29話 怨念の剣
「魔法が効かない、となると物理な訳だけど……毒魔術師って物理ダメージに低下入ってるんだよね」
じゃあ毒が効くのかって言われるとノー。死体に、それも骨に毒はね。
分解毒なら効くんだろうけど生憎とスライムに全部使って今は手持ちがない。
麻痺、あれは筋肉に作用してるから無駄。効いてもダメージはない。
混乱、効果はあるかもだがダメージソースにならない。逆に乱雑な剣の方があそこまで大きいと危険。
沈黙、魔法を使用するのなら使用。ただ、師匠が特定の相手――特に魔力で動くタイプ――には通じないと言っていたので効かない可能性大。
腐食、何に使うの? 鎧を腐らせるの? はい論外。
ん? 鎧を腐らせる?
「ライル! 離れて!」
「了解!」
ウォータークリエイトを1度だけ発動し、出来た水の玉を射出。
それを死霊騎士は剣で切り裂き、魔法が四散する。ボス戦が始まって5分と経っていないが何度も見た光景だ。
だが、今回は違った。散っていった魔法の中から液体が飛び出し、剣を振るった残身のまま一瞬固まっていた騎士に降りかかる。
その液体は、鎧を滴らせ、隙間から中に侵入した。
『グオォォォ!!!!』
初めて見せる騎士の声、その声は苦悶の色を大きく滲ませている。
「なにあれ」
「めっちゃ強い酸性の液体」
とある芋虫の粘液の濃度を極限まで高めたものだ。
錬金術の練習をしていたときに、師匠から出された課題の一つ。生憎と1本しか持っていないが、これで大きなダメージになった。
「いやあれ攻撃できないよ」
「大丈夫大丈夫」
あの液体揮発性高いんだ。なんたって芋虫の警戒信号たる角の臭い成分だから。
「第二ラウンドと行こうか」
目眩しに光と闇の魔法を織り交ぜて放つ。同時に刀に粘液を纏わせて突っ込む。物理ダメージが減少? ならそもそもそれを捨てればいいんだよ!!
「『魔力操作』を入手できたんなら、粘液は『魔力』だよなぁ?!?!」
生憎と魔力操作の熟練度は全然上げれてないから今回活躍できないが、この騎士は魔法より粘液を優先して斬った。つまりはそういうことだ!
「キリュウ口調! セヤァ!!」
「誰も見てねえよ!! オラァ!!」
騎士は俺への迎撃を選び、その得物を向けてきた。
が、残念ながらそれは悪手だ。
「「『アアアアァァァ!!!!』」」
全員の雄叫びが洞窟に響き、そうして同時に止まった。
背後からライルの爪が騎士の首に突き刺さり、俺の刀が騎士の肩口に刺さる。
騎士が俺への迎撃に振るった二本の剣は一本が俺の左側スレスレに振り下ろされ、もう一本は振り抜こうとした姿勢のまま固まっている。
振り始める前に俺が相手の内に入ったからだ。振るえば確実に崩されるからこそ固まる。
そうして、決着は付いた。俺の刀に纏われた粘液が鎧の内部を蹂躙し、そのHPを削って行く。
焦りを感じた騎士が左腕を振るうが、その力を利用して騎士の体勢を崩す。振るえば崩すって言ったのにね。
直ぐに起き上がろうとするも、起き上がる力を使って別の方向へ崩す。同時に左手に持つ剣を奪って首元に突きつける。
「チェックメイト。ってね」
「あ、口調戻った」
「まあもう負けはないしね」
「にしても凄いね」
「何が?」
「そんなおっきいのにそうやって投げて」
投げ……? いや投げてないけど。崩しただけ崩しただけ。
とりあえず、この剣で首斬るか。
「ウェ!? HP消し飛んだ……? もしかして魔法生物であられたか? 怨念から生まれたアンデットじゃないの?」
「愛の欠片もない不味そうな怨念だったよ?」
「もしかしてこの剣って怨念も斬れるの? つっよ」
めっちゃ欲しいな。周回できない?
と、ここでリザルトが出て、騎士から完全に力が抜けた。
「えーっと、怨念の騎士アイリス・サンドル。もしかして女性でした?」
あとアイゼンなんとかって全然違うじゃん。俺の記憶力ゴミすぎんか?
んで、ドロップがっと。
「よっしゃ剣落ちた!!!!」
「おめでとう。他には?」
「怨念の骨と鎧の欠片。後は怨念の結晶だね。多分レアドロ複数だ」
とりあえず剣を出してみる。うん? なんか違う……。
「うわ!」
いきなりライルが俺の頭から飛び上がって離れる。
そして剣に向かって殺意を振りまいて、何やって……? なんか変な感じが
『どうして』
「誰だ?」
『どうして』『なんで』『そうじゃない』『殺す』『こんなにも』『愛してる』『尽くしてる』『想ってる』『違う』『失いたくない』『信じてた』『裏切った』『頑張った』『全て捧げた』『苦しかった』『それだけ想ってた』『私を見て』『誰も見ないで』『死んで』『忘れ』『殺して』『死にたくない』『苦しめて』『呪って』『……いたい』『欲しい』『欲しい』『欲しい』『欲しい』『欲しい』『欲しい』『欲しい』『欲しい』『欲しい』
『『『『『『『『愛して』』』』』』』』
「……ュウ! キリュウ!!!」
「……っはぁ! はぁっ……! クソが!」
これクレーム案件だろ。剣からなんか流れてきたのか……? ライルが居なかったら呑まれてたぞ。
「その剣、憎悪の塊だよ。妄執を愛と勘違いした愚者の、ね」
「なんでそんなもんフィールドボスが落とすんだよ……! もっと前に誰か拾うはずだろ……?
「こういうのは色欲の悪魔が大好きだよ。多分そのせい。多分、バレてる」
クソ、この呪物どうしてくれようか……。しかもバレてるだと?
だとしたらこの怨念の塊のドロップがセンサーになるんじゃないか? 持ってたら確実に見つかる。
かと言って捨てるにも性能が……それに、この剣はあんまり捨てたくないかも。
「…………愛情、か」
「どうしたの?」
「いいや、この剣どうしようかなと」
「捨てなよ」
「勿体ないだろ。使えるものは使えばいい」
ただ次の目的としては足枷になるんだよな。
一度帰るのは論外。かと言って持っていくとそれはそれで面倒。
「…………ライル、怨念を隠す方法ってあるか?」
「あるけど、色欲には効果薄いよ?」
「いいから。隠す以外も対処法全部」
わかった。と言って少し考え込むライル。それを待ちながら、また少しだけ剣の怨念に耳を傾ける。
『〜〜〜〜〜〜〜!!!!』
大量の怨みの声の中でも、やはり聞こえる。
その小さな声は、きっと、
「じゃあとりあえず、怨念を消す方法」
っと、ライルが話し始めたな。
まず怨念を消すには、より大きな感情で上書きする。又は怨念そのものを改心させる必要がある。
次に怨念を隠す方法。これは、人の想いが詰まったものに包めばいいらしい。そうすれば悪魔からはその想いしか見えないそうだ。
そして最後に、怨念を討伐する方法。精神世界という特殊な環境下で、その怨念が形作る魔物を討伐すればいいらしい。
その魔物の強さは怨念の強さによって変わり、また怨念が強すぎると何度も倒さなければならない。
「うーん、消すのと討伐の違いは?」
「消すっていうのは正確には上書きで、感情の強さが不十分だと残っちゃう。そして、上書きした感情が弱まると、」
「また表に出てくる、と。討伐が一番丸いか」
「時間かかるよ?」
「途中で出るのは可能か?」
「うん」
じゃあ討伐を今やるか。
んで、具体的にはどうすれば……? 耳を傾け続ければいいのか?
『 !!』
もはや言葉になってないんだけど、語彙死んだか?
どこだ? どこだどこだ? あの声は……、見つけた!
『もう忘れたい』
「忘れる必要はない」
「キリュウ?」
『思い出したくない』
「それでも想ってしまうのが人の感情ってやつだ」
『私は……!』
「愛する人を幸せにしたかった?」
『…………』
その言葉の後、俺の視界が暗転した。




