2話 レベル上げ? いいえ、弟子入りです
「へぇ、自由に使える訓練場とかあるんだ。調合とかの工房は最初は借りれるのね」
開始早々、装備を整えいざ戦闘へ! とはならず、街の探索を行っている。いや設備確認はしたいじゃん?
しかしそれが不運の始まり。まあある意味幸運なんだけど。
「迷った」
あ、先に言っておくが別に方向音痴って言うわけじゃない。ただ純粋に、路地裏の店を見ていたら見覚えのない場所に迷い込んでいただけだ。
「いやそれ方向音痴のやることじゃねえか。まあいい。で? 何の用だ?」
まあそんな些細……些細? まあそんなことはおいておくとしても、こんなベタな展開あります?
今現在、チンピラに囲まれています。
「それはこっちのセリフだ。こんな所に何の用だ?」
なんかナイフを舐め出しそうな見た目をしているチンピラの中で唯一、理性的な目をしている男が代表して話しかけてくる。
「実は道に迷ってな。出来れば大通りまでの道を……いや、一つ情報が欲しい」
「ほう、何だ?」
「そうだな、調合に詳しい人間を知らないか?」
「身なりから魔法使いだと思ったが……」
「それでそんなに構えてたわけか……確かに俺は魔法使いだ。証拠に……ファイアクリエイト」
火の矢を作り出そうと思ったが、それだと攻撃を警戒されるな。
という事で即興で蝶を作り出し空中へ飛ばす。ギリギリ目立たない範囲で四散。
「まあまだ熟練度が足りないから真っ直ぐしか飛ばせないがな」
「…………そう、か。いいだろう。案内する」
「ミルドさん? 良いんすか?」
「ああ。問題ないだろう」
ミルドって言うのか。覚えておこう。話がわかる人でよかった。
「ここだ」
「裏通りのさらに奥地とか誰も辿り着けないだろ」
「偏屈な女が住んでいる。そいつに認められれば調合を教われるだろう」
認められる、ね。
っと、クエスト発生。【偏屈な魔女への弟子入り】ふーん、詳しいクリア条件とかは書かれないのか。
まあ書く必要がないか。
「さ、これ以上ここに留まると何が飛んでくるかわからんからな」
「ん? ちょっと待って飛んでくるって……っ!」
いきなり多数の魔法が飛んできた。
詠唱じゃ間に合わない! 精度は落ちまくるが思考入力で!
その隙に他の魔法を……
火の鳥が飛んでくる。石の鳥をぶつけて相殺、他の属性の鳥や蝶、魚なども……待って待って曲がるな曲がるな!
何でそんな不規則行動できるんだよ!
もはや魔法を変形させることも難しくなり、押し切られそうになったタイミングで、中から女性が出てきた。
どう考えても今回の犯人だ。
しかしMPが完全に切れかけている。何か手は……
と言う事で近くに落ちていた釘を投げつける。VRならダーツを銃弾にぶつけることもできる。
しかし、さらっと生み出された火の玉によって防がれ……おい待て。溶けてるじゃないか。あれ何百度の熱内包してるの?
「ダメじゃん。絶対勝てない」
「終わりかい?」
「いやいや、何の為に魔法を置いたままにしたと?」
家の影になっている場所に風の矢を置いてある。それを射つ!
「やっぱダメージにならないかぁ」
「ふーん、レベル1、ね」
「悪いか?」
ちょっとイラッとくる。いやまあレベル1が何言ってるんだって話だけどさ。
でもここまで撃ち合ったんだから多少は何か言ってくれても良いと思うんだ。
「さっきのは本気の1割以下」
「でしょうね」
「けど撃ち合った。そのレベルで対応を諦めなかった。いいよ。ついてきて」
『クエスト【偏屈な魔女への弟子入り】をクリアしました』
『称号《大魔女エルメシアの弟子》を獲得しました』
ログにそんな事が流れる。おおう、大魔女エルメシア。エルメシアって言うのか。
…………間違いじゃなければ裏切りの魔女の名前と一致するんだけど? なんか存在だけ示唆されてるっていう……。
こう、断片的な情報が妹から供給されるんだけど、クソクエストがあったらしく、その愚痴の中に混じってた。
うん、どうでもいいね! 確か王国に仇なす存在とかいうらしいけどその時は全力でロールプレイすれば良い話!
王国の敵上等じゃい!
「ふぁ?」
やばい変な声出た。
エルメシアに着いて行ったら店に案内された。で、そこにある薬品。まず数がおかしい。合計で1000種類ぐらいあるんじゃないか? あとなんかキラキラしてるやつがあるのと禍々しいのがある。
圧巻の一言です。これ作りたいなぁ。
あと端っこで育てられてる植物。
「なあ、エルメシアさん? とわっ!」
魔法を飛ばすな危ない!
「その名前は禁止。師匠」
「了解だ師匠。これ識別してみても良い?」
「いいよ。けど後で」
取り敢えず着いてこいと。取り敢えず奥に行ってみることにした。
「なあ、汚くないか?」
「ここは私の部屋。と言うか部屋がここしかない」
「俺もここで住むと?」
「そう」
「掃除しても?」
「構わない」
て言うかこれ完全にお前掃除しろってことだろ?
なんでゲームしてまで家事やらされてんだよ俺は。
「師匠さ、明らかに生活能力ないよな?」
「何のことか分からない」
「流石に下着とかも脱ぎっぱなしはひどいぞ」
「むぅ」
反論の余地がないからか魔法は飛んでこない。
「所で師匠? 食事ってどうしてたんだ?」
「…………」
「言わないなら部屋にあったポーション識別するぞ?」
「それはもう分かってるって事でしょ」
「うん。まさか栄養ドリンクで食事をする魔女がいるとはな」
部屋に無数に転がっていた瓶、そして棚の中に並んでいた見覚えのある色合いをしていたポーション。そしてこの生活力のなさ。
まあ予想付くよね。この人完全にダメ魔女だ。
「食材は?」
「一応育ててる」
「でしょうねっと。ちょっと収穫してくるよ」
案内されて裏庭に出る。広いな。
リアルで田舎に帰った時はいつも手伝いしてるからな。その程度なら余裕だ。
「分かった。こっち」
この魔女最初の強キャラ感即捨ててきてるなぁ。
「うわぁ、色々あるなぁ」
「一応薬の材料」
「毒薬にも出来るもんな」
「知ってる?」
「ちょっとな」
昔やったゲームだ。毒を持ってる植物ばかりが出てくる孤島で生き残るゲームだった。因みに島にある植物の99%以上が有毒だった。どうしろと?
しかもリアルで毒があるやつもあったので、地味に知識が増えた。
「ふんふんふーん」
取り敢えず目ぼしい植物を収穫。調味料がちゃんとあるのかすっごい不安なんだけど?
「はい、一応調味料」
「ありがとう……、この醤油いつの?」
「………………」
「おいこら早く答えろ」
「…………5年前」
「よしあっちに保管」
腹下しの薬に使えなくもないだろ。食中毒でだけど。
まあ無駄にはしなくて済むはず。
「はぁ、油だけは豊富なのに感謝すべきだな」
この人火炎瓶とか絶対作ってるだろ。
何種類油あるんだよ……!
あるものをぶち込んで油と塩と胡椒と……保存性のある奴はちゃんと置いてあってよかった。
という事で料理完成だ。
「はい、野菜だけ炒め」
「だけ?」
「だけ」
「お肉は?」
「自分の家の倉庫に言ってくれ」
全部腐ってたよ。熟成してるやつはなかったぞ? 通り越してた。
「腐った肉は何かしらに使うとして、飯を食いながら話を聞きたいんだが」
「何?」
「師匠と呼べと言ったからには俺は弟子の筈だろ? 何教えてくれるの?」
私的には調合がいい。だってやり方わかんねえし。
「調合と魔法。後錬金術」
「錬金術? 素材の合成とか分離?」
「そう」
ほーん、この師匠多芸だな。いや絶対ステ振りは間違えてるタイプだけどさ。生活力に振れよ。
「じゃあ、ご飯食べたら始める。時間は?」
「問題ないよ」
現在午前9時、3時間はいける。
「そういえば敬語は?」
「師匠堅苦しいの嫌いだろ?」
全く会話せずに魔法を撃ち合うって言う選択肢をとった時点でそれは確定だろう。
「その通り。よく分かってる」
「なんか最初に敬語使ってたら要らないって言って魔法飛ばされた世界が見えたぞ」
「可能性の話、どうでもいい」
「だな」
「じゃあ始める」
さぁて、最初は何を教えてくれるのかな?