18話 聖騎士との決闘
「初心者装備の丸腰野郎なんていい経験値だ!」
「お疲れ様でーす」
風の刃で首を掻っ切る。
ゲームスタート時から一切防具を変えていないのでそう思うのも無理はないだろうな。いい装備がないんだよ。それに状態異常主体だからあんまり防具関係ない。
ということでフィールドに出た途端襲いかかって来た初心者狩りを一掃していざ採取へ!
しばらくして
「…………お兄、何してるの?」
「キリュウ、バカ?」
絶賛説教を受けてます。いや、実は囲まれちゃったんだよ。確かに簡単に処理できるんだけどさ、ステラのギルドマーク消し忘れてたのが原因でどんどん高レベルプレイヤーが集まってきたんだ。
で、そんな奴らに自分の手札を無駄に晒したくなかったから…………所持魔力を全部込めたファイアクリエイトを圧縮したやつを使って燃やし尽くしたの。丁度木があったからその上に跳んで火を横方向に蛇みたいにね? そしたら草原まで燃え始めて…………まあ大惨事っすわ。俺もちょっとスリップダメージ受けた。炎耐性のポーションって作れたかな?
「反省はしてるけどレベル上がったからオッケーだな」
「反逆軍的には困るんだけど?」
「ん、ファストレアは大事な拠点」
「ファストレアに被害は出してないからセーフ」
「ここ薬草とかの群生地もあるんだよ?」
「それなら全部回収したから実質被害なし」
「NPCへの薬の供給は?」
「今日納品したからセーフじゃね?」
そろそろこの問答にも飽きてきた。そしてこいつらは大量虐殺に関して何も言ってこない。やっぱりクズだよな?
「生態系」
「どうせお前らも乱しまくってるんだからいいだろ」
ああ言えばこう言うを実行してる自覚はあるんだ。でもさ、ゲームなんだからはっちゃけてもいいじゃん? リアルでは絶対できないんだからさ。
「むぅ」
「言い負かしたいだけならもういいか?」
「あの薬お兄のだったんだ…………」
「なんだ、プレイヤーにも供給されたのか」
勝手にNPCに回されるんだと思ってたわ。実際反逆軍ってプレイヤーどれだけいるんだ? 総プレイヤー人口が、確か600万人だったか? こう見ると多いな。その中で異彩を放つ400人弱のステラというギルド…………。
「反逆軍プレイヤー総数ってわかるか?」
「3000ぐらいだったっけ?」
「そのぐらい」
「ステラのメンバーは?」
「大体入ってる」
「他はスパイでもしてるのかね……まあなんでもいいか」
反逆軍の大半はステラメンバーっと。
反逆側に入ってないやつもなんとなくだがアフロディーには下手に逆らわない気がする。
なのでスパイ判定してよし…………。
と、人の気配がしたので顔を上げる。
「まだ来るのか……」
1人か? 高レベルプレイヤーだな。どう見ても。全身鎧かぁ…………なんとかなりそうかな。
「あれ、聖騎士の?」
「『騎士王女?」
いやなにそれ? て言うかトッププレイヤーっぽいな。
「ーーこの平原で荒らし行為をしたのは貴方ですか?」
「おう。まあ向かってきたやつを殺しただけだが」
「そうですか。では殺します」
「いいね。大歓迎だ」
俺たちが臨戦態勢になったあと、前に出ようとした2人を止める。
悪いがこれは俺たちだけでやらせてもらうぞ。
「お兄?」
「キリュウ?」
「悪いがタイマンだ」
「ええ、そうですね、風切さん」
「リアルの詮索は禁止だぞ、海堂さん」
「そうでした。すみません。申し遅れましたね。ここではリンです」
「キリュウだ。まさかこのゲームやってるとはなぁ」
まあ確かに、道場では習えない対人戦の泥臭さを学ぶにはいい場所だ。ゲームってのは。実戦形式でできるんだもんな。
「さあて、秒でかたがついても文句言うなよ? これは試合じゃなくて殺し合いなんだからな!!」
「レベル差を教えてあげます!」
それはこちらのセリフだ! 相手が何レベだろうが、これまでプレイヤーが到達していない毒の耐性は持っていない! はず!
「ふぅ、あ、メイ。刀持ってるか?」
「え? 一応あるけど?」
「貸して」
多分引きながらとか回避しながらには限界があるはずだ。確か海堂さんの家は有名な剣術道場だった。
「はい」
「サンキュ。悪いな、待ってもらって」
「いえ、ハンデということで」
言ってろ。てか、え? なんでこんな俺の筋力に対応した刀持ってんだよこいつ。まあ今は丁度いいので無視しよう(実際レベル対応の剣が出てくると思ってた)。
じゃあ始めだ! 号令なんて存在せず、俺は一気に距離を詰める。
「まあ泥臭い剣ならわからんが……そうだよなぁ! 模範的だよなぁ?!」
はっはっはぁ! 余裕だよ! 俺に向かって真っ直ぐ振り下ろされる剣に刀を添わせて落とす。そのまま流れで鎧の隙間から首を斬る!
「っと!」
「油断、しました」
「ハンデとか言ってるのが悪い!」
とはいえそう上手く切れるはずもなく、落とした勢いのまま斬り返された。まあ想定していたので避けるが。
「魔法使いでは?」
「一回やってみたかったんだよ。今度リアルでどうだ?」
「それはデ、デデデ」
「デ? まあ隙あり!」
一瞬挙動不審になったので斬りつける!
ただまあ態度とは裏腹にすぐに防がれる。
やっぱり強いよこの人。トッププレイヤーって言われるのも納得。
「けどま、ウォータークリエイト!」
「!?!?!?」
ウォータークリエイトと被せてアースクリエイトも発動する。ちょっと難しいが、発声入力と思考入力を同時にやる技術だ。
この技、結構使える人が少ないのは知っている。だから虚をつけると思ったが当たりだったようだな。
ヒットはしたがダメージはなさそう。結構魔力込めたんだけどなぁ……やっぱりレベル差はあるか。
「次当たったら死ぬと思え」
「魔法防御には自信があります」
「そうか、じゃあ死ね」
リアルじゃこんなこと言えないなぁ。なんて考えながら、麻痺毒、通常毒を込めた魔法を放つ。
毒魔術師最大の強みは、魔法攻撃でありながらポーションとしての効果を発揮できる点だ。通常、状態異常ポーションは瓶を投げつけたり、武器に仕込んだりして使う物という固定概念がある。実際俺もあった。
魔法の中に液体を仕込むという方法は、実は師匠考案なのだ。キリュウぐらいの熟練度であれば余裕でしょ? との事。確かに余裕だった。
そしてその成果がこの職業だとするなら、師匠はこの職業に俺をならせようとしたのではないかと予想できる。
なにをやらせたいのか…………。
「油断大敵だな」
「そうですね……」
俺がここまで思考に耽られる理由は、リンさんが目の前で麻痺って毒のスリップダメージによる死を待っているから。魔法防御を固める事で油断したのだろう。
そして恐らく、この人は俺が初心者相手に混乱を使ったため、そのレベルを低く見誤った。最初から状態異常耐性をつける奴は少ないからな。高くてもⅢぐらいだとでも思ったのだろう。
「まあ、周りでハイドしている奴もアヤカ達が処理したし、これでラストでいいのかね?」
「さあ? どうでしょう?」
俺はケラケラと笑い、そりゃそうだと言う。教えるわけがないわなぁ。
「まあ自爆技はやめて欲しいし、死ね」
「次は勝ちます」
「状態異常耐性上げてこいよ」
「ええ」
俺はその首をはねた。
そしてその場をすぐに飛び退く。が、特に仕掛けはなかったようで何事もなく、後に草原の火災蹂躙事件と呼ばれる事件は幕を閉じた。
キリュウが草原を燃やす予定なんてなかったんや(プロット崩壊)。
はい、修正してたら遅れました。明日も更新します!