第五夜 フルコンプのイナゴ
完全な成り行き任せで、料亭の上座の真ん中に座るおっさん
さて酒宴は始まります
慣れた手付きで、パンパンと手を打ち中居さんを呼び
なにやら、中居さんに耳打ちする山崎さん
中居さんが出ていき、代わりに年のいった女性が入ってきた
「それは、会長もご存知でしょうね」と女性が言う
「この席に爺さんが居ないのが証拠ですよ」と山崎さん
「孫には甘いお爺さんですこと
確認させて下さい、本当に大丈夫なんですか?
今日の会長の宴席は、会長の旧知の宴席と聞いております
我が料亭の都合での取り止めとかとかになっておりませんよね」
我が料亭というところをから、女将と思われるが
そんな事に気を廻せる状態に無い4人
「爺さんに言ったら、私から直接詫びを入れろと
頑張って、電話しまくりまして、珍しい事もあると
皆さん、ご理解いただけました
でも爺さんが来たいとゴネられてこれが一番やっかいでした」
「え、良さんが、あの方々に直接ですか」
はぁ〜 と物凄く珍しいものを見る目つきの女将
「そうじゃないと、譲ってやれんって、爺さんが」
「それ程なんですか」
「そう、今日の私には、あの人たちに詫びを入れるくらい
なんでも無いです。
後日、顔を出せと皆さんに言われたのが困りものですが
背に腹は変えれませんので」
栗「なんかすごいことになってるぞ」
佐「その凄いことで、上座に居るし」
お「俺なんか真ん中だよ、どうやって収拾を付けるんだよ」
加「まぁいいじゃん、山崎さんがなんか頑張ったみたいだし」
佐「流石のおっさんも、ビビるかぁ」
お「ビビってないのは加藤だけだろ」
栗「そうかもな、俺もビビってるし」
佐「よかった、俺もだよ」
加「なんで飯食うだけでビビるんだよ」
「お気楽なのはお前だけだよ」とおっさん達上座三人のハモリ
「解りました、”あの”良さんが頭を下げてまでとは、驚きました
しかも、あの方たちに会いに行かれると 喜ばれますよ」
「それも、困りものなんですがね」
パンパンと手を打ち、仲居さんを呼ぶ女将さん
「経緯はわかりませんが、”あの”良さんが頭を下げてまで
我が料亭を推して頂いたとの事
しっかりお願いしますね」
「始めて下さい」と山崎さん
「いやぁ、横取りしたものですから、色々で
お待たせしました」
小鉢が皆の前に配膳され、YK45の4合瓶がアイスペールに入って
山崎さんのもとに運ばれる
銘柄確認をして、封を切り、氷の入った急須型の銚子に注ぎ
「ささ、まず一杯」と佐々木からアンクロックで注いで回る山崎さん
意識がヤバイ神田の所は、加藤がホレ持て とフォローしてなんとか通過して
加藤に注ぎ終わると、銚子が空になり、再び4号瓶から銚子に注ぐ
注いだ処で、加藤が「注ぎますよ」とさっと銚子を引取り
山崎さんに盃を要求し、注ぐ
そして「今日の出会いと明日の25に」と言った処で止める山崎さん
上座3人は目で会話
俺か? そうだろ そうとしか
と5秒で会話を終了させるも
「盃だし一杯目は盃返せよ
じゃ、かんぱーーーーーーい」と加藤が勢い良く発声
皆で盃を煽り、下に向ける4人
ちょっと遅れて、神田も盃を返す
その様子を見て「台湾式ですか」と言いながら盃を返す山崎さん
お「よかったよ、加藤が今日のメンツに居て」
加「お褒めいただい恐縮です」
「褒めてんじゃねえよ」と栗原が言うも
「いや助かったのは事実だし、加藤のおかげで乾杯も出来た」と
冷静さを取り戻した佐々木が言う
「山崎さんばかりに、注がせるのはいかんので
銚子をもう2つほど」と加藤が言いかけたところで
仲居さんが、アイスペールを2つと銚子を2つ持って現れる
お「流石、高級料亭やな、気が効きまくりだわ」
山「そこを見るとはね、やっぱり招待した甲斐がありますね」
前菜が出た頃に、加藤が「おっさんの25入手秘話から」と
口火を切る
「いや、今日は明日の話で」と逃げを打つおっさんだが
「ほう25の入手秘話とか、ぜひお聞きしたい」と山崎さん
呑まんと話せんといえば、盃にYK45が注がれる
そして、おっさんが寮の前の放置車両だったのを、
社長の息子に直談判して「ロハ」で貰って、
試運転が会社のイベントになって
それを栗原の所で部品を調達して、佐々木のキャブセットと
加藤の実走行チェックで仕上げた2T-SUツインのTE25と語る
時々、3人からツッコミを受けながら
語り終わる頃には、お造りと強肴が出てきていた
「それはそれは、面白い話ですね」
「会社のイベントとか笑うわ、な神田」と加藤が神田に振る
この一言で意識を取り戻した神田が盃を差し出す
やっとの二杯目
小鉢も前菜も手を付けてなかった
そして、明日のプライベートジムカーナは、3時間ほどしか出来ない
ということが判明し
コース引きは加藤がやって
皆でインスペクションして予想タイム出して
皆で25を廻し乗りで
タイムより、キレイに廻ること
皆は加藤の予想タイム+15秒に近づけること
加藤のTE71から25秒落ちが山崎さんには正解だろうとは佐々木の言だ
との練習会とすると決まった
って、4人で話を進めながら、山崎さんにどうですか?と訊くものの
「言ってる意味がわからない、日本語ですか」と返され
「25秒落ちとは舐められましたね」って言ってる意味がわからない人だと
それでもキツイかもしれない なんせ25だし
「明日実践で」と返すしか無い4人
神田は意識を保つのが精一杯で、黙々と食べて呑んでる
ボケてみるかと、おっさんが「俺が上座とかなぁ、神田変わるか」とボケるが
返答がない
進肴と釜物が出る頃には、4合瓶3本が空になっていた
いい感じで出来上がって、佐々木が
「おっさんさぁ、エンジンは逝ってもいいって
軽く言ってたけど、2Tレギュラーにするん」と訊いてくる
考え込むおっさん
「話をしたら、この全員で手伝うハメになるけどいい?」
佐「なんや、その含みのある言い方、栗原ん所になんかあるのか」
栗「俺は何も訊いてない」
「その全員に私も入るんですか」と山崎さん
「そう、聞いた全員が手伝う」とおっさん
「なんか怖いですね」
「怖くはないですけど、手や服は汚れますよ」とおっさん
「言えや」と栗原が銚子を差し出しながら言う
盃を受けて、キュと飲み干したおっさんが語りだそうとすると
「ちょっと待って、酒が切れました」と山崎さんが
絶妙のタイミングで話の腰を折る
銚子が3つ交換され4合瓶が3本追加される
そして、山崎さんが銚子をおっさん向ける
盃に注がれたのを飲み干し盃を返し、語り始める
「おまえらさぁ、俺が大学の時バイトしてたショップ覚えてる?」
皆うーーんと首を横に振る
「まぁいいや、そこにさぁアクセサリショップには似つかわしくない
エンジンが飾ってあったのよ
2T-G
TRDフルコンプのイナゴ
クロモリのフライホイールにツインプレート付き
オイルパンがフラット
キャブは当時のTRD純正のデロルト」
と区切りながら、皆の顔を見ながら語るおっさん
「中身は」と栗原
「TRDフルコンプだから当然、ハイカムもハイコンプも全部入ってるハズだ
去年店締めたんだけどさ、その時に社長に呼ばれてさ」
「まさか、そのエンジンをおっさんが”また”貰って持ってるとか」
とココまで言った佐々木が銚子を持ち自分で注いで二杯呑むが手が震えている
「そう、ロハで貰って、そのエンジンがうちの実家の車庫にある
25に積む、車検が1年以上あるしな、手伝え」と宣言するおっさん
よく解っていない山崎さんと神田が????となっているが
解ってる栗原と加藤と佐々木は完全に手が止まった
「しかも、ド新品 組んだだけ」と追撃するおっさん
「よく解らないのですが、そんなに皆さんの手が止まるほどの
凄いエンジンなのですか」
「凄いなんてもんじゃない、残ってるのが奇跡」と栗原 敬語も無くなってる
「しかも、組んだだけのド新品だと」と佐々木
「だから手間食うんだよ、一人じゃ出来ん、手伝うのかどうか決めろ」とおっさん
「しかもキャブがデロルトで資料が残っていない
やらかすと焼き付く、まぁそん時はそん時で諦めるが
で載せるなら、3速クロスも欲しい、60タイヤにしないと持たんし
栗原ん所には迷惑かける」とおっさん
おっさんの爆弾発言で、沈黙が酒宴を支配する
「タイヤでしたら、私のロードスターのタイヤが使えませんか
185/60−14ですよ」
と、沈黙を破ったのが山崎さん
え、聞いたら手伝えとは言ったがちょっと違う・・な、おっさん達
「やるかぁ、伝説のイナゴ」
「聞いちゃったしなぁ」
合肴・蒸し物と進んでるが、誰も手を付けて無く
仲居さんが、ご飯を出して良いものか困っている
「とりあえず、食おう 仲居さんが困ってる」と加藤
食い始めた時に、女将さんが現れ
「なにか、料理に問題でもありましたでしょうか」と訊いてくる
「いえ、料理はおいしいですよ
ちょっと別の大問題発言がありまして固まってた所です」
と山崎さんが、女将さんに回答する
「え、大概なことは流す良さんが大問題とは
ついに結婚決めたとかですか」
と、あらぬ方向に走っていく女将さん
「ははは、その時には二番目に報告しますよ」
「二番目って所が、真実味を帯びてますね」
「軽い呑みのつもりが、料亭になりYK45で
25を貰えたのも、イナゴを貰えたのも、
手伝ってくれるが5人も居るとは、俺の人徳も凄いな」
とおっさんが呟く
「真ん中のお客様が、おっさんですか?」と女将
「そうですが、なにか」
「場を掴んでますね」
「はぁ、まあ人徳がありますからw」
「それを言いますか」
「他に言いようがないですし」
「ふふふ、次回をお待ちしております」
と去っていく女将
「次回なんてねえよ、この席だけで俺の月給吹き飛びそうだし
しかし、なんで女将さんが俺の名前を知ってるの
山崎さんが教えたの」
「いえ、爺さんたちには名前くらい言わないと
いけなかったので伝えましたが、女将さんには」
「伝えてないと、ではお爺さん経由ですか」
「私の爺さんの可能性が高いですが
今日の宴席の予定の誰かも可能性はあります
女将さんのあの様子では近々次回がありそうですね
ご迷惑をお掛けすることになる思います」
「何で解るんですか」
「私が山崎の直系で、普通なら上座に座って当たり前
そして上座を用意されても、顔を出さない世捨て人と
言われてたんですよ
それが、下座の席で、あっさりと収まってる
しかも、此の席のために頭を下げて回る
何事かと、今頃爺さんたちは大騒ぎしてますよ
でも、おっさん達のセットを出した幻の25は乗れるは
伝説のイナゴ?ですか
の話も聞けたし、参加も許される
いやぁ、明日からの謝罪行脚も気にならない」
「・・・・」と一同
「それと、俺の次回となにか関係が?」
「そりゃ、山崎の直系の名刺を断るわ
話を聞いたら、手伝え と言い切る若者の
顔を見てみたい と年寄りが多いんですよ
それで、おっさんを呼べれば私も着いてくる
孫との呑みの出汁ですね」
「あちゃぁ、こんなとこでも俺の人徳がぁ」
「全然違うと思う」と佐々木からのツッコミ
ご飯物が出てきた処なので、ご飯を食べて水物を楽しみながら
「イナゴの件は、次回までにプランを考えといてくれ
無理なら売っぱらうし」
「つか車検が来たら、どうするん」
「ナンバー切って、ホモロゲが切れるころだからD車にしたいなぁ」
「積車と駐車場は任せろ」
「どっち?」
「足がアレばダートラ、なければ今の足でジムカーナ」
「さて寝るぞ、って」
「となりに布団ひいてあります」
「さすが高級料亭」
おっさんのイナゴ持ってる発言で、一同凍るわしながら
夜が更けていき、明日の練習会のため、早めの就寝をする
一同であった
今宵も夜が更けましたので、此の辺で