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食材や日用品を買い足し、寝床としている隠し家に運び込む。これだけで一日はつぶれてしまおうかという重労働だ。しかし、次の任務がいつ入るとも知れないので(いくら休みと言われようと、突発事象は予測しきれないのだ)仕事に必要なものも早急にそろえておかなければ、いざというときに自分が痛い目を見ることになる。




燦燦と照り付ける太陽に陰鬱な気分になりながら、大通りを外れた裏路地へと足を向けた。




薬屋の品ぞろえは裏通りの方が格段に良い。しかし、治安の面でいえば、格段に悪い。いくら大陸に覇を轟かせる公国といえども、戦火が絶えてからそれほど長い年月を経ているわけではない。どうしても貧困層や浮浪者といった者たちがそこには存在する。そしてそういった後ろ暗い場所にこそ、後ろ暗い者たちが集いやすいのだ。


その、はずなのに。




「えっ、イエイの乾燥薬扱っていないんですか!?えっと、そっか……困ったなぁ。この数じゃあ次の遠征には……」




薬屋には似つかわしくないどこか禍々しい店構えの扉をくぐると、妙にキラキラとしたものがいた。

うんうんと悩まし気に顎に手を当て眉間を寄せ悩んでいる青年は公国の正規騎士の装いである。鮮やかな金の髪がこの薄暗い空間の中にあっても妙に主張が強い。ち、と舌打ちが漏れそうになり口元に力を込める。騎士様が後ろ暗い薬屋に何の用だろうか。邪魔なことこの上ない。その思いは店主の老婆も同じようで胡乱なまなざしを青年へと向けている。




まぁ、なんでもいい。私には関係のないことである。スッとカウンター裏に立つ老婆の方へ寄り、必要な薬品を頼むことにする。




「解毒剤と解熱剤、鎮痛剤を10ほど。頼めるか」




すいと視線を動かしこちらを向いた老婆がニタリと笑む。




「えぇ、えぇ。毎度ありがとうございます。ご用意しておりますよ、少々お待ちを」



諾の言葉と共に店の裏へと潜っていく。それに頷き、店の隅に背を凭れ時間をつぶす。




「イエイの乾燥薬がないとなると、代用は……マジュの葉か?いやでも頼まれたものと違うし……」



うんうん唸りながらも考え込む青年が嫌に応も眼に入る。いつまで悩んでいるつもりだろうか。ないと言われたのならばほかの店へ行けばいいものを。



「マジュの葉……いやでもあの薬草には副作用があったはず。ううん、なんだったかな……」






マジュの葉は麻痺消しだ。副作用は味覚の鈍麻。そもイエイの乾燥薬は止血剤であって、代用にはならない。そんなことも知らないのか?この国の騎士は大丈夫なのだろうか。胡乱な目でおどおどとした騎士の様子を見ているとふと視線が合った。



瞳の色が薄い。青く澄んだその色は北の民によくみられる特徴だ。数年前までは聖教国と呼ばれた地方の民たちであって、神力といった摩訶不思議な力を持つものが少なからずいるという。神官として重用されることの多い者たちだが、現在の公国、つまり中央ではあまり見られない色だ。



そう言えば、5隊が今任務に出ているのがその地方だったはず……




「あ、あの」




爛々としているのは髪の色だけではないのか、と考え、ふとそう言えば今目を合わせていたな、と目の前に意識をやった。




「……なにか」


「あの、よくこの店を利用されているんですよね?」


「まぁ」


「イエイの葉の取り扱いについてご存じないですか!?」





なぜ面識のない人間にこう容易く声をかけようという気になるのか、全く理解できない青年の行動に面倒な思いのまま口を開きかける。店員に聞けと。そうは思ったが口には出さず、ふいとカウンターへ視線を向ける。……老婆はまだ戻らない。取り置きを頼んでおくべきだったか。しかし無駄なものを購入することも避けたい。



「あ、あの」



再び声を掛けられる。その目は私の大嫌いな快晴のように澄み渡り、輝いている。


……あぁ吐き気がしそうだ。




「ソルトレイクの粉末とルルカの樹液を買っていけばいい。代用にはなる」




これ以上相手にするのも億劫で、吐き捨てるようにそれだけを言い目を閉じた。




「……!!あ、ありがとうございます!」




やたらと弾んだ気配を感じたがそちらのほうは見ずに、奥から出てきた老婆の方へと歩み寄り、代金を払う。また頼む、と声をかければニタリとした笑みと共にまたのお待ちを、と返された。




「客層が変わったか?」




苦い顔でちらと後ろに視線をやるふりをすれば、どうやらそうではないと言いたげにくしゃりとしわだらけの顔を歪め返された。まぁ、良い。これきりにしてくれるのであれば。




「あっ、ありがとうございました!」




出口へと向かう扉を抜けようとした所に後ろから追いかけるように声を掛けられ、振り返らぬままに扉を抜けた。


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