20話 何気ない買い物
「ふわぁ」
欠伸をしつつ野戸華の家の前で野戸華を待つ。基本的に女子の準備が長い事は妹がいるので重々承知しているし、恐らく心の準備も必要だろうから急かしたりはしない。しないのだが…………暇。
「スマホゲー今飽きてるからなぁ。ネット小説……は掘ると止まらないから却下。うーん…………魔法で何か遊べないか考えるか」
さっきは火で殲滅したせいで怒られたんだよな。じゃあ別の殲滅方法を考えて……うーん、毒薬使う方向は一旦却下としても……やっぱり雷だよなぁ、多分あれ結構殲滅向きなんだよ。さっきの火はMP600ぐらい込めたから……ていうか俺のMP多くない? 今まで便利だったし全く気にしてなかったけど改めると多すぎる気がするんだけど?
「検索検索ー」
とりあえず先に調べることに。えーっと、ふむ…………属性魔法ごとだけでなく魔法自体に熟練度があり、それを元にMPが算出されているって言う考察が上がってる……なるほどなぁ。……このゲームレベル制ゲームの皮被った熟練度ゲーだったか。死ぬほど俺向きなので良き。知ってたけど。そんで、今の所毒耐性の最大が……レベルⅥまで? 最大でも? そりゃあ通るわけだ。俺の毒普通でもⅦだぞ? うまく行ったやつがⅧ。師匠のレベルにはまだ乗れないなぁ。あの人最低Ⅸとかだぜ? 王国軍勝ち目あるの? ワンチャン重要NPCの方が強いんじゃないの? 大丈夫?
というか思考が秒速で逸れていく……結局MPってのが魔法熟練度を参照し、算出された値である。多分純魔と魔法戦士とかとの差別化を分かりやすくするための措置なんじゃないかな? まあ俺の育成スタイルに合ってるからいいか。
で、俺の毒は今のところは最強の手段になってはいるが、どうせ耐性は上がっていく。しばらくしたら対策も立てたれるだろう。となると毒魔術師である事がデメリットになりかねないよなぁ。あれ魔法威力の補正低いらしいし。やっぱり何かしらの路線があると考えるべきか。……まあ魔法威力は込めた魔力量から算出されるわけだしやっぱり熟練度上げかな。
「お待たせ」
「おう、行くか」
と、野戸華が出てきたので2人でショッピングモールまで歩く。
にしても、似合ってるなぁ。幼馴染の格好は見飽きるとかいうやついるけど、それでも可愛いものは可愛い。
「どうかした?」
「いや、似合ってるぞ」
「あ、ありがと」
「でも……やっぱりな」
野戸華の手は微かに震えている。当然だろう、外に出ている時に交通事故に遭い、母親が死んで、俺が死にかけたんだから。それを思い出して震えるのは当たり前の反応だ。逆に言えば、自分も死にかけたと言うのに平然としている俺がおかしいのだ。
俺はその小さな手を握って、心配なら捕まえておけと言う。自分で言ってて恥ずかしいが、それでもそんな言葉しか言えない、思いつかないのだ。
「んじゃ、行くぞ」
「ん」
手を握ったまま2人で歩く。ポツリポツリとした会話はあるが、話さないことの方が多い。というか普段から俺たちの間で会話が盛り上がるということはない。2人とも別に会話がしたいわけじゃないからな。変な方向に拗れるのも嫌だしな。
特に何事もなく俺たちはショッピングモールについた。
「どうする?」
「ちょくちょくリサーチはしたんだがな、やっぱりこれがいいかなって」
「私も欲しい」
「当然、3人分だ」
「ん」
俺はあるものを手に取ってそれを野戸華に見せる。実は来週木曜が舞の誕生日なのだ。そのプレゼントを買いにきたのだが、あいつ物欲がない。ないというか、そういうのを見せてこないのだ。だから結構頭を悩ませた。衣類は本人がいるところで買った方がサイズやらなんやらも合わせやすいが、今回はサプライズ予定なので却下。
それに、これは昔一度だけ欲しいと言った事があったしな。
そしてそれが俺たち全員の分もあると伝えると、野戸華は嬉しそうに微笑んだ。こいつがこの反応なら大丈夫だろう。俺だと判断がつきにくいんだよな。こういうアクセサリーは。
その後、野戸華がたーっぷりと時間をかけてプレゼントを選び、帰路に着く。実際俺が5分ちょっとなのに対して2時間弱は頭おかしい。決めていたものがなんか微妙だなと感じたとかなんとか…………そのせいでショッピングモール中を歩き回った。
で、今は帰りなわけだが……
「満足か? 休憩と称した本屋は」
「大満足」
と、帰り道の途中にある本屋に立ち寄った野戸華はとてもいい笑顔で買った本を抱えている。すれ違い系ラブコメですか……あとで貸して。そういやお前この間金欠とか言ってなかった? あ、買う本の予定金額を抜いてってことかよ。
「ごめん」
「何が?」
「なんでもない」
そう首を横に振る野戸華。
ほんとは気付いてる。何に謝られたのか、野戸華が何に罪悪感を持っているのか。でもそれを俺は知らないフリをする。それを俺が分かっていると、理解してなお野戸華を許容していると野戸華が確信を持てば……そのままずるずると俺という沼に野戸華が浸かり切ってしまう。今でさえ危ういのだ。今でさえ俺という沼は野戸華と舞を捕まえている。俺が失いたくないと思っているせいで、失えばおそらく壊れてしまうと知っているから。だからきっと、本当に弱いのは……
「帰ろ」
「おう」
まあそんなネガティヴ思考はやめよう。そもそも俺には似合わない。多分。
野戸華にも俺の思考が沈んだのを止められたっぽいし、多分変な空気でも出してたんだろ。
んじゃ、帰ってゲームしましょうか!
無理やり気分を上げた俺は、野戸華の手を引いてうちへ帰った。
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