ!」

 お前たちは応援しに来たんじゃないのかい……な一団。

 こうなると部外者が一人や二人紛れ込んでも気づかれないもので、キュプラとジョゼットは誰にも怪しまれることなく、まんまと保護者席のど真ん中に潜り込むことができた。

 何しろ今日のキュプラは顔を隠すために前髪を降ろして服装も平民風のラフなシャツ姿なのだから、実年齢よりも随分と若く見える。さすがに在校生にまぎれるのは無理だが、だれぞのお兄さんと言われたら信じるくらいの若々しさだ。

 しかも本日のキュプラ、口調も荒い不良モードなのだから、よもや普段は聖人面して大神殿におはします品行方正な大神殿主様なのだとは誰も気づかない。キュプラは隣に座るジョゼットに、雑談のような口調で話しかけた。

「これ、カエデ嬢の言ってた『体育祭』ってのに近いんじゃね?」

「それ、使えそうだな、彼女にそう思い込ませるように、親衛隊の連中に伝令を出すか」

 これが本日のキュプラたちの目的――彼は『親衛隊』としてカエデの側に置いた神官子息たちに、現場で直接指示を与えるためにここへ来たのだ。

 すり鉢の底ではすでに選手宣誓が始まっている。キュプラが目を留めたのは宣誓台に上がったモースリンの、見事な黒髪であった。

「あれ、使えるな」

 ジョゼットもモースリンの髪が見事なほど濃い闇色であるのを見て頷く。

「いいねえ、ウチの聖女サマは、闇魔法ってのを悪魔の使う外法みたいに思い込んでるんだっけ」

「そ、だからだろうな、見ろよ、すげえ顔であの女をにらんでんじゃねえか」

「ありゃあ、勝手に踊ってくれるな」

「せっかくだから、少し盛り上げてやるか」

 キュプラは片手を軽く上げて掌の上で魔力を練った。

 ジョゼットが慌てた声を出す。

「お、おい、こんなところで魔法なんて使ったら!」

「護衛兵に気づかれるってか? 心配するな、標的は王子でも、あの黒髪の嬢ちゃんでもないから」

 キュプラが放った魔力の塊は、誰にも気づかれることなく観客の頭上を抜けて、カエデの体に吸い込まれた。

「いったい、何の魔法なんだよ」

「普通の魅了魔法チャームだよ。俺がこれ得意なの、知ってるだろ」

 もちろんジョゼットは知っている。詐欺師時代はこの魅了魔法チャームを使って荒稼ぎしていたのだから。

「さて、あとは試合見物としゃれこもうぜ」

 悪意は仕込まれた――しかし誰もそれに気づかない。もちろんモースリンも、そして当のカエデすら。

 こうして試合が始まったのだが、やはりというか、当然のようにというか、カエデが早々に暴走し始めた。


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