7:冒険者ギルドの没落(中章)
「おじちゃんバイコーン出してよ!」
「他のも見たい!」
昨日バイコーンと遊ばせた事で子供達に懐かれてしまった
「しょうがないな…」
『召喚バイコーン、ウルフ、ドッグ、チュン』
「「わー!」」
呼び出した召喚獣に群がっていく子供達
「お兄さんの召喚獣は大人気だね」
「ダンジョンに行くまではいいけどな」
「ははっ、串焼き2本出来たよ」
「ありがとう」
「しかし、召喚師は凄いね。バイコーンなんて上級ダンジョンにも居ないはずだよね?」
「俺も詳しくはないが特級にいるらしいな」
「特級なんてこの国でも1箇所しか無いはずだよ」
「そうなのか」
「おじちゃんバイコーンに乗りたい!」
「私も!」
「いいけどダンジョンに行くから少しだけだぞ」
バイコーンに乗せて軽く辺りを廻ってやると満足したのか子供達は帰って行った
「それじゃあカヤの店に行くか」
カヤの店でバイコーンに背負わせるバックを物色しているとカヤが現れた
「お兄さんちょっといい?」
「どうした?」
「冒険者ギルドがお兄さんに呼び出しを掛けてるらしいわよ」
「は?なんで俺を?」
「多分教団との関係が良くならないからお兄さんに間に入って貰いたいんじゃない?」
「馬鹿なのか?」
「そうよね」
「呼び出しなんて応じるわけがないだろ。向こうからくるのが筋じゃないのか?」
「まだ自分達が上だと思ってるんでしょうね」
「間違いなくな」
「まあ教団が後ろ盾なんだから冒険者ギルドなんて怖くないでしょうけど気をつけなさいよ」
「忠告は聞いておこう」
バックを買ったのでダンジョンに向かうが入り口で冒険者ギルドの職員から命令を受ける
「召喚師のツヨシだな。冒険者ギルドに来てもらおう」
「嫌だ」
「なに?」
「じゃあな」
「なんだと……」
さっさとダンジョンに入る
「まったく…」
ダンジョンに入ってからはオークを倒しがてら10層に向けて進んでいく
「下層は何がでるんだったかな?」
バイコーンに乗っているので地図と下層の情報が載った本を見ている
『グガッ!』
敵はオーガが倒してくれるのでやる事は少ない
「なになに?下層はオークの上位職とウェアウルフが出るのか」
上位職はオークジェネラルという武器と鎧を着たオークのようだ。ウェアウルフは人狼みたいなやつだな
「下層は危なそうだがオーガでも通用するかな?」
『ガア!』
「ん?任せろか?」
「ガッ!」
「そうか頑張ってくれ」
オーガはやる気があるな。召喚獣強化のスキルで強くなってるからな
順調に9層まできたが昼時になったので階段で休憩する
「今日は干し肉とパンだな」
お湯を沸かしてお茶を作りながら干し肉とパンを出して準備する
「やっぱり味気ないな…」
料理は出来るがダンジョンで料理をするのは面倒なので簡単に済ませる事が多い
「ん?」
食事が終わりまったりしていると少し先で言い争う声が聞こえる
『おい!早くしろ!』
『まてよ、この奴隷が遅いんだって』
『ちっ、役に立たねえな』
『荷物持ちに買ったけど微妙だよな』
『最近は稼げないから売っちまうか?』
『でも最近はみんな金が無くて売ってるんだろ?安く買い叩かれるんじゃないか?』
『だよな』
『それでも餌代だって掛かってるんだ売った方がいいだろ』
『餌だって余り物しか食わせて無いんだから荷物持ちは売らないほうがいいよ』
『そうだよ、オークの肉は持ち運ぶのは大変なんだから』
『荷物持ちは必要だな』
奴隷の売却の話か
「会ったら面倒くさそうだから行くか」
さっさと移動をして10層の階段まで進んでから地上に戻る
「まってたぜ召喚師」
「そうか、じゃあな」
「おい待てよ」
「……なんだ?」
「ギルドマスターが呼んでるんだよ」
「そうか、話があるならそっちから来いと言ってくれ」
「だよな。だけど俺も仕事なんだ来てもらわないと困るんだよ」
実際嫌な仕事を押し付けられたんだろう
「ふむ、それじゃあ1時間後にギルドに行くと伝えてくれ」
「いいのか?」
「この後素材を売りに行くから時間が掛かると言ってくれ」
オーク肉の入ったバックを叩きながら悪い顔で言う
「わかったギルドマスターには伝えておこう」
向こうも何か気づいたのか了解する
用事を済ませてから1時間後に冒険者ギルドへと赴いた
『コンコン』
「ギルドマスター、召喚師が来ました」
『入れ』
「失礼する」
「………」
「やっと来たか」
「それで話とは?」
「その前にそれは誰だ?」
「俺の知り合いでなこの後に用事があるんだがギルドマスターに呼ばれたから一緒に来たんだ」
「まあいい、話だがお前ギルドに入れ」
「ん?」
「だから入れてやるからギルドに入れ」
「馬鹿なのか?召喚師だからと首にしたのは貴様だろう」
「教団に派遣を止められなければ召喚師なんぞ要らんがしょうがないから入れてやる。まったく神官長にも困ったものだ。教団如きに頭を下げたくないというのに冒険者共からせっつかれているからお前をギルドに戻してやらねばならん」
「なんで俺が入りたがってると思うんだ?」
「冒険者ギルドに入れば特典が多いだろう」
「司祭殿は居なくなったがな」
「ぐっ、お前のせいだろ!」
「はいはい」
「なんだその態度は!」
「こっちは話す事なんて無いんだよ。謝るってんなら聞いただろうがな」
「何故俺が謝らねばならん」
「謝る必要が無いなら話す必要はないな?」
立ち上がって部屋を出ようとするが止められる
「いいのか?」
「何がだ?」
「中級ダンジョンに居るそうだな」
「それがどうした」
「気をつけるんだな」
「ほう、刺客でも送るつもりか?」
「そんなことは言っていない」
「そうか、それなら気をつけるんだな」
「あ?」
「何時までギルドマスターでいられるかな?」
「なんだと?」
「ふっ」
「貴様!殺してやるぞ!」
「ほう……。俺を殺すのか?」
「俺がその気になればいつでも殺せるんだぞ」
「ふむ、聞きましたか?」
「ええ、聞かせて頂きました」
一緒にいた人物が被っていたフードを取って顔を見せる
「なっ?!」
「ご無沙汰しておりますなギルドマスター殿」
「し、神官長様…」
「この後ツヨシ殿とお話がありましてな、ギルドマスター殿とお話があると言う事でお邪魔しないように顔を隠していたのですが……」
「まさか殺害予告をされるとは思わなかったが神官長様が居てくれたので証人としては充分だな」
「ま、ま、待って欲しい?!」
「なにか?」
「さっきのは言葉のあやで……」
「ほう、ギルドマスター殿は言い間違いをしたと?」
「そ、そうです」
「それは通りませんな」
「なっ…」
「その前のツヨシ殿への発言や教団への不満も聞かせて頂きましたので貴方が本心からツヨシ殿を殺害しようとしているのはわかりました」
「そのような事は……」
「実際刺客を送ってますよね?」
「な、何故それを?!」
「下級ダンジョンに冒険者が流れているのをいい事に刺客を紛れ込ませていましたが、ツヨシ殿は中級に居たため無事だった事はわかっています」
刺客なんて送ってたのかよ
「まあ、所詮中級低層しか行けない冒険者だったので襲われてもツヨシ殿には敵わないでしょう」
「…………」
「さて、貴方の事は衛兵に預ける事にしましょう」
神官長が手を叩くと扉が開いて冒険者が入ってくる
「彼を拘束して下さい」
「わかりました」
冒険者に拘束されて衛兵に引き渡されるギルドマスター
「彼らは?」
「女神教の信者の方です」
「やはり冒険者にも信者が居るんですね」
「もちろんです。彼らは別の街のギルドに所属して居ますけどね」
「この街には居ないんですね」
「あのギルドマスターが女神教徒を排除していたのですよ。今回は無理を言って来てもらいました」
「いい機会だった訳ですね」
「結果としてはですが」
「ははっ」
「ふふふっ」
「それではダンジョンに行ってきます」
「わかりました。また何かあれば教団までお越しください」
ギルドマスターが捕まった事で暫く荒れそうなので気をつけよう
あれから5日中級ダンジョンの中層でオークを狩り続けていた。
「お兄さんいらっしゃい」
「魔石を買い取ってくれ」
「今日も多いわね」
バイコーンのバックに乗せているので午前と午後に分けて毎日70個以上を取ってくる
「冒険者が中級ダンジョンに行かないから助かるわ」
「まだ冒険者は行けないのか?」
「ええ、薬師ギルドはポーションを急いで作ってるけど全然足り無いみたい」
「そんなに使うのか?」
「この街のダンジョンじゃ薬草が取れないから近くの森で採取してるんだけど、グレートウルフが出たらしくて討伐待ちみたい」
「ほう、確かAランクの魔物だったな」
冒険者ギルドでは魔物にランクを付けているが最近はダンジョンの階層で分けているため使われなくなっている
ちなみに下級ダンジョンではF〜Eランク、中級ダンジョンではE〜Dランクが出る。上級ダンジョンではD〜Cランク、特級ダンジョンはB〜Sランクと難易度が桁違いに上がる
クリアーしたダンジョンによって冒険者も下級、中級、上級、特級と呼ばれる
Aランクを倒せるのは特級冒険者でも上位の者だけなので別の街から呼ばないといけない
だが教団騎士なら特級クラスの騎士が存在しているため退治は可能なはずだ
「教団は動いていないのか?」
「冒険者ギルドとしては自力で解決したいのでしょうね」
「ギルドマスターは捕まっているだろ?」
「王都からきたギルド職員が仕切っているようで教団の介入を拒んでいるみたい」
「解決するまで時間が掛かれば批判されるだろうに何を考えているのやら」
「分からないわ」
自力で解決するにも特級冒険者は1ヶ月以上は掛かる街にいるはずだ
「オーナー、その話なんですが上級冒険者を集めて討伐するつもりのようですよ」
「え?そうなの?」
「はい、隣町からも集めて30人ほどになるそうです」
「それで討伐出来るのかしら?」
「無理だろうな」
「無理なの?」
「いくら風下から近づいてもグレートウルフなら匂いや音に敏感だろう。大人数で移動すれば気付かれるはずだから奇襲は出来ない。森では素早く動く狼なんて余程実力差が無ければ勝てんよ。まして1匹とは限らないからな」
「どういう事?」
「グレートウルフはウルフ系の上位種だから配下が居てもおかしくない。ウルフ数十匹を配下にしてるなら森に入った瞬間に奴らに気付かれているだろうな」
「それじゃあ……」
「森の浅い部分なら襲われていないんだろ?」
「ええ」
「森の中心部が縄張りなのか浅い部分だから見逃されているのだろう。そうなると……、子供を育ててる可能があるな」
「嘘でしょ……まさか?」
「番の可能性すらあるな」
「なんてこと……」
『た、大変です!』
「何事!」
「オーナー!グレートウルフが街の近くまで現れて馬車を襲ったそうです!」
「馬車を?!」
「はい、ウルフを20匹つれて現れたグレートウルフによって定期便の馬車と一緒に来てたサバリス商会の馬車が襲われて護衛を含め12名が殺されて亡骸は持っていかれたそうです。生き残ったのは3名のみで教団に保護されてます」
「嫌な予想が当たったな」
「そうね、これで街から馬車が出せなくなったわ」
「数日は大丈夫だろうから他の街の人間は逃げ出すだろうな」
「まずいわ、物流が止まれば食料が足りなくなるはず」
「中級ダンジョンの攻略も止まってるしな」
「そうね不味い状況よ」
「オーナー!噂を聞いた人達が街を出ようと門の前に集まってます」
腹を満たしたグレートウルフが大人しい間に逃げ出すとは思っていたが行動が早すぎる
「中級ダンジョンでオーク肉を集めないと不味いわよ」
「教団も動くだろう」
「そうね」
グレートウルフ襲撃から2日後、教団は騎士を中級ダンジョンに派遣してオーク肉を集めていた
「ツヨシ殿、今日もよろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
俺は教団騎士2人を連れて中級ダンジョンに潜っていた
「ツヨシ殿が居ればオーク肉を大量に運べるので助かります」
レベルが上がり魔力が上がったのでバイコーン3匹を召喚している
「流石に教団騎士は強いな」
「いえ、ツヨシ殿こそ召喚師とは思えませんよ」
バイコーンに騎乗するのでランスを買って突進攻撃を出来るようになった
教団騎士もバイコーンに騎乗しているため狩りのスピードが異常に早い
「なんとか食料は足りてますが早くグレートウルフを討伐しないと穀物や野菜が足りなくなりますね」
「備蓄はどのくらい持つんだ?」
「おそらく20日ほどかと」
「教団は討伐しないんだよな?」
「冒険者ギルドが嫌がりますからね」
「上級冒険者はあと3日で来るらしいのでそれまでは動けません」
「勝てないだろうけどな」
「無理でしょうね」
「特級冒険者でも厳しいと思います」
教団騎士と狩りを続けて3日後、やっと上級冒険者が集まりグレートウルフ討伐が決行された