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創作雑記  作者: 真白 透
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赤い糸で繋がっている


深夜のビジネスホテル、パソコンで資料を作り直す。外は雪が降っていてしんと静まり帰っている。


「あそこの課長いつも会うと電話で言った事と違う事言い出すな。」


だからと言って資料を作っていかない訳にもいかないし、缶ビールを飲みながらイヤホンをパソコンにさす。音楽でも聞かないとやってられない。

そもそも誰もここの出張はやりたがらない遠いし取引先はいつもああだし、私だって理由がなければ。

ふとスマホを見るとメッセージが1通来ている。


着いた。何号室?


「本当に愛想のないメール。」


苦笑しながら返信する。


602だよ。ノックしてくれたら開ける。


送った後に気が付いたけど、私も大概かも。音楽を止めてイヤホンを外す。5分程でノックの音がする。


「久しぶり。」


「ああ、久しぶりだな。」


「なんか健吾少しだけ太った?」


外が寒かったのか少し顔が赤らんでいて冷えた頬、昔から変わらない笑顔で私を抱き寄せる。セットされた髪が少し乱れている。雪の中を急いで来てくれたのかもしれない。健吾はコートを脱ぎながら部屋に入ってくる。コートをハンガーにかけて靴箱の上に自分の部屋の鍵を置く。濃紺のスーツがとても似合っている。胸に私が誕生日にあげたボールペンがささっていてにやけてしまう。


「お前なぁ、いきなり会って一言目がそれか?」


「ふふ、ごめんごめん。」


「ねえ今日は朝までいられる?」


「ああ、友達と会うって言ってある。」


「そっか。」


良かった明日の朝まで一緒に。それからもう一強く度抱きしめた。


「これでもあのドラマに出てた、あー誰だっけあの主役?に似てるって言われるんだからな。」


何かを察して健吾が話をすり替える。健吾はいつも優しくて私の異変にいち早く気付いてくれる。


「はいはい、かっこいいよ。」


そんなドラマの主役よりずっとかっこいい。久しぶりに見た健吾は銀行マンらしく身なりも整っていて見とれてしまう。そんな私に気が付いたのか右手で頬を撫でながらキスしてくれる。


「もう飲んでたのか?俺にもくれよ。」


「はいはいどうぞ。」


ビールを渡す。手が触れるのも少し恥ずかしい。久しぶりだからかもしれない。


「仕事はどうだ?今日は上手くいったか?」


「いつも通りよ。またやり直し。」


「大変だなお前も。」


「お前も?どうしたの何かあった?」


「大丈夫だよ。何も無い。それよりもう少し傍に来てくれまた当分会えないんだからお前を覚えておきたい。」


「うん。」


きっと何かあったんだろうな。家族の事かな?健吾は私を前に座らせて手を握ったり抱きしめたりキスをしたりを何度かした後、後ろから抱きしめて私の肩に頭を置いている。やっぱり何かあったんだろうなぁ。でも弱ってて甘えてくれるのがとても嬉しい。


「このまま、このまま時が止まればいいのに。」


「ああ、そうだな。それができたらどれ程いいか。」


健吾が力強く抱き締めてくる。叶わない事だと分かっているそんなものは幻想だと。だから目を閉じている何も見ないように考えないように。

私が出張でこっちに来た時だけ月に一回だけ会える。健吾は家族に何と言ってここに来ているのだろう。


「ねえお風呂に入らない?」


「一緒にか?」


「うん。」


「ふっいいよ別に。」




「結構広いな、頭を洗ってやるよ。」


「うん。後で乾かして。」


「お前なぁ。」


そうは言いながら髪を洗ってくれる。浴槽に2人で入ると健吾はおじさんみたいに声をあげながら肩までつかった。


「おじさんじゃん。」


「馬鹿、お前もそうなるぞ。」


「うへぇ嫌だわ。」


鼻歌を歌う健吾にもたれる。良かった少しだけ元気になったみたいだ。

健吾は文句を言いながら髪を優しく丁寧に乾かしてくれる。


「そろそろ寝ようか?おいで。」


ダブルのベッドに2人で寝転ぶ。いつも追加料金を会社に払ってダブルの部屋にしておく。ある時何故そうするのかと聞かれて何食わぬ顔で折角だから伸び伸びと眠りたいと馬鹿っぽく言うと何も言われなくなった。


「眠りたくない。」


最近いつもこうなる。眠って朝が来るのが憎らしい。


「子供じゃないんだから、今度は俺がそっちに行くからさ。そしたら好きな所へ行こう。」


「そんなの無理じゃん!人に見られたらどうするの?」


「別に見られたって。」


「そりゃそっちはいいよ!でも私は!」


健吾は黙ってしまう。何かを言いたげだが黙っている。


「健吾、お願い嫌いにならないで。」


「そんな事有り得ないよ。お願いだ泣かないでくれ。」


健吾は布団の中で手を握ってくれる。温かくて安心するけど、その温かさが辛い。


「なあ、結婚しようか?」


「そんな事無理じゃん。」


「すぐは無理だけど、いつか。」


「いつか?」


「ああ、いつか俺達の事を知ってる人がいない所で。」


今度は私が黙ってしまう。そんな夢見てもいいの?縋るような瞳で健吾を見るとまたあの笑顔で微笑んでいる。だったらその甘くて悲しい夢に私も縋ろう。


「ありがとう、健吾ありがとう。」


「ああ、寝よう。ゆっくり休みなさい。」



そして朝になり健吾は先に部屋を出た。お土産の漬物を置いて。




「おかえりなさい。」


「母さんただいま、これ兄ちゃんから。」


「うわぁ、これ有名な店の漬物ね。健吾も気がきくじゃない!」


母さんは嬉しそうに紙袋の中を見ている。一通りはしゃぎ終わると私をじっと見て、


「ごめんねあんた達仲が良かったのに引き離して。」


「仕方ないよ。離婚する時兄ちゃんは父さんの事が心配でついていった、でも同じ位母さんも心配だったから私に任せるって言っただからこれで良かったのよ。お願いだから出張の度に言うのやめない?」


「そうね、ごめんなさい。正直、あの人と別れた事は後悔してないの、でもあれだけ仲が良かったあんた達の事はずっと後悔してるの。血の繋がったたった2人の兄妹なのに。」


と言って顔を伏せてしまった。


「良いって、仲はいいけどたまに会ってご飯食べて母さんと父さんの話をするだけだから。」


「ありがとう。あんた達は本当に優しいわね。」


「だから大丈夫だから。部屋に行くね。」


「はいはい、洗濯してあげるから出しなさいよ。」


もういつもの調子で階段の下から叫んでいる。


「ありがとう!」


バタンと扉を閉める。一度だけ話し合った事がある。家族が、父さんと母さんが亡くなったら一緒になろうと。父さんも母さんも優しくて大事に私達を育ててくれたのに、こんな考えが過った私達兄妹は地獄に堕ちるだろう。


それでも、そう分かっていても私達は離れられない。



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