運命ってしっちゃかめっちゃか②
ちょうど部屋に入ってきたジョゼットが、その言葉を聞いて笑った。
「いや、本当にお疲れさんだな、あんな女の相手、俺だったら絶対にお断りだわ」
カラカラと陽気に笑う腹心を前に、キュプラは疲れ切ったように眉間を強くつまんだ。
「俺だって、国盗りの手ごまに使うんでなかったら、こんな芝居はしないさ」
「まあ、確かに、アレの動きによっちゃ国が一つ手に入るってのは、魅力だよな」
「あの女自身の魅力ではないがな」
ジョゼットは懐から煙草を取り出し、キュプラに差し出した。彼はその一本を手に取り、火をつけた。
「……美味い」
ふかーっと紫煙を吐くキュプラに向けて、ジョゼットが尋ねる。彼はキュプラがカエデに渡した『アイテム』のことが気になっていたようだ。
「ところで、あのガラス玉はなんなんよ、魔術の媒体だってのはわかるんだけど……魅了魔法でもかけてやったのか?」
「王子とあの女が両想いになるようにってか? 俺がそんな優しい『聖王サマ』に見えるのか、お前は」
「じゃあ、なんなんだよ」
「遅効性の呪いだよ、まあ、どんな効果があるのかは、発動してからのお楽しみだな」
「なるほどね、つまり呪術媒体を王子に近づけるための運び屋として『聖女様』を使うってわけか、悪い『聖王サマ』だな」
「知ってんだろ、俺が聖の字にはふさわしくないってことはさ」
「まあ、知ってたわ」
男二人、顔を見合わせてクツクツと笑う。
この計画が上手くいかなくてもキュプラの腹が痛むことはない。もしもカエデが何かしでかして国家反逆罪に問われるようなことがあれば、全ては異界から来た常識しらずな女が暴走しただけと切り捨てればいいだけ。監督不行き届きくらいは問われるだろうが、それ以上の咎を受けることはないはずだ。
もちろんカエデの言う『ゲーム』の通りに事が進むなら、国内の勢力バランスは崩れ、この国の実権をかすめ取る隙ができるはずだ。
「どちらにしても都合がいい。あんな良い手駒が手に入るとは、俺は本当にツイてる!」
もちろんカエデは自分が手駒扱いされていることを知らない。そしてハリエットとモースリンも、キュプラの反心を疑ってはいてもその詳細を知らない――ただ、ふはは、ふーはっはと高笑いする声が、『玉座の間』にいつまでも響き渡っていた。




