3話 修行パートはスキップです!
遅刻しました。ごめんなさい
「違う」
「うぉ!」
「それも違う」
「とぁ!」
「何度言えばわかる?」
「待て待て違うしか言ってねえ!」
現在、師匠にポーションを作ってみろと言われて試しに作っているところだが……かなりやばい。
なにがやばいってこの師匠、間違えれば違うとだけいい魔法をぶっ放す。何度か繰り返せばキレだす。やばいぞこのポンコツ師匠!
「もうさ、一回やって見せてくれ。見て盗む」
まあ実際盗めるとは思ってないんだけどな。
ただ何を違うと言われていたかがわからないって言うね。
「分かった。よく見ておく事」
はい取り出したのは水……あれ魔力篭ってない? ちょっと光ってるけど……はい乳鉢で薬草すり潰して、仮称魔力水に浸ける。で、そこに魔法で水を作って入れて混ぜる。
「完成」
「結構簡単なんだな。で、さっきから指摘してたのはその水ね」
「そう。何回言っても伝わらない」
そりゃそうでしょ。言ってないんだから。
「分かった。んじゃ、次やる」
さっきやってた通りにする。ほー、なんか理科の実験でDNA取り出すやつ思い出すな。やった事ないけど見たことはある。
「完成っと………………アースクリエイト、アクアクリエイト」
効率化の手段を思いついた。実行に移そう。
まずアースクリエイトで作った乳棒もどきですり潰……
「ぬおぁ!」
思いっきり乳鉢が転げ落ちた。そりゃ抑えてないんだから当たり前だよな。
やりなおーし!
それから1時間後。
「よし、取り敢えず妥協点。んじゃ師匠、次……おーい師匠、寝るなー」
「ん? 終わった?」
「たかだか1時間で寝るなよな」
「やってる方は集中できても見てると暇」
そりゃそうだ。
因みに出来た回復役の効果は、HPの5%を回復だった。師匠のは7割なので、まだまだだ。
「効果は……妥協点」
「あれ? たった5%だぞ?」
「割合回復の回復薬は貴重。だから妥協点」
なるほど。難易度が高いわけだ。確かに最初の方は固定値回復だったな。50に始まり、5%の直前は……400か。
「じゃあ次、MP回復」
「うぃ」
そこから昼12時過ぎまで、師匠の講義は続いた。因みに講義時間は合計で30分、後は自分でやれだって。
ひどい師匠もいたもんだな!
「お兄、どこまで進んだの?」
「秘密」
「いやさっさと教えてよ」
「えー」
現在リアルの食卓。適当に作ったうどんで腹を満たしつつ、妹と雑談している。
とは言え一切進んでないどころか多分だけど重要NPCの弟子とか言えるわけねえだろ。
「じゃあ当ててあげる」
「どぞどぞ。当てれるもんならな」
「ズバリ! 最初の街で修行中!」
「ぶっ! ゲホゲホッ」
すげえ、当てやがった。半分だけだけど。
「どう? 当たりでしょ?」
「お前すげえな」
ドヤ顔をかます舞。
まあ不完全な回答なわけだけど、そこを指摘する理由もない。
「まあ今までのゲームでもそんな感じだったしね。演習場の一角でいつも修行している変人ってね」
「まあ今回は目立たない所でやってるけどな。あんなに集られたら堪らん」
昔同じようなMMOをやってた時、魔法と剣を最初の街でただひたすらに振り続けた。結果としてよく目立つ上に、大量の人間から馬鹿にされ煽られ話しかけられ……正直面倒だった。
という事で今回裏路地に入ったのは、目立たない場所を探すためでもあったわけだ。その点師匠の家は完璧だな。
「どうでもいいんだけど、スキル構成は?」
「秘密だ」
「相変わらずプレイスタイル明かしてくれないー」
「明かす必要性がないだろ。合流すればわかる」
「一ヶ月以上先でしょ」
「楽しみにとっとけ〜」
はいご馳走様。
食器を下げて洗い物して……あの、舞? 当たり前のように 自分の皿を俺に押し付けないで? やりますけども。
「ありがと」
「まあ手間はあんまり変わらないからな」
「それじゃよろしく〜、日課サボっちゃダメだよ〜」
「げ、忘れてたよ」
後30分は拘束されるな。調合を続けたいのに……と、愚痴を呟きながら庭に出る。
「ほっ! はっ! とっ!」
準備運動をして、取り敢えずは走り三段跳び。続いて反復横跳び、壁蹴りなどの短時間で終わる物を終わらせ、筋トレ。
ある程度体はきちんとしていないとVRのせいで鈍るからなぁ……。
はい後は適当にバク転やらなんやらして遊ぶだけ。
「しゅーりょー……グハッ!」
横から何か飛びついて……またお前か!
近所の同級生に飼われている犬のライチ。由来は知らん。
散歩中に俺が外にいると必ず飛び込んでくるワンパク小僧だ。いや人間年齢的には年上だけど。
「舐めるな舐めるな!」
「いつもすいません!」
「あ、海堂さん、こんにちは」
「こんにちは風切さん。本当、いつもすいません」
彼女は海堂鈴。俺の同級生で、同中学校出身。
俺と同じ学校に合格した。まあ単純に学力レベルが同じなのと妹が仲良いってだけの付き合いだ。ちなみに俺と仲がいいのはライチの方だ。
「ほーれライチ〜、運動か? 運動だな?」
という事で、ボールを倉庫から取り出して、壁に当てて地面に跳ねて……まあ見た目不規則軌道を取るようにボールを投げてやる。ゲームで取得した技術だ。まあ現実でもちょっと練習したけど。
「ワンッ!」
結局跳んでいる間はボールをキャッチできず、コロコロ転がったボールを持ってくる。但しボールはずっと追いかけていたので、結構満足気だ。
「んじゃ、俺も用事あるから戻るわ。またなー」
「さようなら」
「ワンッ!」
さあ、ゲームゲームっと!
◇◇◇◇◇
「やっぱりかっこいい人です」
鈴は風切の家の庭を出て1人物思いにふける。
実は運動開始時からずっと見ていたのだが(変質者)、彼はその間、一切体幹がぶれる事なく動いていた。武道を修める身である鈴からすれば、それは到達点の一種でもあるかもしれない。
とは言えそれとは別の感情も確かに入っているようだが。
「帰ってゲームしましょう!」
だから、彼の好きな物を自分も好きになろうとした。