第七夜 俺、貝のように口が硬いんで
センチュリーから降りてくる爺さん
誰だろう
その爺さんとこの婿殿がひと騒動起こして大混乱なおっさん
歯を食いしばって立ち上がる山崎さんを4人が見守る
「この人らの、本気に耐えられんやろ」と爺さん
4人は黙って見守るしか無いと、見守る
「爺ちゃん、紹介くらいはさせてくれよ」
「ほを」
「調べは着いてるかもしれんけど
25のオーナーのおっさん
コース引きの達人の加藤さん
キャブセットの鬼の佐々木さん
そして、まとめ役の栗原さん
神田くんは我社の社員だから爺ちゃんは頭に入ってるよね」
「ほう、紹介が出来るとか、昨夜の料亭を譲ったかいがある
ただ、助手席でゲロを吐いただけじゃぁないんだな」
「見てたんか」
「最初からな
この人らとお前では、違いすぎる
この人らは、キッチリ行くときは行く
お前はまだその域に達していない」
とそこへ、おっさんが口を挟む
「誰でも最初は吐きますよ、特に今の加藤の横なんか無理」
3人が「おいおい」との目線で会話する
「きみがおっさん君かね、女将の言うとおりだ
ぜひ一献お願いしたい」
「つまらん男ですよ」
「くくく、良平 面白い男と縁を結んだな
神田くんだったか、引き合わせてくれたのは」
「そうです、神田くんおかげです」
「おっさん達とは近いうちに一献
老い先短い爺の頼みは断らんだろうな」
「理由によっては断りますよ
老い先短とも思えませんし」
「くくく、これはまた面白い
良平、この縁を大事にしなさい」
と言い残し、センチュリーの後部座席に戻る爺さん
崩れ落ちそうになるも、必死に耐えて立ち続ける山崎さん
センチュリーが去った後
「どうすべぇ」とおっさん
「火つけて、煽ったのは全部おっさん」と佐々木
「だってさぁ、今の加藤の横に素人が乗ったら普通に吐くよ」とおっさん
加「それはそうだけど、センチュリーのお誘いを理由によっては断るとか
神田の会社人生考えてないやろ」
お「考えてたら、あの回答はない」
神「ひでえ」
佐「でもおっさんらしい、といえばおっさんらしい」
栗「あの発言連発で人徳があるとか自分で言うし」
加「でも、あそこでハイ解りましたも、おっさんじゃない」
お「皆、理解ってるやん」
「なんで、こんなんで人徳があると思えるんだ」と3人がハモる
「25にイナゴの結果を見てみよ
それにお前らだって、付き合ってくれてるし」とおっさん
「その通りです、おっさんの発言で助けられました」と山崎さんが倒れながら言う
神田がに支えられながら
「あそこでハイとか簡単に返事してたら爺ちゃんもそこまで
と見切っていたと思います
で、私の意志とは関係なく見合いの話がガンガン進んでいたと」
「ちょっと待って、俺らさ 25で遊んでるだけなのにさ
なんで、そんな財界の話に繋がるのよ」
「その遊びが、半端ないと」
「いやいや、JAF戦追っかけてる人らに比べれば、ほんの遊びだよ」
「そうそう」
「加藤も一時JAF戦追っかけて金が尽きて だしなぁ」
「そう、加藤の車に山崎土木のカラー入れてスポンサー
とかの方がいいよ」
「やっぱり、キッチリ分をわきまえてる」
「そりゃ、わきまえないとナ」と加藤
「出来る範囲での遊びですから」と佐々木
「そこに面白い車とエンジンを持ってくるのがおっさん
しかもロハで入手とか、笑うしかない」と栗原
「すべて俺の人徳のなせる技だ」
「んなわけないだろ」と3人が突っ込む
「もう、ホントに面白く仕方のない人たちですね
神田くんのおかげでこんなの面白い人と縁を結べました」
「で、どうするの 俺の25にイナゴ載せるのに付き合うの」
「そこまで言われたら引けません、財政面は任して下さい」
「って、金出すだけじゃぁなぁ、なんかしてもらわんと」
「今の私に出来ることはお金の支援だけなんですから」
「まぁ、おいおい乗って貰うとして、でどうだ」と加藤が〆て散開していく
月曜日、会社で仕事してると、
「おっさん電話、伊藤鉄鋼のさんから」
先月、クレームで行った所だ「またか」と肚をくくり
電話を取る
「おっさん、元気してるらしいじゃん」と社長からの直電
「はい?」
「聞いたよ、なんかやらかしたらしいって」
「はい?」昨日の今日だぞ
「でさぁ、おっさんのアポを取ってくれって、うちの親経由で来てるんだわ」
それこそ「はい?」だわな
「でさぁ、俺も断れなくて電話してるんだけど」
「親って、元請けの三崎工業さんですよね」
「そうそう、その先はわからないけど」
おいおい
「で、社長の所へ来いと」
「来てくれるのが一番有り難いんだけど、俺の顔も立つし」
「つか、社長のとこって安来ですよね、島根の」
「そうそう」
そうそうって、簡単に返事が出来ない
「それは、無理っす 私の判断では行けませんよ」
「まぁ、そうだわな おっさんに話は通したから、よろしく」
「全然通ってませんよ」
「話は聞いたでしょ」
「聞きましたが」
「なら、話はしたと、じゃ待ってるね」
と電話が切れる
ブチ切れるおっさん
山崎土木の代表に電話して、会長に繋げと
肩書もなしで「25のおっさん」と言えば解ると押し切る
会長が不在で社長が出てる、が知らずに
「もしもし25のおっさんですが、ちょっとゴリ押しが過ぎません?」
「私、社長の山崎と申しますが、25のおっさん様とは」
ひでえ、不在で社長に繋ぎやがった受付
「それは、会長に聞いて下さい 25のおっさん
三崎工業さんの件だと言えば解ります」
と電話を切るおっさん
一般常識だとNGだがブチ切れてるおっさんには平城運転
お昼ご飯を食べて眠たい目をこすりながら仕事をするおっさん
「おっさん、営業部長が来いってよ、なにやらかした」と課長
おっさんを連れて、営業部長の席へ
営業部長の席に着くなりおっさん
「部長、安来の伊藤鉄鋼さんの件ですか」
「よく理解ったね、どうにも断れな筋で来て欲しいと」
「それ、今しがた 大元にクレーム入れましたから大丈夫です」
「ええええ、大元? 伊藤鉄鋼さんの親は三崎工業さんでしょ
そこにクレーム入れたの ダメでしょ」
「違います、その先です」
「どこ?」
「それは言えません」
常務(若)が現れ「おっさん、やらかしたようだね」とニヤニヤとする
「大元の大元の原因は常務から貰ったTE25ですから」
「あ、そうなの」
「そうです」
「で、どうするの?」
「会社には迷惑かけれないので、行ってきますよ」
「三崎工業さん?」
「その納入先です」
「ちょっと待って、その先って?」
「言わないといけませんか」
「言ってくれれば、僕のヘネシーがおっさんに」
おい、いきなり搦手かよ
しばし、沈黙のおっさん
「どうもややこしい話みたいですね
おっさんと二人で話しましょう 私の部屋へ」
常務(若)には25をロハで貰った恩があるしと
着いていくおっさん
部屋に入り、常務(若)との話になる
常務(若)が電話をして女の子にコーヒーを頼んでる
コーヒーが着くまで無言なおっさん
「さて、どうしましょう」
「先に言っておきますが、業務以外からの話です」
「へぇ、それでおっさんのアポ取りに営業部長まで動かす相手ですか」
「まぁ、デカイ会社の会長さまですから」
「え?」
「山崎土木の会長からの呼び出しですよ」
「山崎土木って、あの」
「そうです、同期に山崎土木に行ってるやつが居て
その絡みで、会長の孫が絡んできて、常務(若)から貰った
25に横乗りさせてゲロ吐かせたんですよ」
「ゲロって」
「山崎土木の駐車場でジムカーナのコース作って走って
横乗りさせたら、ヨー・ロール・ピッチでのGの連続で素人は吐くんですよ」
「ちょっと待って」と常務(若)が言ったところで
ノックがされる
「おっさん、緊急 面会 山崎土木の社長らしい」
常務(若)の顔が真っ青になる
もう肚の座ったおっさん
「今行く」
来客用の会議室へ向かう
「失礼します」と会議室に入るおっさん
一応名刺は持ってきたが、出さない
25のおっさんです と自己紹介 会社名も言わない
向こうは秘書らしき お姉さんが名刺を出してくる
受け取らない
ホントは、キレイなお姉さんの名刺なので欲しいけど
「本当に会長の言われる通りの方ですね」
「悪口を言われるのは慣れてます」
「私の独断で三崎工業さんにお願いしたらと
やってしましまして
先程の電話の後会長に報告したら
当たり前だ、謝りに行ってこいと」
うわぁ、えらいことになってる
でも、もう肚も座ってどうでもいい状態のおっさん
「それで、どうしてくれます 安来の伊藤鉄鋼の社長から
来てくれと、直電されてるんですが」
そう話は、三崎工業だけではなくその先まで行っているのだ
「あそこの社長には先月良くして貰ってるので
顔を潰すわけには行かないんですよ」
「ではどうすれば」
「ほっとけば、営業が私指名で安来に呼ばれますので
おたくの会長も安来に来てもらうしかないです
蕎麦が美味いですよ」って端境期なのに言うおっさん
「それで、会長にあって頂けると」
「しゃぁないです、伊藤鉄鋼の社長の顔を潰せないので」
「すぐ会長のスケジュールを抑えて」とお姉さんに言う社長
どうやら自動車電話に行くようだ
見てみると、車寄せに横付けで駐車したままのセンチュリー
お姉さんが電話してる
お姉さんが戻ってきて、おっさんを連れ出しセンチュリーの
リアシートに押し込む
「会長と繋がっております」
「やらかしてくれましたね、だれが主犯ですか」
「くくく、開口一番でそれか 申し訳ないうちの婿がな」
「伊藤鉄鋼の社長の顔は潰せないので安来に来てくださいよ」
「儂の誘いは断っても、義理は欠かさんか」
「まだ、誘われてませんが」
「そうれもそうか」
「そうですよ、正直に良平さんと呑みたいから
おっさん出汁になってくれ と言われれば断らないものを」
「判った、肝に銘じるよ」
「スケジュールはうちの営業が立てるんで、それに乗っかて下さい」
「そっちの都合で儂が動くと」
「しゃァないです、苦情は婿殿に」
「おいおい、また一段と肚が座ってないか」
「こんなけ朝からやられたら、肚も座りますよ」
「わかった、おっさんの顔も潰せんしな
女の子と変わってくれ」
なにやら、話をするキレイなお姉さん
会議室の戻ると、常務(若)が山崎土木の社長と面会していた
常務(若)が「どうなった?」と
「伊藤鉄鋼の社長の顔も潰せないので安来に行きます
大元も安来に来ますので今回の混乱は一応収まります
出張申請を盲判でお願いします と課長に言って下さい」
すごくホッとした顔の社長
お前の勇み足が今回の混乱の元だが と思って
「社長の勇み足が」と言い掛けて止める
「それは、会長にもしっかり言われましたので」
コンコンとノックがあり、営業部長が入ってくる
「おっさんの安来出張の件だが、明後日の朝発で
安来で2泊 これで向こうの営業と話は着けた
伊藤鉄鋼の社長もOK出してる」
「お姉さん聞いた?」
「はい、明後日の朝発で安来で2泊ですね」と復唱して
会議室を出ていきセンチュリーに向かう
「それでは、私どもはこれで」と帰っていく混乱の元
「やられたなぁ、伊藤鉄鋼の社長って旨い蕎麦食わしてくれるんだけど
きっついんだよなぁ」とボヤくおっさん
常務(若)が「おっさん、続きを聞きたいのですが」
と丁寧な言葉でつぐむ
あ、怒ってる と直感するおっさん
まぁ普通、あんだけデカイ会社の社長がアポ無しで来たり
大元が会長とかの話で、2年目のおっさんが台風の目とか
「常務(若)俺、貝のように口が硬いんでヘネシーでもないと」
もう、こんだけやらかしたからと
転職先を考え始めてるおっさんだから何でも言える
「ここで、それを言いますか、いくつですかおっさん」
「ピチピチの23ですよ」
「ウチの人事もというか、大学の研究室というか、極悪なのをw」
を、最後笑ったぞ
「解りました、今夜7時に寮に迎えに行きます」
え、ホントに、お断りのヘネシーだったんだけど
今宵も夜の帳が降りてまいりました
おっさんがヘネシーにありつけるかはまたの夜に